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雑木の庭つくり日記

越谷市の庭 緑の車道を作る   平成27年10月22日


 先月末からかかり始めた埼玉県越谷市の庭の改修、環境改善工事、その一期工事がまもなく終了します。
 芝生スペースは、これは車道として機能する、呼吸浸透するクッションのような緑の道です。車圧に耐えてなおかつ大地の通気浸透機能を失うことなく、健康に息づく土壌環境を維持するために、見えないところで様々な工夫を凝らしています。車道に単に芝を張っても、車圧を受けて土が締まって土中の水と空気の流れが滞ってしまえばよい状態を維持することはできません。
 一方で、車圧に耐えて水と空気の流れを常に再生できるだけの土壌環境、路盤の構造を自然の理に基づいてきちんと構築しさえすれば、今や宅内敷地のかなりの面積を占める駐車場や車道も、大地が息づく緑の空間として保つことも可能なのだということを多くの人に知っていただきたい、そんな想いで、今回の工事手順をここで紹介したいと思います。



 造園工事着手時の庭。砂利の道は、アスファルト道路を解体した下地の状態です。
家の目の前に、植栽による緩衝スペースもないままにアスファルト道路がありました。
 住まいの微気候を改善し、夏は涼しく冬は暖かい、そんな住環境を作る上で最も重要なスペースを占めていたこの道路を解体し、移動することから工事は始まります。
 
 この土地に今の家が建って40年、田んぼを埋めて造成された土地は常に水はけが悪く、土の表情や生えている苔や草の様子からも、表土が呼吸していないことが容易に読み取れます。
 呼吸しない土壌環境では空気はよどみ、ひんやりした土の香りも感じられず、夏にはむっとした不快な空気感に包まれます。
 大地の呼吸環境を健全な状態へと改善することなく、本当の意味で健康で心地よい庭などあり得ないのです。



 もともとそこにあった木々を移動して、既存のアスファルト道路を解体撤去し、そして適切な位置に新たな車道を通していきます。



 車道工事着手の際、大地の透水性を試験します。雨の前日、表層60センチ程度の深さで穴を掘り、そしてその水のひき具合を確認したところ、2日経っても水はひかず、雨の翌日はたまった水をくみ出してもまた、周囲から水が集まってきて溜まってしまうという、極度に水がはけにくい環境であることが分かります。
 健康な住まいの自然環境をここに再生するためには、単に木々を配して景観ばかり整えればよいというものではなく、この、土壌の通気性、浸透性を改善することが必要不可欠になります。



 水が浸透しない表土を掘り下げます。地下1m程度までは固く締まったやや粘土質の土層が続き、そこには樹木の根はほとんど入ることができません。
 その下には、グライ土という、酸素欠乏状態の下で青くヘドロ化した土層がどこまでも続きます。このグライ土が空気と水を通さない土層となるため、水は地下の水脈に抜けてゆくことができずに土中で滞ってしまい、呼吸できず、植物の根もなかなか進入できない硬い土のままに改善されることのない、そんな状態が続きます。



 敷地の地下を覆い尽くすグライ土。水と空気が動かない箇所では酸素が供給されず、土壌中の酸素が奪われて還元作用によって青く変色し、そしてそこには一部の嫌気性細菌とバクテリアしか生息することのできない、そんな汚い土が今、私たちの足元を覆い尽くしつつあるのです。

 今年、東京や大阪などの都市部を中心に史上最悪の被害者を出した人食いバクテリアも、こうした土壌の悪化に象徴される生態系の劣化、単純化が招いた結果と言えるでしょう。
 歯止めのかかる気配すら見えない生態系の劣化を食い止めることでしか、人類の健康な未来はありえないのです。

 このグライ化土壌は、40年前の盛土の際に埋めたてられた、当時の表土だったのでしょう。それが、大地が呼吸できない状態の下で劣化し、かつての土壌はこの40年の間に完全に悪質で不健全な状態へと変わり果ててしまったのです。

 こうしたことは何もここだけのことではなく、大地の通気性や浸透性を全く顧みることのない現代土木建築の手法が招いた結果であり、それが私たちの豊かな生存の基盤を広範囲に奪い去ってゆくのです。このことに社会が一日でも早く気づき、方向転換していかねばならないことを、造園工事の現場でいつも実感させられます。



 そしてそのグライ層をさらに80センチほど掘り進むと、水が動く水脈に到達しました。縦穴をあけることによって土の側面から空気が抜けて、それに引っ張られるように土中のたまり水が集まり、そして流れていきます。



 水が動く層は、ここでは地下1.8m。こうした縦穴を敷地内の要所に掘削していきます。



 そして縦穴通しを繋ぐ横溝を掘削し、表土から水が浸みこみやすい状態を作っていきます。

 グライ化した悪質な土壌を改善するためには、その土層に空気と水を通してゆくことが確実で即効性があり、そのためにはこうした横溝と縦穴の掘削が非常に効果があります。

 自然環境を無視した道路建設や建造物、人はこれまで、点と線によって、広大な大地という面全体を劣化させてきました。
 その逆に、広大な面全体を、呼吸する健全な大地へと改善するためには、縦穴と横溝、つまり点と線の作業によって健全化させるきっかけを作ることができるのです。

 

 そして溝には、幹枝葉といった有機物を中心に絡み合わせて表層を安定させていきます。



 新たにつくる車道の両脇に横溝と縦穴を掘削して有機物を埋め込み、そして竹筒で気抜きをしていきます。
 路床(道路の下地)には、砕石とウッドチップ、木炭を混ぜてクッション性と通気浸透性を保つ状態を作っていきます。

