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雑木の庭つくり日記

いのちの息づく庭環境つくり   平成27年7月2日


 梅雨の長雨の合間を縫って進めております相模原市、丹沢山系の水を集める宮ケ瀬湖の畔、Iさんの週末暮らしの庭つくりが、あとわずかで完成となります。
 雨続きでなかなか記録が撮れないため、まずは1週間前の晴れ間の際の庭の様子から紹介いたします。



 相模原市内在住のIさんご夫妻は、震災以降、自給的で自律的な暮らしの必要性を感じられ、そして2年ほど前、ご自宅や職場から車で1時間程度の距離の山間地に土地を入手し、週末暮らしのための家を建てられました。
 この住処は平常時は週末の癒しと半自給的な暮らしの場として、そして同時にそれは、災害や社会変動などの非常時の際には避難暮らしの住まいとなる、そんなスペースを求められました。
 
それはいわば、ロシアでは今も約8割ほどの国民が所有する「ダーチャ」の日本版とも言える一つの形であり、Iさん夫妻はダーチャの必要性を感じて、この地の暮らしの拠点作りを始められたのです。




 自給的暮らしの根本は、その土地の自然環境の中の一員として、周辺自然環境を意識的に育成しながら利用してゆくこと、他にはあり得ません。
 長い間、人の暮らしはその土地の自然環境を健全に保ちつつ、豊かで多様な大地からの収穫を得て、その土地の暮らしが成り立ってきました。

 人は大地に向き合うことを忘れると、いつのまにか自分たちのいのちの源たる周辺環境を壊し、そしてそれがその土地の気候をも取り返しのつかないほどに変えてしまい、それまでの暮らしを支えてきた豊かな大地の環境基盤を失ってしまうことは、世界の文明の歴史の中でごく自明の理なのです。

 そんな現代社会の暮らしの在り方に疑問を感じ、自然に回帰して矛盾の少ない暮らしをせめて週末だけでも志そうとされる方が、最近非常に増えているように感じます。

 そうした中、私たちは、自然環境再生を主眼とした造園の仕事を通して、そして今後1~2年以内に本格的に活動してゆく予定のダーチャサポートプロジェクトにおいて、現代の暮らしの中で多くの人が忘れてしまった自然の理や共に生きる喜びを力いっぱいサポートしていきたいと思います。



 造園工事に伴う植栽や空間造作を進めながらも、この土地の造成や建築工事などによって傷んだ大地の通気浸透環境の改善作業を並行して行います。
 ここではエアスコップという道具を用いて空気圧で横溝を掘りながら、地面の中の細かな通気脈を通して、土中に空気を送り込むことによって、締め固められて呼吸できなくなった土中環境を改善していきます。

 「いのちの基本は土壌環境にある」といっても過言ではありません。
 土中生物環境が深い位置にまで豊かになれば、この土地が支えられるいのちの総量も種類も格段に増えていき、多様な生き物環境が、この土地の生産力や人の健康をも左右します。
 呼吸する大地の環境再生、数十年前まではあまり考える必要のなかったことからきちんと対処していかねばならない、それ程今は、全国的に大地の環境全体が深刻なまでに病んでしまっていることを実感します。



 敷地西側のコンクリート擁壁の際も念入りに空気を送り込み、溝掘りによる微細な地形落差を設けていきます。
 コンクリートなどの均一素材による直線的な擁壁は、水抜きの処理を施してもすぐに土中は詰まって生き物環境を痛めてしまうことは、擁壁沿いの雑草植生の違いを見ていけば明らかです。 
 自然はきちんとそれを目に見える形で教えてくれます。それを注意深く読み取ることが、自然との共同作業でいのちの環境を再生してゆくうえでとても大切なことになります。



 庭の中では、植栽のための盛土部分と庭スペースの平坦部分との際を中心に、エアスコップによって溝掘りします。このわずかな地形落差で、土中の水と空気が動き出し、その後自律的に生き物環境が改善されてゆくのですから、感動と喜びを伴う仕事です。
 それも、重機やスコップで人工的に掘るのではなく、まるで風の通り道が風洞を穿ってゆくように、エアを送りながら植物根を傷めることなく、石や硬い土を避けて柔らかな土を削ってゆく、風が年月をかけて成し遂げる作業に習って自然に掘ってゆくところに、高い改善効果が生まれるのです。
 掘り方一つでも、自然に習う姿勢を持つことでいろいろと教わることがたくさんあるのです。



そして、溝の途中に縦穴を掘り、竹筒を差し込んで通気を取りながら、縦方向の空気と水の流れを作っていきます。



 こんな地形落差であっても、周囲の土中の絞り水が集まるため、溝底に木炭を敷いて泥水や滞水による土中の目詰まりを防ぎます。



 縦穴の周囲は枝葉で泥の流れ込みを緩和し、縦方向の円滑な通気性を保ちます。



 そしてそ横溝にも剪定枝葉を絡み合わせて、通気層の泥詰りを防ぎます。この有機物が様々な速度で土と同化してゆく過程で植物根を誘導し、枝葉が消える頃には、植物根がとって代わって通気脈の維持と保全を担うのです。
 



