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雑木の庭つくり日記

呼吸する緑の駐車場をつくる。     平成27年9月27日  


 先にご紹介しましたつくば市Mさんの住環境つくり工事、駐車スペースも完成いたしました。
 呼吸する土壌の通気透水機能を保持する駐車場は、穏やかな木漏れ日を浴びて雑木の庭と家によくなじみ、施工直後でも違和感を感じさせません。
 


 この駐車スペースは来年にはノシバが芽吹き、ここちよい緑の駐車場となってゆくことでしょう。
 播種したばかりの芝が芽吹いて力強く広がってゆくまでにはまだ、時期的に時間を要しますが、日常的に車の出入りするスペースにあって、駐車場という機能をきちんと保ちながらも、大地の呼吸は円滑に維持されて緑に覆われる、そんな施工を期しています。



 駐車場というと、一般的な先入観においては無機的で殺風景なイメージが伴うのが通常でしょうが、大地の冷気を吸い上げて清冽な空気が流れるこの駐車場は、施工直後でまだ緑が芽吹いていない状態でもなお、しっとりとした柔らかな落ち着きが十分に感じられ、その場の空気感を和やかなものにしてくれます。

 人が健康を保つために、住環境における大地の呼吸環境の重要性が、今後ますます認識されてくることでしょう。
 そして近い将来、住環境において、無機的に土壌の通気環境を閉ざすことをなるべく避けるような工法が必要とされることでしょう。
 その中でも、住宅敷地の中で一定の割合を占める駐車スペースの土壌が息づくものとなって通気透水性が保たれれば、都会の汚れた空気もずいぶんと浄化され、ヒートアイランド化も緩和され、なおかつ大雨の際の洪水のリスクも大きく軽減されることに繋がるのです。

 健全な自然の営みと機能が、健康で安全で快適な住まいや未来の街づくりに活かされるよう、こうしたノウハウを、これからも積極的に公開していきたいと思います。



 建築の際に敷き詰められて締め固められた厚さ20㎝もの砕石、この段階から、息づく駐車場へと、あまり手間やコストをかけることなく変えていきます。

 この締め固まった砕石を除去する必要などありません。まずは、横溝を掘って土中地形の落差を作り、それによって砕石層の中にも空気と水が流れてゆく環境をつ整えます。

 土中通気水脈再生のための横溝や縦穴の深さは、自然水脈が深い位置でどのように再生されてゆくか、大きな視点で全体地形や周辺構造物を見て判断します。
 ここでは、周辺地形は道路側へと地形傾斜が続き、そしてその1キロ先に河岸段丘が落ち込み、2キロ先の桜川へと続きます。
 つまり、深層水脈はその方向へと走っていますので、敷地の水脈も道路側へと導き、そして道路の下を超えてゆくような配慮が必要です。



 道路の車圧や締め固められた路床、コンクリート側溝の重圧の及ばない位置へと敷地の水脈を誘導するため、道路際の横溝を深くし、さらにそこから深さ1mほどの縦穴通気浸透孔を数か所掘ります。
 つまり、路面から地下1.6m程度の深さにまで土中の浸透水を誘導し、そして深層水脈へと繋がってゆくように配慮します。



 道路際、竹筒による縦穴通気浸透孔と横溝水脈。土壌の通気浸透性を自律的かつ持続的に改善してゆくためには、必ず有機物を用いることが必要になります。
 有機物を土中で腐敗させることなく、好気的に発酵分解させてゆくためには、土壌通気の確保と、媒体としての木炭などの炭を使いこなすこと、そのあたりが鍵となります。



 有機物を用いた通気浸透水脈が永続的に機能させるためには、やはり草木の根の力を借りる必要があります。ここでは、駐車場の使用に抵触しないデッドスペースに点々と苗木を混植して、その根が2~3年以内程度で駐車場の水脈全体に張りめぐらされて、太くなった根が代わって地盤を支えられるように配慮します。

 実際の駐車場の仕上げは、こうした水脈造作によって健全な土壌通気環境を整えた上で、ようやくはじめられるものなのです。



 溝や縦穴を掘った際に出た掘削残土と砕石を混ぜ合ながら、表層に敷き均していきます。



 その上に炭を敷き詰めた後、やや発酵が進んだ段階の細かなウッドチップを薄く敷きならします。



 ウッドチップを丁寧に敷きならした後、再び炭を撒き、



その上に今度は細かな土をまぶしていきます。



 そしてその上に、粒度をそろえた砕石を敷き詰めて均していきます。



 粒度調整砕石敷設後。その後また炭を撒きます。



 そしてまた細かな土を薄く撒き、



 その上から再度、ウッドチップをさらにうっすらとまぶし、また炭を撒きます。
 そしてその上からノシバの種を撒いていきます。



 そしてこれをホースで散水し、土や芝の種やウッドチップをを砕石の間の隙間に沈めていけば完成です。
 
 あとは、芝生の発芽を待つのみです。土圧は粒度調整砕石が支え、ウッドチップはクッションとなり、そして隙間の土や芝の種は圧密されることなく、土壌も通気透水性が保持されます。
 施工直後から、大雨が降っても泥が上がってくることや道路への流出は全くありません。



 なんとも穏やかな駐車場の表情です。砂利と土、有機物と炭、安定した環境を再生するためには無機物と有機物の双方の組み合わせが不可欠であって、そしてそれを繋げてゆく触媒的な役割を、植物遺体の炭化物である木炭などが担うのです。

 大地の循環、無から有を生み出す源こそが呼吸する大地であって、その仕組みをよく理解すれば、どんな環境でもそれなりに息づかせてゆくことができるものです。



 駐車場も庭も、どちらも大切な住環境の一部です。庭だけ美しくしても駐車場が無機的で殺風景なものであれば、住まいの環境としては、その可能性を十分に活かしたものには決してなりえないのです。
 息づく土壌の再生こそが、快適で健康な人の住まい環境つくりに直結し、そこを忘れて形だけ整えようとしても本当の意味で快適な環境は生まれません。
 これからの時代、こうしたことをみんなが考えて、わずかな敷地であっても健康に呼吸する大地を取り戻してゆくことができたら、きっとふるさとは、再び愛着の持てる優しい表情と空気感をもたらしてくれることでしょう。
 それはそこに住む人の健康、心の健康にも直結するのです。



 ブログでおなじみのちばダーチャフィールドの敷地内車道も、大地の呼吸環境改善によって、自然と心地よい野生の芝に覆われました。それは最近の公園緑地などのような呼吸しない硬い地面に植えられた芝と違って、表情は優しく、ふんわりと、心地よい空気と土の香りが漂って、そこで子供たちは、まるで数十年前の光景のように全身で駆け回り、時間を忘れて遊びます。

 こんな光景を見ると、いのち息づく環境の再生こそ、人の再生、社会の再生、そして本当の豊かさを取り戻すための最も大切なことだということを、改めて確信させられます。

 Mさんの駐車場、その後の変化はまた、ブログにて紹介していきたいと思います。





投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2015年9月27日 09:41) | PermaLink