 水はけの悪かったこの土地も、一連の工事の過程で飛躍的に改善されてきました。



 石組みや植栽などの造園工事は、こうした土壌環境を改善してからようやくかかりはじめます。



そして、土留めの石組みの背面にも、剪定枝葉を挟み込んで、土と石との間に水と空気の抜ける層を作っていきます。
 今ではよく石積みの背面の水を抜くために砂利を詰めますが、植物の根を早期に誘導するには砂利などの無機物だけでなく、植物枝葉などの有機物が効果的なのです。

 江戸時代、城石積みの背面に大量の藁が詰められたことが文献資料によって明らかにされていますが、これこそが、石積みの強度を木々の樹木根によって補い、透水性と通気性に優れた状態を保つことで、豪雨でも洪水にも流亡しない強靭な城を築いてきたのです。
 植物の力、特に目に見えにくい土中の根の働きを見直し、そしてかつての先人たちのようにそれを賢く活用してゆくことで、洪水にも津波にも耐える強靭な国土が再生できるのです。
 大地の呼吸を止めてしまうコンクリート一辺倒の国土改悪の果てにあるものは、さらなる災害被害なのだということを社会はきちんと知る必要があります。



 石組みの背面だけでなく、竹編み土留め柵の背面にも、剪定枝葉を挟み込んで土を埋め戻していきます。
 これによって樹木の根はここに細根を張り巡らして、数年後に竹が腐って土に還っていった後にも決して流亡しない、健康な土手が完成するのです。



 既存木の移植を終え、道路際の土留め柵を終え、いよいよこれから植栽にかかります。



 植栽は常に、住まいの環境改善上最も重要な家際の高木から始めます。



家際に木々が植わると一気に家屋の表情は潤います。



 木々越しの家屋の佇まい。



家屋側から見た庭の表情。家際の高木が土地の雰囲気を一変させます。



 植栽が進んだところで、同時に車道の仕上げにかかります。



 ウッドチップ砂利、木炭を混ぜながら重ね合わせていき、柔らかでかつ、車圧に耐える下地を作っていきます。



 さらにその上に敷く下地材を配合しています。多孔質で水持ちの良い瓦粉砕チップにウッドチップ、土を混ぜて攪拌します。



 これを車道に敷き重ねます。

 

 その上に粉炭を撒き、



 呼吸する車道の下地の完成です。



 そしてその下地の上にうっすらと土を敷いていき、



 そしてそこにノシバを張っていきます。
 つまりここは、芝を中心とした野原の車道となるのです。



 呼吸する緑の車道の完成です。
 お施主のAさんは、「孫ができたらここでサッカーもできる」と喜んでくださいます。つまり、人と車、そして土中の生き物たちが共存する緑のスペースがここに実現しました。

 宅内の車道や駐車場というものは、車の出入りは多くても一日に1~2回程度です。それだけの通行であれば、そこを緑に覆い尽くすことなど、本当は造作もないことなのです。

 それをあたかも常に車が行き交う幹線道路のごとく、コンクリートやアスファルトで覆い尽くして土中の通気浸透性や健全な生き物環境を奪う意味など、本当は全くないのです。
 車社会の今、敷地には必ず車道や駐車スペースが一定の面積を占めます。これを心地よく水と空気の通り抜ける環境として活かすか、あるいは従来のような無機的で呼吸しない不健全な環境としてしまうか、そんなことを今一度考えていただきたいと願っています。

 こうした些細な改善が、安全で快適で持続的な生活環境の再生に確実につながるのですから。



 庭を作る度、その土地の環境を健康なものへと再生してゆくこと、それこそがそこに住む人の安全と健康に繋がることを実感します。

 
 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
呼吸する緑の駐車場をつくる。     平成27年9月27日  


 先にご紹介しましたつくば市Mさんの住環境つくり工事、駐車スペースも完成いたしました。
 呼吸する土壌の通気透水機能を保持する駐車場は、穏やかな木漏れ日を浴びて雑木の庭と家によくなじみ、施工直後でも違和感を感じさせません。
 


 この駐車スペースは来年にはノシバが芽吹き、ここちよい緑の駐車場となってゆくことでしょう。
 播種したばかりの芝が芽吹いて力強く広がってゆくまでにはまだ、時期的に時間を要しますが、日常的に車の出入りするスペースにあって、駐車場という機能をきちんと保ちながらも、大地の呼吸は円滑に維持されて緑に覆われる、そんな施工を期しています。



 駐車場というと、一般的な先入観においては無機的で殺風景なイメージが伴うのが通常でしょうが、大地の冷気を吸い上げて清冽な空気が流れるこの駐車場は、施工直後でまだ緑が芽吹いていない状態でもなお、しっとりとした柔らかな落ち着きが十分に感じられ、その場の空気感を和やかなものにしてくれます。

 人が健康を保つために、住環境における大地の呼吸環境の重要性が、今後ますます認識されてくることでしょう。
 そして近い将来、住環境において、無機的に土壌の通気環境を閉ざすことをなるべく避けるような工法が必要とされることでしょう。
 その中でも、住宅敷地の中で一定の割合を占める駐車スペースの土壌が息づくものとなって通気透水性が保たれれば、都会の汚れた空気もずいぶんと浄化され、ヒートアイランド化も緩和され、なおかつ大雨の際の洪水のリスクも大きく軽減されることに繋がるのです。

 健全な自然の営みと機能が、健康で安全で快適な住まいや未来の街づくりに活かされるよう、こうしたノウハウを、これからも積極的に公開していきたいと思います。



 建築の際に敷き詰められて締め固められた厚さ20㎝もの砕石、この段階から、息づく駐車場へと、あまり手間やコストをかけることなく変えていきます。

 この締め固まった砕石を除去する必要などありません。まずは、横溝を掘って土中地形の落差を作り、それによって砕石層の中にも空気と水が流れてゆく環境をつ整えます。

 土中通気水脈再生のための横溝や縦穴の深さは、自然水脈が深い位置でどのように再生されてゆくか、大きな視点で全体地形や周辺構造物を見て判断します。
 ここでは、周辺地形は道路側へと地形傾斜が続き、そしてその1キロ先に河岸段丘が落ち込み、2キロ先の桜川へと続きます。
 つまり、深層水脈はその方向へと走っていますので、敷地の水脈も道路側へと導き、そして道路の下を超えてゆくような配慮が必要です。