芝張り後、ウッドチップの溝が通気脈の仕上げです。地形の際を中心に表面水が浸透しやすい環境を整えてゆくことで、土中の水と空気が即座に動き始め、大地の健康を支える多様な生き物たちが活動しやすい環境が自律的に再生に向かうのです。
 この造作によって、大雨の後でも水は円滑に大地にしみ込まれて滞水することがありません。

 また、有機的で生き物にとっての健全な環境つくりに配慮して作られた空間は、清涼な空気が動き、人にとっても健康で心から休まる環境となるようです。

 写真奥の雑草のマルチは、この庭のメインとなる自然菜園です。



 庭空間の配植や形状に合わせて、曲線状の自給菜園スペースを二つ。畝も曲線状に作ります。
 自然農園では、一度つくった畝をその後耕すことなく、土環境を自然に育てながら使い続けますので、最初の形状が大切です。



そして、菜園マウンドを刈り草や落ち葉を堆積した腐植によってマルチしていきます。



 完成後の菜園マウンド。この庭の刈り草や落ち葉は当然、この菜園マウンドの表層環境保護や土づくりに活かしながら、この畑の土壌生物環境を豊かに育てることが、すなわちそのまま、健康な収穫に直結していきます。
  自然環境に負荷を与え続ける一般的な慣行農業の在り方も、自然農の普及によって変わらざるを得なくなってゆくかもしれませんが、まずは一人一人が生き方を見直していくことが大切です。

 安全な食こそ、健全な体と心、健全な考え方と人間性を育むもの、まずは大地を育み、そして生き物たちと共にいのちの糧を得るという、これまで何千年となく地球の先人たちが行ってきた尊い営みを、こんなところからも思い起こして感動を得て欲しいと願いを込めます。



 古民家の解体で得た材料を組み合わせて作った庭の作業小屋。右奥には落ち葉や野菜屑をストックして腐葉土化する落ち葉ストックがあります。



 薪棚の屋根には、ちょうど茅葺き屋根の解体時に発生した屋根防水用のヒノキの皮がたくさんあったので、それを重ね合わせて屋根葺きにします。
 いずれはこの土地の土に還ってゆく素材ばかりで作る庭では、土、石、木といった自然界の三要素が材料の主役となります。

 そこにある自然の恵みを活かして衣食住を構成する知恵、それこそが人が忘れてはいけない大切な知恵の源のように感じます。



 落ち葉や枝葉屑は生き物環境つくりに欠かせない大切な資材です。堆積して発酵させた腐植の中には、活きのいいミミズやカブトムシの幼虫など、たくさんの生き物たちがあふれています。



 この腐植によって木々の根元をカバーしていきます。
 通気性のよい土壌環境下においては、根元の土を露出させておいてもすぐに山苔が地面をカバーしていきますが、最近の環境下では健全な苔が生えにくい場所が増えてきました。それだけ大地の環境が大きく劣化している証と言えるでしょう。
 病んだ大地環境の再生は私たちの大切な役目になります。こうした場所では植栽後の土を露出させることなく、山の地肌のように腐植によってカバーすると、土壌生物にとっても木々の根にとっても無理なくその土地になじんでいきます。



腐植によるマルチ後の根元の表情。大きく呼吸したくなるような心地よい山の香りが漂います。



 敷地際の法面は竹のしがら編み柵によって自然な形状に戻していきます。竹しがら柵は3年程度で腐朽して、その後は草木の根が代わって地形を支えて自然で安定した風景へとなじんでゆくように配慮しています。



 裏側スペースの足元は炭とウッドチップ敷きによって、雑草の進入を誘います。うっすらと雑草が低い高さで覆うように管理していくのです。
 庭の完成は、実はその後の環境再生のスタートなのです。



 造園工事の完成まではあと少しですが、実際にこの地が風景として育ってくるのは実はそれからなのです。ここでの暮らし、自然環境と人の営みが、かつての日本のように美しい風景が育まれてゆくことを願います。

 また、余談ですが、今の時期は手入れ仕事も集中します。天候も定まらず、お待たせしておりますお客様、長らくお待たせして申し訳ございません。順に廻っていきますので、お待ちくださいますようお願いいたします。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
千葉県柏市の庭 竣工        平成27年5月8日


 連休が明けての今年の後半戦最初の竣工は、千葉県柏市のIさんの庭です。本日、竣工直後の、玄関前からの庭の入口付近です。

依頼いただいてから実に2年半以上もお待ちいただいての竣工です。



 とても狭い通り庭ですが、それでも豊かな自然環境を再生することで、暮らしがどれほど潤うものか、計り知れないものがあります。



 わずか2m程度の幅の主庭は、ウッドデッキと坪庭スペースを組み合わせて、潤い感じる屋外リビングとして仕上げています。



 デッキ前、水鉢を中心に景をまとめます。



 今年から新たに始めたグランドカバー方法として、落ち葉や剪定枝を1年弱程度発酵させた腐植を、木々の根元に敷き詰めています。
 腐植にはたくさんの土壌生物が繁殖し、有機物は半分炭化して土との境目の性質を有しています。
 こうして根元に敷き詰めるとまるで山の林床のようにしっとりとした趣が完成します。



 薫り高い生き物いっぱいの、剪定枝から生まれた腐植。



そして通路部分のグランドカバーには、シイタケの榾木を粉砕したウッドチップを用います。



 小さな庭は、心地よい山の中にいるような雰囲気に一変しました。
 
3年近くも庭の竣工を待ち望んでくださったIさんは今日が誕生日です。3年越しの誕生プレゼントとなりました。どうもありがとうございました。

 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
大地の環境を改善する         平成27年5月5日  


 震災直後の4年前に竣工した、千葉市美浜区の「カフェどんぐりの木」の庭です。

 今年の2月に土壌通気浸透性改善のための作業を施し、そして先日訪れた際、非常に顕著な樹勢の回復が確認できました。
 
 私たち人間が木々の健康、生き物環境の改善のためにできることはほんのわずかなことです。
 しかし同時に、大地の生き物環境再生のためのほんのわずかな一押しが、まるでドミノ倒しのように自然界の健全な大地を取り戻すためのきっかけにもなる、そんなことを日々実感します。

 人は今、その営みの中で自然本来のの健康な環境を踏みにじり、そして自らの健全ないのちの基盤まで壊し続けています。それに対して、木々をはじめ大地の植物たちは、水と風の循環の中で日々刻々とその地の環境を改善しようと黙々と生きているのです。

 人間が壊してしまった大地の健康は、人間がきちんと配慮して再生すべく、手を差し伸べなければいけない、これまでのように目先の人の営みを絶対優先とする考え方から、人の営みと、それを支える自然環境の健康とを、フィフティフィフティと考えることのできる社会つくりへと、我々は成熟していかねば未来はありません。

 ここまで壊してしまった大地の環境。造園の仕事を通して木々や土と向き合いながら、その深刻さに愕然とすることもあります。
 壊してはいけないものを壊し続けているのも人であれば、それを修復するのも人の責任です。

 そしていずれは、昔の日本の暮らしや、その土地の風土と共に生きてきた世界各地の先住民族の清冽で高貴な暮らし方・生き方がそうであったように、自らの命の母体として大切なものに気づき、そしてそれを壊さずに共存できる暮らし方、社会の在り方を取り戻さねばならない、そんな想いはますます大きく確固たるものへと膨らんできます。


 
 通気浸透水脈改善からわずか2カ月余りでしっかりと呼吸を取り戻した木々は春の日差しを浴びて喜んでいるようです。

 海岸埋立地に立地するこの地は、それまで駐車場として過酷に踏みにじられてきたうえに、施工の際、
震災時の液状化の影響を受けて塩分交じりの海砂が吹き出し、その影響を当時の土壌改良では払しょくしきれず、植栽後の木々の衰退が進行していたのです。

 いのちの息吹を感じさせてくれる庭の木々は健康でなければなりません。たとえどんなにデザイン的に優れた庭であっても、その庭が健康で、その土地の自然環境や生態系に資するものでなければ意味をなさない時代はもう、すぐ目の前に来ているように思います。

 目に見える木々の息吹を支える土壌の環境、大地の呼吸。あらゆるいのちの源は健康な大地の環境にあります。
 大地が目詰まりして木々が苦しんでいる、人の営みが作ってしまったそんな状態を改善するのが、通気浸透水脈改善です。

 それはこれまでのように、「土が悪ければ他からよい土を持ってくればいい。」という目先の考えではなく、今あるその地の土壌そのものを、本来の自然環境のごとく息づかせて再生する、それによって豊富な土中の生き物環境を取り戻し、人も樹も健康でいられる本来の環境を再生してゆくというものです。
 通気の悪い土地においては、どんなに良い土を客土しても、その土は数年で硬化し、土壌環境はまた元のように悪化していきます。そして、通気しない大地は人の健康をも知らず知らずのうちに奪い去っていきます。

 一方で、土壌の通気浸透環境を改善して大地の血管とも言える水脈を再生してゆくことで、その土地は本来の呼吸を取り戻し、自律的に改善されてゆくのです。
 これからの時代、今の大地の環境、いのちの源である大地の呼吸を取り戻すことこそ、常に心がけねばならない大切なことと感じます。



 ここは今進めている、つくば市春風台住宅地の街路モデル実験区です。植栽改善のための植穴を掘った後、雨が降ると周囲の土中に溜まった停滞水が、土中の水脈を通してこの穴へと引き込まれ、そして停滞しています。
 こうして新たに穴を掘ることで、周囲の停滞水が動いて移動してくるのです。素掘りの穴をうまく掘って、水脈を再生して誘導してゆくことの意味はここにあります。

 水が停滞するということは土中の空気も動かず、こうした土中には嫌気性のバクテリアばかりが増えて生物環境のバランスを壊していきます。

 こんな環境であっても、通気浸透性の改善措置をきちんと行えば木々を健康に育てることができ、そしてこの土地を自律的な生き物環境再生へと向かわしめることさえ、実はそんなに難しいことではないのです。