 道路の車圧や締め固められた路床、コンクリート側溝の重圧の及ばない位置へと敷地の水脈を誘導するため、道路際の横溝を深くし、さらにそこから深さ1mほどの縦穴通気浸透孔を数か所掘ります。
 つまり、路面から地下1.6m程度の深さにまで土中の浸透水を誘導し、そして深層水脈へと繋がってゆくように配慮します。



 道路際、竹筒による縦穴通気浸透孔と横溝水脈。土壌の通気浸透性を自律的かつ持続的に改善してゆくためには、必ず有機物を用いることが必要になります。
 有機物を土中で腐敗させることなく、好気的に発酵分解させてゆくためには、土壌通気の確保と、媒体としての木炭などの炭を使いこなすこと、そのあたりが鍵となります。



 有機物を用いた通気浸透水脈が永続的に機能させるためには、やはり草木の根の力を借りる必要があります。ここでは、駐車場の使用に抵触しないデッドスペースに点々と苗木を混植して、その根が2~3年以内程度で駐車場の水脈全体に張りめぐらされて、太くなった根が代わって地盤を支えられるように配慮します。

 実際の駐車場の仕上げは、こうした水脈造作によって健全な土壌通気環境を整えた上で、ようやくはじめられるものなのです。



 溝や縦穴を掘った際に出た掘削残土と砕石を混ぜ合ながら、表層に敷き均していきます。



 その上に炭を敷き詰めた後、やや発酵が進んだ段階の細かなウッドチップを薄く敷きならします。



 ウッドチップを丁寧に敷きならした後、再び炭を撒き、



その上に今度は細かな土をまぶしていきます。



 そしてその上に、粒度をそろえた砕石を敷き詰めて均していきます。



 粒度調整砕石敷設後。その後また炭を撒きます。



 そしてまた細かな土を薄く撒き、



 その上から再度、ウッドチップをさらにうっすらとまぶし、また炭を撒きます。
 そしてその上からノシバの種を撒いていきます。



 そしてこれをホースで散水し、土や芝の種やウッドチップをを砕石の間の隙間に沈めていけば完成です。
 
 あとは、芝生の発芽を待つのみです。土圧は粒度調整砕石が支え、ウッドチップはクッションとなり、そして隙間の土や芝の種は圧密されることなく、土壌も通気透水性が保持されます。
 施工直後から、大雨が降っても泥が上がってくることや道路への流出は全くありません。



 なんとも穏やかな駐車場の表情です。砂利と土、有機物と炭、安定した環境を再生するためには無機物と有機物の双方の組み合わせが不可欠であって、そしてそれを繋げてゆく触媒的な役割を、植物遺体の炭化物である木炭などが担うのです。

 大地の循環、無から有を生み出す源こそが呼吸する大地であって、その仕組みをよく理解すれば、どんな環境でもそれなりに息づかせてゆくことができるものです。



 駐車場も庭も、どちらも大切な住環境の一部です。庭だけ美しくしても駐車場が無機的で殺風景なものであれば、住まいの環境としては、その可能性を十分に活かしたものには決してなりえないのです。
 息づく土壌の再生こそが、快適で健康な人の住まい環境つくりに直結し、そこを忘れて形だけ整えようとしても本当の意味で快適な環境は生まれません。
 これからの時代、こうしたことをみんなが考えて、わずかな敷地であっても健康に呼吸する大地を取り戻してゆくことができたら、きっとふるさとは、再び愛着の持てる優しい表情と空気感をもたらしてくれることでしょう。
 それはそこに住む人の健康、心の健康にも直結するのです。



 ブログでおなじみのちばダーチャフィールドの敷地内車道も、大地の呼吸環境改善によって、自然と心地よい野生の芝に覆われました。それは最近の公園緑地などのような呼吸しない硬い地面に植えられた芝と違って、表情は優しく、ふんわりと、心地よい空気と土の香りが漂って、そこで子供たちは、まるで数十年前の光景のように全身で駆け回り、時間を忘れて遊びます。

 こんな光景を見ると、いのち息づく環境の再生こそ、人の再生、社会の再生、そして本当の豊かさを取り戻すための最も大切なことだということを、改めて確信させられます。

 Mさんの駐車場、その後の変化はまた、ブログにて紹介していきたいと思います。





投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
つくば市の庭 明日完成!       平成27年9月19日


 今月から2期工事にかかり始めたつくば市Mさんの庭が、あとわずかとなりました。明日、駐車場を仕上げれば完成です。




 こじんまりとした家屋の佇まいが心地よい平屋家屋を建てられたMさんご夫妻の念願の新居です。
 新たに開発された水はけの悪い新興住宅地にあって、水も空気も心地よく流れる、人にとっても木々にとっても快適な環境を作るべく、見えない部分で様々な造作を凝らしています。



 植栽してまだ数日ですが、新たに生まれた住まいの森にツクツクボウシが一匹。
 雨上がりの残暑となった今日の午後を精いっぱいの声で歌います。



 ウッドデッキと木柵などの木工事と、駐車スペースの仮工事を中心とした一期工事が終了したのが今年の春。
 念願の新居だというのに、この状態でMさんは半年もの間、根気よくお待ちくださいました。。。
 