 景観緑地と専用農地を併せ持つ、緑・住・農一体型の住宅地として計画され、3年前に造成完了しました。
 しかしながらこの造成地もまた、広大な土地が削られ平らにされて水はけは悪く、畑も緑地も健全に生育できる状態ではなくなってしまったのです。
 そこでこの住宅地全体の環境改善が急務となって依頼を受け、そのモデルケースとして6棟分の街路、総延長約110mの環境改善、植栽改善をこの4月に実施いたしました。

 最近は特に、こうした劣悪な造成住宅地が増え続けているのですが、それは環境に配慮せず大地を痛めつけ続けて顧みない現代土木工事の在り方、排水整備に対する今の土木建築工法や考え方の盲点に起因します。

 大地に対する人の行為は必ず、生き物環境としての適切な配慮と、水や空気の動きに対する正しい知識と想像力に基づく必要があります。
 今、私たちはこうして、大地の呼吸を取り戻す一つ一つの作業を積み重ねて実績を重ね、そしてそれが健全な自然環境再生、持続的な社会の在り方へといつか繋がってゆくことを夢見て、一歩ずつ取り組むしかありません。
 結果は確実に、そしてすぐに顕れるのですから。



 水中ポンプで周囲から集まる水を抜きながら、剪定枝などの有機物や炭を絡ませるように敷き詰めながら土を埋め戻していきます。この際、必ず、植穴の両端に縦穴を掘って気抜きの竹筒を通し、縦方向への水と空気の動く地形落差を土中に作ります。



 さらには、周囲に溝を掘って、土中の水と空気が、この土地周辺全体の大きな地形の中で、本来の水脈の動きに呼応する水と空気の通り道を、土中に再生していきます。



 植栽部分は高く、横溝、縦穴へと落差をつくって土中の低滞水を動かしていきます。
 遠く筑波山からの水系がこの地の流域を形成する桜川へと、土中の水の動きを誘導することで、この土地の土壌環境の再生を促します。



 そして、ここでも水脈再生の効果はすぐに顕れます。植えられた木々は滞水の兆候も見られずに、新たな土地で活発な生命活動を始めていました。
 雑木の木立が連続するこの新たな街路空間は、これから我々が取り組まねばならない大地環境再生の第一歩となるかもしれません。



 雨が降ると水が溜まり、土壌が固くなってしまうこの住宅地の菜園区画にも、同様の改善を施します。



 数十センチほど掘ると、透水性の悪い硬化した粘土層が出てきます。こんな土地でも、水はけのよい柔らかな土地へと改善してゆくことが可能なのです。



 横溝に炭を敷き、そして一定間隔に掘った縦穴に気抜きを差し込み、その周りにも有機物や炭を流し込みます。



 横溝にも枝葉などの有機物に炭を混ぜて通水層を作ります。

 暗渠と言えば、一般的に現在は、透水シートでくるんだ砂利の層を埋め込むのが通常の工法となりましたが、その工法では暗渠は数年で目詰まりして機能が低下してゆくのに対し、有機物を用いてさらに縦方向へと空気の動きを作るこの方法は、目詰まりすることはなく、有機物の分解と共に周辺の植物根がこの通気層を取り巻き、維持してゆくのです。



 この改善作業に用いた資材は、大量の剪定枝葉と木炭のみで、溝掘りで発生した掘削残土を盛り上げて仕上げます。
 土の入れ替えも不要で合理的で、しかも周辺を含めて永続的な改善効果が及ぶのがこの工法の大きなメリットと言えるでしょう。

 この暗渠が永続的に機能するためにはその後のメンテナンスも必要で、雑草をグランドカバーとして活かしたり、水脈保全のための樹木根の誘導など、植物たちと共に生きてゆく姿勢がとても大切になります。
 それが、新たに我々人類が切り開いていかねばならない「植栽工学」という新分野の課題と言えるでしょう。



 そして連休前の最後の工事が、房総丘陵の森の頂に新たに建てられた家屋の造園工事となりました。
 造園工事後の家屋エントランスです。既存木やこの場の自然環境の伸びやかさを活かしながらの家周りの改修工事となりました。
 20年前に森の中に造成された土地ですが、こんな素晴らしい環境でありながら、様々な人間活動のインパクトを受けて木々は痛み、大地の環境はやはり次第に荒れていきつつありました。



枝枯れの進む既存の大木。



新たな家屋建築工事に伴う踏圧によって裸地化した地面。むき出しの地盤は雨の度に泥水となって土を削り、そして微細な表土の通気孔を塞いでしまい、土壌を硬化させてしまいます。



 20年前の造成時に一定の安定角度で造成された後、一向に下草の種類が本来の多様性を取り戻せず、その後に新たに「植えられた木々もなかなか健全に育っていかない状態が続いております。
 自然界には決してありえない単一傾斜の造成環境では水は加速度を付けて表土を削り、大地の通気浸透環境はそのままではなかなかな改善されず、こうしておかしな状態が長く続いてしまいがちなのです。
 一見、これは普通の状態と思われがちですが、長年この地に通い、この地を愛し続けてきたお施主のY先生は、この環境のおかしさに気づいており、大地の環境改善を望んでいらしたのです。



 まずは、雨が降ると大屋根から滝のように流れ落ちる雨落ちの水が段階的に大地にしみ込むよう、大きな縦穴浸透孔をつくり、そこを水脈整備の起点とします。



 家周りの泥水の斜面流出を、土壌通気浸透性の改善によって対策するため、等高線に沿った形で横方向に素掘りの溝を回し、要所に縦方向への浸透孔を設けていきます。



 傾斜地に等高線に沿って有機物による暗渠を巡らし、そして道を整備していきます。道を作ることが環境の改善につながる、そんなかつては当たり前だった山道の工法で、環境再生していきます。



 屋根を伝うの雨落ちの水はすべて、表面流亡させることなく浸透させて大地に還元します。



 自然地形を再生しながら浸透環境を整え、そして快適な有機的環境へと仕上げていきます。



 工事後の玄関からの回遊路。補植された木々の根元は剪定枝を発酵途中の腐植を表土の保護にマルチとして用い、通気性を改善した足元にウッドチップを敷き詰めて、この素晴らしい土地に違和感のない景観を作っていきます。



 玄関前は枕木と大谷石の古材を用いて、以前からここにあったような落ち着きと使いやすさを心がけました。



土がむき出しで殺風景だった家屋と小屋の間の通用空間も、既存木と新たな補植とが呼応して、落ち着きのある有機的な空気感が生まれました。



 竣工後の記念撮影。左端がお施主のY先生です。豊かな自然環境にあって、その地の環境の存続を望まない人はおそらくいないでしょう。
 Y先生は長年の研究生活の中、週末にこの地に通って生き物と対話することで健康なバランスを取り戻し、活力を持って歩み続けてこられました。
 そんな方が育ててこられたこの素晴らしい土地の環境再生に今回協力させていただけたことを心から嬉しく、ありがたく感じます。
 これからの時代、何が大切なことか、それをしっかりと抱きながら、連休後の今年の後半戦も黙々と生きていきたいと思います。



 連休中も休みなく、急ピッチで進める当社の山小屋建築。
 床下の断熱に藁を挟み込んでいます。すべてがこの大地に還ってゆく建築を、徹底的に追求します。
 周辺の木々や小鳥たちの喜びと輝きに祝福されながらの作業はとても心地よく、疲れを忘れてしまいます。



 傾斜地の大地をなるべく傷つけないよう、そのままの地形で基礎石に柱を立てて、その上に人の営みの場を作ります。自然の中にちょっとお邪魔する、そんな姿勢がこれからの人間のスタンスとしてとても大切なことのように思うのです。



 建物が建つことによってその環境がさらに有機的なものへと変わってゆく、ここではそんな空気感すら感じられます。

 今年も前半期、以前にも増して全力で駆け抜けて、使命を全うしようと生きてきました。そして連休後の後半期もまた、駆けつづけていきます。それが人のため、大地のため、生き物のための、人間としての自分なりの贖罪の想いでおります。

 そして役目を終えた時、この地に眠ってこの地の土に還りたい、そんな想いが自然と心に浮かんでまいります。
 まだまだあと数十年、小さな雑草のようにあきらめずにせっせと目の前の生き物たち、自然環境、そして人間に向き合い、生きていきたいと思います。

 




 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
造園と土壌通気浸透水脈~名古屋市の庭より  平成27年4月13日

 ブログを見てくださる皆様、大変ご無沙汰しております。あわただしく飛び回っているうちに、今年もいよいよ新緑の季節を迎えることに差し掛かりました。
 この時期の雑木の庭は、一年の中でももっとも清らかな季節となり、これまで庭を作らせていただいたお客様方々から次々に庭の写真とうれしい便りが届きます。
 それは本当に、この仕事をしていてよかったと感じる、幸せな瞬間でもあります。

 
今年に入ってからの数か月、実にいろんなことがありました。このブログで報告いたしたいと思いつつ、いつの間にか時間が過ぎてしまいました。

 何から紹介したらよいものか、まずは3月に竣工しました名古屋の庭をご紹介いたします。



 ここは名古屋市Nさんの庭。3月中旬に竣工したばかりのこの庭も、植栽後3週間を経て新芽が芽吹き、健康な穏やかさを感じさせてくれている様子が伝わります。

 4方森に囲まれたこの地に越されたNさんは、家を建てた後、目の前の森が伐り払われて宅地開発が始まり、谷が埋められて造成されてしまい、周囲の景観が一変してしまいました。
 理想の住まい環境をやっと見つけられ、そしてそこに家族のかけがえのない新居を建てられたNさんにとって、周囲の自然環境がなくなってしまえばここに家を建てられた意味はないのです。
 「法に基づいた開発行為」に購うこともできずに、ズタズタにされる人の心と自然環境。
 
 落胆しても始まらず、Nさんは失われた目の前の森を自分の敷地の中で再生することを決意し、そして先月、家の東北側に残された雑木林を庭に繋げて引き込むよう、そんな意図で庭が完成しました。