 お客様をお待たせするのはいつも心苦しいのですが、「待った甲斐があった。」と言っていただけるよう、施工の際はいつも全力でできうる限りのことをさせていただいております。
 ともかくも、この状態から2期工事のスタートとなりました。



  今、私たちの造園工事はまず、大地の呼吸環境の改善から始まります。
  人間が、人間だけでは決して持続的に生きていけないのと同様に、木々も、様々ないのちが息づくことのできる健康な大地の環境でこそ、末永く健全に優しい表情を見せてくれます。
 そこに住まう家族の心身の健康を養うという、大切な役割をもつのが庭の草木や生き物たちなのですから、彼らが健康に生きられるように配慮する、そんな当たり前のことを私たちは、再び思い出さなければいけません。



 大量に流れる屋根からの落ち水を、この土地本来の地下水脈の動きに連動させるように誘導することで、開発造成によって停滞した、この庭の土中の水と空気の流れを再生していきます。
 単に暗渠として「流す」のではなく、途中に点々と、深く浸透させてゆく縦穴を要所に配して、自然に近い多彩な水と空気の動きを再生していくのです。



 縦穴通気孔には竹筒を差し込み、その周囲を枝葉等の有機物を絡ませながら、埋め戻します。
この枝葉は、竹筒を通して空気と水が円滑に条件の下で徐々に分解され、その過程で土壌生物環境を豊かに育んでいきます。
 そして、この通気のよい土中環境に吸い込まれるように根が伸びていき、そして数年という短い期間で草木の根がこの筒の周りに張りめぐらされ、通気のよい土中の環境を樹木の根が代わって守り支えるのです。



 土の中の通気のよい場所に、草木の根は吸い込まれるように伸びていきます。数か月前、植栽と同時に周囲に埋設した竹筒通気孔の表土を掘ってみると、わずかな期間で木々の細根が吸い寄せられるように、この竹筒へと伸びている様子が分かります。

 草木根はじめ、土中の多彩な生き物たちもすべて、私たち人間と同様に息をしています。
 住宅造成の際、あらゆるいのちの源であるはずの土壌は、単に建築物を支える基盤(地盤)として考えられる中、締め固められて蹂躙された土は呼吸不全に陥り、通気性も透水性も失ってしまいます。
 同時にそれはいのちの再生の欠かせない、、水と空気の浄化再生能力さえ、失なわれてしまうことになるのです。

 空気と水が流れていかない、そんな土壌環境が今後も増え続ければ、大雨の際、浸透せずに排水溝に流れ込んだ雨水はダイレクトに川に集まり、ますます洪水のリスクを増すことになるのです。

 国土強靭化とはさも簡単に言われますが、私たちの命を守る本当の国土強靭化とは、大地の呼吸環境の再生、自然環境の健全化なくしては決してありえず、現代土木の思考に基づく大きな力で抑え込もうとすればするほど、自然のしっぺ返しはより大きなものとなって私たちに跳ね返ってくるのです。

 かつてのニワ、木を植えるという行為は、土地を守り、水を守り、いのちの環境を守る、そんな役割を意識して、あるいは無意識にもきちんとわきまえて、永代の人と自然との共に心地よい環境を育てようとする視点があったのでしょう。その結果として、今もなお、のどかで有機的な風土の欠片が、わずかながらも辛うじて残っているという事実を再び思い起こす必要があります。
 すべては過去の尊い営みに支えられて、私たちの今があるのです。
 今の社会、私たちは子供たちが生きる未来に対し、どんな風土や環境を守り伝えていけるのでしょうか。
 環境再生の現場仕事を通していつも、今の社会の盲点に気付かされます。
 


さて、水脈改善も終えて、動線の配石も終わり、いよいよ健全化された環境で、庭は植栽を今か今かと待ち望んでいるように見えます。



 雨樋の水は鎖を伝って、水鉢で受けます。その下に段階的に浸透してゆく土中環境を整えています。
 これによって、雨が降って水が大地に深くにしみ込む度に、水脈をのストローに引き込まれるように空気が吸い込まれ、土中深い位置まで空気が入り込む環境が恒常的に再生されていくのです。



 樹木植栽後の庭の表情。
 生き生きと呼吸できる環境に引っ越した木々は、夕日を浴びて喜んでいるように見えます。



 それにしても木々の力はその場の全てを一変してしまうほどの潜在力があります。
 その力を最大限に引き出すのが、私たちの仕事の妙味でもあります。




 駐車スペースから庭へのこじんまりとしたエントランスの表情。
 そして今日、駐車場の仕上げにかかります。



 駐車場といえども、住まいの大切な環境の一部ですので、有機的で潤い感じる緑の駐車場を作ります。
 駐車場工事もやはり、水脈環境改善から始まります。水と空気が停滞しやすい道路際の溝掘りです。



 そしてそこにやはり、縦穴通気孔と横溝には透水コルゲート管を通します。この際の縦穴の深さは、舗装道路の土圧の及ばない深さまで掘ることによって、道路を超えて水脈を誘導し、道路下の車圧の影響を受けない深い位置にまで、樹木の根を誘導していくのです。
 通気のよい土中環境が維持されれば、木々が舗装を持ち上げて壊すということもありません。

 街路樹の根上がりによる舗装の持ち上げは、木々の根がきちんと呼吸できる環境へと改善されればすぐに収まるばかりでなく、街を潤す木々も心地よい表情で健康に生き続けて、私たちの街の環境を守ってくれる、本当はそんな簡単なことなのです。



 そして剪定幹枝や石を絡ませながら、通気のための隙間を守りながら埋戻していきます。
 車圧に耐えうるよう、沈んでいかないように一工夫しながらの作業です。



そして、水脈の上、駐車場の使用に支障のないスペースに3か所ほど、木々の苗を密植混植しながら植え付けていきます。
 主にカシやコナラの苗で、これらの根が水脈を通して駐車場に巡り、車圧のかかる地盤を支え、土中の通気環境を維持するのです。