 自然環境の再生、そのためには木々を単に景観としてばかり捉えて、見た目の自然を再現しようとするのではなく、呼吸する大地の健康な状態を再生し、そしてそれを周囲の残された自然環境へと繋げてゆくことでこそ、本当の意味で、健康で豊かな環境の再生は可能となります。
 健康な根があっての健康な木々なのですから、目に見える地上部ばかりでなく、目に見えにくい足元の大地の環境を、健全な形へと再生してゆくことこそ、その庭が本当の意味で周囲の自然環境と一体となりえる、そのための欠かせない条件であることを知る必要があります。



 締め固まったNさんの庭、粘土質と礫の混ざった土は固く、このままでは通気も悪く、健康に根が入り込める条件ではありません。
 植栽にかかる前に、土中の通気浸透性の改善のため、雨落ち排水を兼ねた横溝と縦穴を掘っていきます。

 基本的に、そこにある土を改善して、植栽条件を整えるのですが、土がよくなってゆくためには土壌の通気透水性の再生こそがそのカギとなるのです。
 
 従来、高度成長期以降のトラック運送時代の造園においては、植栽する場所の土が悪ければ他からよい土を持ってくればよい、その程度の認識が当たり前に蔓延してきました。以前の私もそうでした。
 しかし、「その残土はどこに行き、そして庭に使う良質の土はどこからくるのか。」そんなことを考えるに従い、なるべく土をよそから持ってくるのではなく、その土地の土を健康に再生して用いたいと思うようになり、そして10年くらい前から、剪定枝を堆積して客土に用いる土を作ってゆくようになりました。
 今は客土すら、なるべく行わず、できる限りその土地全体の土壌が自然の力で育ってゆくような、そんな環境を整えることから造園を始めるようになりました。

 土は、土壌内の通気環境次第でよくもなるし悪くもなります。どんなに良質な土壌を客土しても、元の大地の通気浸透性が滞っていれば、数年以内に新たな土も次第に硬化し、悪化してしまいます。
 逆に、どんな土でも、自然本来の健全な水脈を再生して地下の通気性と透水性を改善しさえすれば、その直後から土は改善されていき、生き物が息づく大地が再生されてゆくのです。
 今の時代、今の環境の下では、通気環境の改善から行わねば、木々が健康に呼吸できない、そんな環境が今、急速に増え続けていることを、この仕事を通して痛いほどに実感させられます。



 有機物を活かした暗渠構造。漉き込んだ有機物は竹筒の気抜き孔を通して呼吸しながらゆっくりと分解し、土に還っていきます。同時に通気性のよいこの気抜き孔に向かって草木の根が入り込み、絡み合い、筒が腐植に変わる頃には木々の根が筒状に張りめぐらされて通気孔の機能を、代わって保つのです。



 礫やこぶし大の石すら混ざる粘土質の重たい土で作業は大変ですが、なるべくこの地の土を改善して使っていくことが大切です。
 従来の造園世界では、「こうした硬くて粘土質で石交じりの土はよくない」 と考えて、すぐに土を入れ替えしようとする人も多いのですが、それは間違いであることは、こうした土壌条件の下で豊かな森を作り上げてゆく周囲の森の木々の健全さを見れば、一目瞭然のはずです。



 家屋に隣接する雑木林の桜の大木。
 この土、この風土において、大地の通気環境さえ健全に保たれていれば、木々は十分に健康に、いのちの環境をすくすくと育んでゆくことが分かります

 問題は、土地造成や道路工事、家屋外構建築等によって、呼吸する大地の環境を無残に壊してしまう人間の所作、そんな今の建築土木の在り方にあります。土地を傷つけて木々の呼吸。大地の呼吸を断ち切ってしまうのも人間ですが、その人間が壊してしまった環境が、持続的に再生されるよう、働きかけることができるもの人間です。
 人が壊してしまった以上、人の手でその大地の呼吸を健全に戻してゆく、そんなことも今の時代、そしてこれからの時代、必ず必要とされることでしょう。



 水脈再生作業の後、やっと植栽です。狭い庭ですが、木々を高めに植えて地形落差を付けてゆくことで、地中の水と空気が動きやすい環境を作ります。



 そして植栽後の表層の保護には、周辺の山林から落ち葉の下の、落ち葉が分解しかけて根と絡み合った腐植と呼ばれる部分を山からいただいて敷き詰めます。風に飛ばないよう、落ち枝を絡ませてゆくと、今できたばかりの庭とは思えないほどに自然な地表が完成します。
 この有機物が表層の土壌生物活動を活発にし、表土の通気孔を守ります。



 そして3週間後、芽吹き前の木々は生き生きとした森の空気感を感じるほどに、この土地の自然と一体化の営みを始めています。



 先日、竣工したばかりのNさんの庭に、愛知県自然環境課の視察が入りました。
 自然豊かだった市街地へと次々に開発が進む愛知県では今、良好な自然環境を少しでも次世代に繋いでゆくため、開発地域の民有地、個人の庭も含めての、生態系ネットワークを構築しようとしていると言います。