 生け垣のことを、かつては「垣根」と呼びました。つまり、木々の根による垣(外との隔て)、という意味です。
 住まいを建てる際、敷地の周りにまず溝を掘って、そこに生活排水が誘導します。
 そして、掘った土を住まいの周りに盛り上げて、そこに苗木を植えていきました。
 盛土に植えられた苗木は、外周の溝との地形落差によって水と空気が円滑に動く土壌環境において、健全に育ち、土中に張りめぐらされた根が、幾度となく押し寄せる大雨や洪水からも、生活環境を守り抜いてきたのです。



 駐車場の造作にかかり始めた今日、一日がかりでその下の大地の呼吸環境の改善に費やします。
 見えない部分になぜここまでやるのか、それはそこに住む人にとって心地よい環境を作るために、必要なことだからなのです。
 心地よい環境とは決して、見た目ばかりの景観だけではありません。
 大地から、心地よいにおいと共に、健康な土の中で浄化されたきれいな空気が湧き流れ、そして木々も生き物も健康で安心した表情を見せる環境こそ、本当の意味で人にとっても心地よい環境なのだと感じます。



 水脈造作や要所の植樹を終えて、いよいよ明日、駐車場の仕上げにかかります。
 駐車場は芝生の播種によって、庭と一体化した緑の空間を目指します。
 播種した芝生が健全に育ってゆくためには、何よりも土壌の通気が大切で、それが確保されれば芝生は、車圧のかかる環境にも十分に耐えうる力を持っているのです。
 播種した芝が芽吹いて伸び、駐車場を覆うのは来年のことでしょうが、来春以降の生き生きとした庭の成長を夢見ながら、明日、この庭をお引渡しいたします。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
幼稚園の環境改善工事を終えて     平成27年9月6日

 お盆明けの工事を一つ、ようやく終えて、久々に心静かな日曜日を迎えました。仕事を通して感動を得て、そしていつも新たなことを学んでいきます。今回もそうでした。
 めまぐるしい日々の中、想いをブログでご紹介できることはいつもほんのわずかなのですが、久々のこんな静かな日曜日には、少し想いを伝えることができたらと思い、ちょっとご報告したいと思いました。




 ここは東京都小平市 なおび幼稚園。2年半前に植栽した木々はこの夏、涼やかな木陰を広げてくれています。



 園庭の外周には、子供達200名と一緒に植えた木々の苗は大きく成長し、2年半を経て、いまや高いところで4mを超える樹林帯となりました。
 わずか30㎝の苗木、小さな子供たちと一緒に植えたポットの苗木が、わずかな月日でこんなに立派に育ってゆく、こうした光景を目の当たりにすると、造園という仕事の常識まで問い直される思いがいたします。



 造園的にはおおよそ順調に景観が育っているように見えますが、実際にはこの庭も10年前の園舎改修以降、根本的な大地の環境劣化が進行していたのです。
 
 自然環境に対してよほどの愛情を持ちえない限り、あまり気付くことはないかもしれませんが、根本的な生き物環境の劣化は日本中で今や加速度的に進んでおり、そうした園庭の変化に気づいたこの幼稚園の園長先生は、健全な環境再生を私に依頼くださったのです。

 園長先生は言います。

「確かに木陰は増えて心地よくなったけど、この木陰は昔の木陰とは違う。なんていうのかなあ、昔の木陰は、そこに行くとひんやりと土の匂いがして、ふかふかの土の中に虫たちがたくさんいて、見上げると木の上に虫や小鳥の声が聞こえる、子供たちにそんな木陰で遊ばせたい。木陰があればいいってものじゃなくて、昔のような本当の木陰のよさを取り戻したい。」
 
 園長先生はさらに言います。

「10年前に園舎を建て替えて以来、土が硬くなって芝生もなくなってきた。何より今年は特に生き物が少ない、トンボも蝶々もバッタもコオロギもほとんど見かけないし小鳥も少なくなった。木があるだけじゃなくて、ここが昔のように生き物でにぎわう、そんな環境にしたい。」

そんな園長先生の素晴らしい想いに感動し、さっそく園庭の改善工事に取り掛かることになったのです。



 2年半前の植栽の際、柔らかで肥沃な土に入れ替えたのですが、それでも地中の空気と水が土中で滞ってしまえば、土壌は呼吸できずに急速に劣化し、そして生き物が生育できない硬い土壌へと、短期間で変わり果ててしまいます。
 実際に、この幼稚園で今年の大雨の際、雨水がはけきらずに建物に浸水するという出来事があったようです。これまでそんなことはなかったと思うと、それだけ土壌が機能低下が進行してししまっていることが理解されます。

 大地が息づいていたかつての環境であれば、傷んだ部分だけ土を改善すれば、あとは自律的に健康に息づく土壌が育っていったのですが、現代のように劣化して呼吸不全に陥った大地の環境においては、土の入れ替えだけでは、本来の健康な環境を取り戻すことができにくくなっているのです。
 
 反面、土壌の通気透水環境さえ改善すれば、大地はおのずと健全な方向へと再生されていきます。その、自然界の自律的な再生を手助けすることが、今は必要なのかもしれません。
 これからはそんな視点を大切に、人の営みが自然環境を苦しめることなく、全ての環境がより良くなるような、本来当たり前の配慮が普通になされる、そんな世界が実現すれば、人は持続的に幸せに穏やかに生きていける、日々、環境改善の現場で仕事し続ける中、そんな想いが確信となり、何かに背中を押されるままにこうして仕事を続けております。

 なおび幼稚園の土壌劣化は、10年前の建築時の機械踏圧や地形攪乱の影響、コンクリート水路などによる、土中の水と空気の動きの遮断などが大きな原因であることは、状態をきめ細かに観察する中で見えてきます。
 原因が分かれば改善の道筋はおのずと見えてきます。



 硬化した土壌は乾燥と過失を繰り返し、大地は呼吸しなくなります。そうした土には一部のバクテリアや嫌気性の細菌しか住むことはできず、生態系はますます脆弱にバランスを壊してしまいます。
 本来土壌は、湿度や気温、大気圧の変化に応じて地上と地中で自由に空気が行き来し、そして土中の様々な生き物や鉱物などによって吸収、分解、浄化され、そしてまた、心地よい土の香りと共に地上に湧きだしてくるというのが健全な空気の循環なのですが、呼吸できなくなって硬化した土は、もはや環境浄化という不可欠な役割を果たすことができなくなっていきます。

 今、都会を中心に勢力を急速に拡大している致死性の人食いバクテリアも、大地の生き物環境の劣化が招いた結果であって、人間の生存をも脅かすこうした環境変化は、土壌環境の急速な劣化を想う限り、残念ながら今後も急速に進んでゆくことでしょう。

 大地の呼吸環境の改善は可能で、それがいのち息づく環境の再生や人間にとって健康な環境つくりに繋がります。
 わたしたちにできること、たとえわずかな点のような土地であっても、呼吸する大地を取り戻していきたい、そんな思いで改善工事に臨みます。



 水と空気が浸みこみやすい緩やかな起伏の自然地形に戻しつつ、土中の空気を動かすために園庭全体に横溝、縦穴を穿っていきます。
 このわずかな地形落差によって、周囲に停滞した土中の水と空気が動いて抜けていきます。



 園庭に設けた約100カ所の縦穴通気孔に、コルゲート管を差し込んでいきます。



 園内の要所に3か所ほど、深さ1mほどの大きな穴をあけてそこに剪定枝葉を詰め、その上に園児用の小さなベンチをかぶせます。
 この下の穴は、土中の通気浸透を促すとともに、枝葉などの有機物分解がさまざまな生き物を呼び込み、ここは豊富な生き物活動が展開されます。
 子供たちが下を覗き込んで生き物の気配を感じる光景を想像しながら作ります。



 溝掘りによって土中の通気浸透改善の後、表層には木炭とウッドチップを敷き、その上に野生の芝の種を播種、目土をまぶします。
 通気性の改善された環境で、グランドの植物は改善されてくることでしょう。

 通気改善によるグランドカバー改善の効果は絶大なものがあります。以下に改善例を紹介します。



ここでは当社所有地の車道にウッドチップを敷いていたのですが、数か月前にそのわきに溝を掘って有機物を漉き込み、土中の通気性改善作業を行いました。
 写真は5月の様子です。冬の改善作業後、野生の芝生がすぐに進入をはじめ、ウッドチップを覆い始めました。



 そしてこれは今年7月の様子です。2か月ですっかりと、ウッドチップの車道は芝生で覆われ尽くしました。
 実はここは、2年前からウッドチップを敷いていたのですが、今年の冬に溝を掘って通気改善するまではすぐに土が露出して、チップの補充を繰り返していたのでした。

 土中の空気と水が動いてくれば、こうしてすぐに植物が力強い活動を始め、大地がみるみる息づいてくるのです。
 大切なのは、大地の呼吸環境への配慮なのです。



改善後のなおび幼稚園、10日程度の間に、木々の表情も穏やかに変化してきたことを感じます。また、足元のウッドチップも、来春にはきっとうっすらとした緑に覆われることでしょう。



 木の根元は土になりかけた枝葉の腐植をまぶして、森の林床の再生の引き金とします。
この腐植には炭化した枝葉、様々な生き物が住み付き、そこで子供は五感を研ぎ澄ませて見入ります。
 

 なんでも、危ない、汚いと、子供たちから排除していては、子供の五感も健全には育っていかないことでしょう。
 ここの園児は裸足で園庭を駆け回ります。素足で大地のぬくもりを感じるのですから、その大地は健康なものでなければなりません。

 この幼稚園の子供たちと触れ合う中で、人間によってよい環境とは何か、根本的な部分から学ばせてもらえます。



それにしても元気な子供達。この幼稚園ではいつも、平日の就園時間に私たちは工事に入ります。
 それは、子供達にも庭が変わってゆく様子や、自然や子供たちのために大人が一生懸命働いている姿を見せたいとの、園長先生の想いから、いつも子供たちの見守る中で、楽しく作業させていただいております。

 この子供たちが大人になる頃までに、悪化した環境をどれだけ再生していけるか分かりませんが、彼らのために頑張ろうと思います。



 最近、子供たちと一緒に作業することが多くなりました。それは本当に幸せで楽しい、かけがえのない時間になります。
 これは毎月行っている、千の葉学園(旧 あしたの国シュタイナー学園)の環境改善作業です。
子供たちは素直に作業の意味を理解し、純粋な愛情を持って、いのちの環境に接します。こんな美しさを持ち合わせている大人は一体どれほどいることかと思うと、彼らの美しさを守りたい、そんな想いが熱くこみ上げます。



 土に触れ、そこに形ができてくる、子供たちは一心不乱に土壁塗りに熱中します。



 大人でも大変な土の家つくり、子供たちはわずかな時間で集中して難なく作り上げていきます。こんな素晴らしい子供たちのために私たちができること、それは、環境をこれ以上壊さないこと、大人の都合やこじつけの理論ではなく、いのち輝く優しい世界を取り戻すことではないでしょうか。