 そして今回、地域生態系に配慮した自然環境再生型の庭の事例として、Nさんの庭を視察に訪ねられました。



 愛知県の進める生態系ネットワークとは、開発などによって分断された自然環境を、その土地の生き物環境に配慮した植栽等によって繋ぎ、地域本体の生態系を保全する取り組みと言います。

 時代は変わりつつあります。そしてそれに伴い、人間はじめ生きとし生けるものたちの源である自然環境の再生のために担うべき、造園の役割が形として見え始めている、社会づくりに必要とされている、そんなことを改めて実感されます。



 名古屋市守山区 小幡緑地。Nさんの住まいのすぐ下部に繋がります。
 ここが名古屋市内であることを忘れてしまうほどの豊かな自然環境が、まだかろうじて良好な状態で保たれています。



 そして、小幡緑地に湧き出す地下水が沼地の豊かな生態系を維持してきました。
 今回、この緑地の上部が切り開かれて宅地となり、この湧水もこの自然環境も影響を受けて、姿を変えてゆくことでしょう。



 自然環境は「保護地区」や「緑地保全地区」などと言う、これまでのような部分的な面積保全ではなく、全体を繋いで、いのちの環境として良好に保つということがどういうことか、そんな視点が必要です。
 その点で、開発地域を含めた生態系ネットワークを再生しようとする愛知県自然環境課の取り組みは、これからの時代にふさわしい新たな挑戦と言えるでしょう。
 それが、単なる見た目の景観としての自然環境再生ではなく、その大地を息づかせる根本たる水脈、流域としての自然環境全体を繋いでゆく大地の水脈の再生の視野を持って、本当の意味での自然環境再生に繋がることを願うばかりです。
 大地の呼吸、水脈の再生、それが不可欠なものとして普通に配慮される時代の到来を夢見つつ、私たちも熱く力強く歩んでまいりたいと思います。

 名古屋の造園工事、私たちと共同で作業してくださった、jinengardenの江川さん、美野園の渡辺さんはじめ、応援に駆け付けてくださった方々、この場を借りて心から御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
つくば市春風台の環境改善工事     平成27年2月26日


  つくば市の大型新興住宅地、春風台の緑地環境改善工事の開始です。

 この住宅地は、自然環境共生型の暮らしを理念に掲げ、住宅一区画につき、接道部分に約60坪の景観緑地、そして家の背面に約40坪の農園スペースを兼ね備えた、合計109区画の未来志向の住宅地です。

 この日の作業は、緑地の通気浸透水脈改善と、健全な雑木林再生型植栽モデルのデモンストレーションです。
 春風台の住民方々や地元造園業者方々が入れ替わり立ち代わり訪れ、興味深く見つめる中での作業となりました。



 6年前に新興住宅地として開発造成され、そして植栽された木々は数年経過した今も状態が非常に悪く、次々と衰退・枯死が進んでいます。せっかく景観緑地の理念を持って、広大な緑地スペースを確保されたのに、植えられた木々が元気でなければなんにもなりません。
 どうしてこうなってしまったのか、その原因は、開発造成に伴う土壌環境の悪化にあります。
これを改善して、健康ないのちを育む大地環境へと再生してゆくためには、単に従来のような根鉢周辺の土壌改良や客土だけでは対応できなくなってきました。
 
 長く造園の仕事の中で木々に向き合い、土に向き合いながら、悪化し続ける大地の環境に気づきます。
 普段は目に見えない土の中で今、何が起こっているのか、それを人に伝え、仕事の中で改善の手立てを施してゆくこと、これからの開発、これからの造成においてますます大切な考え方となってゆくことでしょう。



 地元協力業者によって、衰弱した高木の掘り取りと工事個所の芝剥がしが前日になされ、いよいよこの状態から、確実に木々が健康に育ち、土壌環境が健全化してゆくための工事実演です。
 高木植栽箇所は60坪の緑地区域に3か所設けます。



 植栽部分の掘り下げの後、その四隅に縦穴を掘り、節を抜いた竹筒と、木炭を中心とした通気改善資材で縦穴を埋め戻します。
 土壌の通気浸透性が悪い条件下で、土壌環境を持続的に育み、そして木々を健康に育てるためには、この縦穴による土中深部までの通気浸透改善が決定的に大切なこととなります。
 悪化した土壌環境の下では、単に植栽のための植穴だけ土を入れ替えても、その土は一向に良くなっていかないどころか、植穴の底に新たな不透水層を作ってしまい、それが滞水を促し、徐々に根を腐らせてしまうことに繋がる結果を招くこともよくあるのです。
 
 「客土・土壌改良」までは、従来の造園作業の中で普通に行われてきたことですが、それが効果的な結果につながるのは、元の土壌の通気浸透能力が健全であるか、あるいは健全に再生されてゆく状態である場合に限られることなのです。
 ここまで自然環境を悪化させてしまった今、根本的な大地の呼吸から再生してゆくのための手立てを打っていかねばなりません。