 素晴らしい子供とのかかわりの中で、心の中の余計な部分が次々とそぎ落とされてゆくことを感じます。



 夏休み、田んぼの畔に暮らすわが子たちは、近くの川に泳ぎに行きます。



ザリガニ釣りに熱中する我が息子の夏。こんな時間を、たくさんの子供たちが普通に得られる日本に戻したい、そんな想いを強くします。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
浜名湖畔の庭 環境改善工事終了   平成27年7月30日


 ここは中部山岳地域の膨大な水脈を集めて流れる天竜川下流域、遠州灘に面した汽水湖 浜名湖です。
 昨年の秋からこの湖畔丘陵地で始めた造園工事がようやく終了しました。
 毎月工事のためにこの地を訪れる度、早朝に宿舎からほど近い浜名湖畔を散歩しながら、自然が息づいていた頃の古き良き浜名湖に思いを馳せます。
 そんな日々もこの工事終了と共に思い出に変わってゆくと思うと、最終日の朝の散歩はひとしお感慨深いものがあります。



  浜名湖畔でも、この辺りはまだ、近年の自然環境の急速の悪化からまるで取り残されたかのような、そんな清らかさをも感じさせられます。
 湖畔にせり出す森の様相も、かつては湖畔全体で当たり前の光景だったことでしょう。周辺の森から供給される大量の有機物が汽水湖の生態系を豊かなものへと育んできたことでしょう。
 そして生き物は陸地と海とで繋がって、豊かな風土環境を成立させていたことが想像されます。



 周辺の森からの清らかな絞り水が浜名湖に注ぎます。こんな光景もこの湖畔では他にはほとんど見られなくなってしまいました。



 湖畔への道すがら、足元の草むらはいつもカサコソと、小さなカニが音を立てます。人が通り過ぎるまでの間、穴に隠れたり草むらに逃げ込んだりと、つぶらな瞳で横歩きのかわいいしぐさで和ませてくれます。
 これも陸と海とが繋がる本来の生き物環境ならではの光景だと思うと、生き物環境を顧みずに無機的で暴力的な殺風景な開発がとどまることのない今の日本に生きる辛さを感じます。



 早朝の5時ごろ、周囲のミカン畑はミツバチのにぎやかな葉音が鳴り響きます。大地から鳴り響くようなミツバチの葉音と柔らかな朝の陽ざしは、私の五感の記憶の奥底から思い出されて、生き物にあふれていた子供の頃の野山の光景と重なっていきます。
 私の地元では、おそらく6~7年くらい前から在来のミツバチが激減して、そして今年の夏以降はほぼ全滅してしまったかのような印象があります。
 朝日に響き渡るミツバチの大合唱は大地の調和の音色のような印象を持って、懐かしく心に響き渡ります。



 湖畔の谷地。粘土質で礫を多く含む土壌環境が、わずかな高低差の中にも急峻な地形を刻み、それが汽水湖畔に豊かな森を育んできたようです。



 そして、谷地の農地と周辺傾斜地との、地形傾斜の変換線とも言うべき境界部分には素掘りのが掘られて、周辺の土中の水が絞り出されて清らかに流れています。
 大地の中の水の動きを当たり前のように知る、先人の知恵の辺々がこの地で見られ、そうした人の営みによって、今もなお、この地にいのちの気配残る息づく自然環境が残されてきたように感じます。

 山側の絞り水を際で絞り出すことによって、土中の水と空気の動きを活発化し、土壌中に空気が送り込まれ、木々の根も土中生物も深い位置まで活発に動き、そして豊かな土壌の生きもの環境が育ってゆくのです
 そして湿地だった平坦部分も、水が滞りなく動くことによって、人が田畑として利用できる環境が生まれます。
水脈造作で人も自然環境も共に潤う環境が作られる、それこそが本来の持続的な人の在り様だったと、こうした光景を目の当たりにするたび、そう感じさせられます。




 ほんの40~50年前くらいまでは、当たり前だったこうした光景も、昭和40年代以降に急速に進んだコンクリート化によって、全国的に大地の呼吸不全は進行し、それに伴って土が劣化し、乾燥し、そして無機的で潤いのない、健康とは程遠い環境ばかりが今もなお、増え続けています。

 取り残されて生き残る、そんな美しい大地の欠片を浜名湖畔で拾ったようなうれしさとともに、この有機的な世界がいつまでも残されて、そしていつか人の心の芽を開いてゆく、そんなきっかけとなって、自然環境が、そして人の心が再生されてゆくことを祈らずにいられません。



 さて、昨日、湖畔の丘陵地の造園工事がようやく終了しました。
 昨年の9月からかかり始めた工事ですので、実に10カ月越しの完成です。
 ほぼ毎月、月に3日間程度のペースでじっくりと、水脈改善の効果を確認しながら、工事を進めてきました。

 家屋背面の山から湧きだす水脈が、コンクリート擁壁やU字溝などによって、土の中で行き場をなくして滞り、それがこの地の土壌環境を極度に悪化させていたのです。
 そこで今回の造園工事の大半は、その水脈環境の改善に費やすこととなったのです。
 
 大地の生き物環境は見えないところで急激に悪化しております。そんな中、私たち造園に関わってきたものにとって、今後は、これまでのように目につきやすい表面的な造形や、庭としての視覚的な完成にばかりとらわれるのではなく、目に見えない大地全体のいのちの環境、呼吸環境と言う部分から、大地の環境を再生してゆくという視点が求められることでしょう。

 この地は30年前の開発以降、長年にわたって呼吸不全に陥って極度に傷んでいた大地の環境改善ですので、作業は幾多の困難を極めました。
 数回にわたる工事のやり直しを経て、今はすべての問題を解消し、この地の自然環境は、たった数か月前まではここが、ヘドロに覆われて有機ガスで充満する、ぬかるんだ土地だったとは思えないほど、豊かな生物環境が醸成再生されつつあります。