 縦穴通気口設置後、植穴の下地土壌を重機でほぐし、乾燥枝などの有機物や木炭をサンドイッチしながら土を埋め戻していきます。
 土中の水脈が再生されると、この植栽マウンドから表層水が吸い込まれて動き出し、同時に空気がストローのように土中深くへと吸い込まれていきます。
 それによって、土中深い位置にまで、様々な生物が生育できる環境が広がっていきます。そしてそれが土壌の団粒化を促し、樹木の根が深部にまで入り込んでゆきます。乾燥枝はいずれ腐って土に還ると同時に、その頃には絡みついた木々の根が太くなって、敷き枝に代わって土圧を支え、通気環境が持続的に維持されるのです。



 表土の埋戻しには、既存の土にバーク堆肥等を混ぜて改良して埋め戻します。



 土中環境再生のためには、地形落差が必要で、ここでも植栽地を盛り上げて、土中水が動きやすい環境を作っていきます。
 また、雑木植栽はこうして根鉢が接するほどに密植することで、木々の共存効果と競争効果が植栽直後から始まり、早く健全な状態へと生育していきます。




 同じ作業を繰り返して、2つ目のマウンド植栽が完了し、木立越しに家屋風景に奥行きが感じられ始めます。




 3か所の植栽マウンド完了。1区画の景観緑地にこうして3か所ずつ、互い違いに植栽していきます。
 これは平坦な大地を吹き荒れる強風を緩和する上でも効果的な配植となります。



 さらに、この住宅地全体の大地の血管ともいえる通気浸透水脈の再生のため、敷地の接道側に空堀を掘り、その要所にまた、縦穴通気浸透孔を設けていきます。
 これを、この水脈が停滞した住宅地全体で行うことで、造成前の健全な土中環境を再生してゆくのです。



横溝の水脈も、地形や植栽配置に応じて緩やかにカーブさせていきます。地形に逆らわず、その土地の特性に応じた曲線で配してゆくこと、このことが実は非常に大切なことなのです。
 
 自然界の表層環境は、水と風とが動かして、落ち着かせていきます。そこに直線は決して存在せず、水の動きや空気の動き、それに土質、地形、生物環境とが、なだらかな流線型の地形環境を作って大地を落ち着かせていきます。
 だからこそ、地形に逆らわずにつくられた昔ながらの田舎道には直線はなく、それが自然の力を妨げないがゆえに、大掛かりなメンテナンスを要せずに何百年と保たれるということは、各地の山中の古道を見れば明らかに理解されます。
 そんな自然の働きを顧みずにつくられた直線的な構造物に対しては、自然界はそれを壊して安定させようという作用が働きます。そして人間はまた、壊されまいと、自然環境に対して強力な機械力で対抗し、そこに尽きることのない、自然と人との対立が生じます。そんな、これまでの開発の在り方を、大地の呼吸が完全に止まってしまう前に見直さればなりません。



 固い土を穿って溝彫りすると、表層土の断面が見えてきます。芝生地面の下に10センチの位置に固く、通気不全の環境下で青く変色しつつある、土層が形成されていることが分かります。
 この環境では通気も水も滞り、生物環境は極めて単純で不健全なものとなっていきます。

 この住宅地が農地転用を経て開発されたのは6年前のことですから、この硬板土層が形成されたのは、その後のわずか5年程度のことなのです。たった数年間で、広大な大地がこうして不健全な状態へと変貌し、生き物が健康に生育できない環境を次々に広げてしまったのです。

 日本の大地は、私たちの今の暮らし方によって知らず知らずのうちにこうして、その命の源である豊かな土壌環境から失ってしまいつつあるのです。
 その先には、人間が健康に生きてゆくための未来の環境はないのです。
 
 よい暮らしの環境を提供するのが造園の仕事であるのなら、見た目ばかりでなく、こうして足元の自然環境から健康に再生させてゆくことが、今後ますます必要とされることでしょう。



 大地の環境を改善しながらの植栽工事は大変な重労働で、一日の工事が終了する頃にはぐったりと疲れ果て、日が陰ります。
 でも、やりがいのある仕事です。この街全体がこうした作業によって素晴らしい環境へと再生される日が目に浮かびます。

 私自身、土中の水脈環境にまで目を向けて、その改善に本気で取り組み始めたのはほんの半年前からのことです。
 それまで、私は健康な自然環境を庭に作ると言いながら、実際には目に見える地上部の環境にばかり配慮してきたのかもしれない、そう反省しています。

 実際、これまで作ってきた庭の中でも、健康な環境へと育つ場所もあれば、そうではなく、木々に精気がなく活力ある環境へとなかなか育っていかない場所も確かにあります。
 根本の原因は大地の通気環境にあることが、今ははっきり分かります。

 どんな環境においても木々を元気に育てたい、生き物のにぎやかな気配溢れる環境を庭に作りたい、そんな想いで健康な庭つくりを追及してきたその果てに、大地の呼吸の問題に行きつきました。
 健康な未来は健康な大地の環境を再生することなくしてあり得ません。

 3月21日、カフェどんぐりの木でのお話会では、この大地の環境について、優しくご説明いたしたいと思いますので、多くの方の申し込みをお待ちしております。

 お話会のご案内はこちらより。

 

 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
         
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