 改善工事完了後の家屋全景です。背面に巨木林立する丘を背負っており、ここはちょうど大きな谷の地形となります。
 その谷地形を作ったのは水の流れでありますので、ここには小川が存在したことは疑いの土地がありません。
 その小川をつぶしてコンクリートU字側溝を作った時点で、土中に水が停滞して腐り、それが木々や大地の呼吸不全を進行し、こんな環境であってなお、湿地のように腐り水の停滞する、そんな住環境を作ってしまったのです。
 こんな大地の環境においては、いくら表面的に美しくつくろっても、決して健康な住環境など生まれるべくもありません。



臭くぬかるんだこの地の工事はまず、山際で土中の停滞水を吐き出すことから始めます。



 本体の谷間、水脈の中心だった場所には30年前の宅地開発時にコンクリート擁壁が作られました。この擁壁によって空気と水の流れが滞って土壌生物環境を悪化させて木々の根を傷め、裏山の巨木たちの樹勢を落とし、そして行き場をなくした水が停滞してヘドロと化して、土壌はさらに不透水化するという、そんな悪循環が続いていたのです。



今年の冬の間に、擁壁沿いに溝を掘ってそこに炭と泥漉しの枝葉を敷き詰めて停滞した土中の水と空気を動かして水脈再生を試みたものの、数か月後にはそれも滞って有機ガスを発生させてしまいます。



そして数か月後、再び人工水脈を掘り返し、擁壁裏の停滞水を誘導します。



 擁壁際を掘り進み、コンクリート基礎の下まで掘ったところでようやく、擁壁背面の水が勢いよく流れだす水脈に到達しました。毎分20リットルはあろうかと思えるほどの、かなりの水量でした。
 これがはけず、長い間地面の中に滞留していたのです。



 水は流れていてこそ、様々ないのちを養いますが、こうして停滞してしまえば、土も植物も健全に呼吸できない状態となって土壌は悪化し、悪臭漂うヘドロと化していきます。
 ここもまた、広大な土地が土壌の通気不全によってヘドロ化していたのです。
 生き物の通気環境を顧みない開発や造成がますます大型化する昨今、もはや自然の再生力ばかりではどうにもならないほどの環境悪化が見えないところで進んでいる、日々そうした環境悪化を目の当たりにする造園者として、そのことに立ち向かい、そしてそれを伝えていかねばなりません。



この停滞水を導く水脈再生のために、エアースコップを用いて土中に空気を送り込みます。ちょうど、血管が細って滞りが生じた患者さんに対してカテーテルで拡張するような、そんな外科的治療にも似ています。
 大地も人も、そしてすべての生き物も、円滑な空気と水の流れがあって初めて命が繋がるもの、こうした作業を通して自然界の真理に触れる思いを感じます。



 本当の意味での大地の水脈再生のためには、山からの絞り水を徐々に浸透させながら、そこにあったであろう地下水脈へと誘導してゆくべきなのです。
 しかしながらここでは、上部の擁壁による湧き出し水の遮断に加えて、下流部もこうしてU字側溝と道路によって遮断されてしまっているのです。

 実際、川などの地表に現れる水は陸地における水の流れの中ではほんのわずかであって、例えば地球全体において地表流は地中を流れる水の総量のわずか4800分の一という、信憑性の高い推計が報告されているのです。

 土中の水の動きを考えることの重要性はそこにあります。U字側溝などで目に見える部分の水さえ処理すれば地面の中はどうでもよい、そんなやり方は必ず見直して、なるべく早いうちに方向転換しなければなりません。
 大切ないのちの循環が完全に消滅してしまう前に。

人間が作ってしまったこうした環境では、地中に浸透しきれない土中水は、道路側溝のコンクリート枡を壊してそこに流すしか、方法はありません。



 そして、コンクリート枡の側面の一部を壊すと、勢いよく泥水が吹き出し、そして徐々に安定した清流へと変わっていきます。今は飲めるほどにきれいで冷たい地下水が、枯れることなく流れ続けています。
 
 試行錯誤の末に、この地の呼吸不全はこの水の動きを健全化することで解消されていったのです。



山側の水脈改善作業中。



 造園工事終了後。山際の水路は通気性のよい石積みによって保護し、そして今は滞りのない風が山から抜ける、心地よい空気感に一変しました。



敷地下流部、改善工事中。



 工事終了後、この駐車スペースの下をながれる水脈の水音が、まるで水琴窟のように心地よく、常に鳴り響きます。



 この駐車スペースの下には大切な水脈があります。その水脈の詰まりを持続的に防ぐためには、この駐車スペースの緑化と根による泥漉し機能が求められます。
 そこでここでは、多孔質で保水性の高い瓦再生チップに木炭を混入してノシバを播種し、緑化を試みています。
 おそらく、この秋までにはうっすらと芝がはびこることでしょう。
 植物の力、自然の力を借りてこそ、人は持続的で豊かな環境を作ることができる、人がなしえることの限界、分というものを再びわきまえることこそが、これからの社会の持続のために深勝となることでしょう。



 水路を渡る足元の景。



 水と空気の流れる庭、この庭における水脈再生によって、周囲を取り囲む木々の呼吸も改善されて、まるで完成を祝福してくれているような晴天です。



 この仕事を通して、痛めつけられた自然環境を再生すること、健全な環境を取り戻すことこそが、そこに住む人の健康にもつながること、そんな大切なことに改めて気づかされました。

 長い期間にわたってこの取り組みを見守ってくださったお施主のKさん、そして地元で全面的に施工協力くださった、浜松市、新進気鋭の雑木の庭師、ナインスケッチの田中俊光さん、この場をお借りして心からの御礼を申し上げます。
 
 長きにわたって本当にありがとうございました。







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
         
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