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雑木の庭つくり日記

つくば市の庭 明日完成!       平成27年9月19日


 今月から2期工事にかかり始めたつくば市Mさんの庭が、あとわずかとなりました。明日、駐車場を仕上げれば完成です。




 こじんまりとした家屋の佇まいが心地よい平屋家屋を建てられたMさんご夫妻の念願の新居です。
 新たに開発された水はけの悪い新興住宅地にあって、水も空気も心地よく流れる、人にとっても木々にとっても快適な環境を作るべく、見えない部分で様々な造作を凝らしています。



 植栽してまだ数日ですが、新たに生まれた住まいの森にツクツクボウシが一匹。
 雨上がりの残暑となった今日の午後を精いっぱいの声で歌います。



 ウッドデッキと木柵などの木工事と、駐車スペースの仮工事を中心とした一期工事が終了したのが今年の春。
 念願の新居だというのに、この状態でMさんは半年もの間、根気よくお待ちくださいました。。。
 
 お客様をお待たせするのはいつも心苦しいのですが、「待った甲斐があった。」と言っていただけるよう、施工の際はいつも全力でできうる限りのことをさせていただいております。
 ともかくも、この状態から2期工事のスタートとなりました。



  今、私たちの造園工事はまず、大地の呼吸環境の改善から始まります。
  人間が、人間だけでは決して持続的に生きていけないのと同様に、木々も、様々ないのちが息づくことのできる健康な大地の環境でこそ、末永く健全に優しい表情を見せてくれます。
 そこに住まう家族の心身の健康を養うという、大切な役割をもつのが庭の草木や生き物たちなのですから、彼らが健康に生きられるように配慮する、そんな当たり前のことを私たちは、再び思い出さなければいけません。



 大量に流れる屋根からの落ち水を、この土地本来の地下水脈の動きに連動させるように誘導することで、開発造成によって停滞した、この庭の土中の水と空気の流れを再生していきます。
 単に暗渠として「流す」のではなく、途中に点々と、深く浸透させてゆく縦穴を要所に配して、自然に近い多彩な水と空気の動きを再生していくのです。



 縦穴通気孔には竹筒を差し込み、その周囲を枝葉等の有機物を絡ませながら、埋め戻します。
この枝葉は、竹筒を通して空気と水が円滑に条件の下で徐々に分解され、その過程で土壌生物環境を豊かに育んでいきます。
 そして、この通気のよい土中環境に吸い込まれるように根が伸びていき、そして数年という短い期間で草木の根がこの筒の周りに張りめぐらされ、通気のよい土中の環境を樹木の根が代わって守り支えるのです。



 土の中の通気のよい場所に、草木の根は吸い込まれるように伸びていきます。数か月前、植栽と同時に周囲に埋設した竹筒通気孔の表土を掘ってみると、わずかな期間で木々の細根が吸い寄せられるように、この竹筒へと伸びている様子が分かります。

 草木根はじめ、土中の多彩な生き物たちもすべて、私たち人間と同様に息をしています。
 住宅造成の際、あらゆるいのちの源であるはずの土壌は、単に建築物を支える基盤(地盤)として考えられる中、締め固められて蹂躙された土は呼吸不全に陥り、通気性も透水性も失ってしまいます。
 同時にそれはいのちの再生の欠かせない、、水と空気の浄化再生能力さえ、失なわれてしまうことになるのです。

 空気と水が流れていかない、そんな土壌環境が今後も増え続ければ、大雨の際、浸透せずに排水溝に流れ込んだ雨水はダイレクトに川に集まり、ますます洪水のリスクを増すことになるのです。

 国土強靭化とはさも簡単に言われますが、私たちの命を守る本当の国土強靭化とは、大地の呼吸環境の再生、自然環境の健全化なくしては決してありえず、現代土木の思考に基づく大きな力で抑え込もうとすればするほど、自然のしっぺ返しはより大きなものとなって私たちに跳ね返ってくるのです。

 かつてのニワ、木を植えるという行為は、土地を守り、水を守り、いのちの環境を守る、そんな役割を意識して、あるいは無意識にもきちんとわきまえて、永代の人と自然との共に心地よい環境を育てようとする視点があったのでしょう。その結果として、今もなお、のどかで有機的な風土の欠片が、わずかながらも辛うじて残っているという事実を再び思い起こす必要があります。
 すべては過去の尊い営みに支えられて、私たちの今があるのです。
 今の社会、私たちは子供たちが生きる未来に対し、どんな風土や環境を守り伝えていけるのでしょうか。
 環境再生の現場仕事を通していつも、今の社会の盲点に気付かされます。
 


さて、水脈改善も終えて、動線の配石も終わり、いよいよ健全化された環境で、庭は植栽を今か今かと待ち望んでいるように見えます。



 雨樋の水は鎖を伝って、水鉢で受けます。その下に段階的に浸透してゆく土中環境を整えています。
 これによって、雨が降って水が大地に深くにしみ込む度に、水脈をのストローに引き込まれるように空気が吸い込まれ、土中深い位置まで空気が入り込む環境が恒常的に再生されていくのです。



 樹木植栽後の庭の表情。
 生き生きと呼吸できる環境に引っ越した木々は、夕日を浴びて喜んでいるように見えます。



 それにしても木々の力はその場の全てを一変してしまうほどの潜在力があります。
 その力を最大限に引き出すのが、私たちの仕事の妙味でもあります。




 駐車スペースから庭へのこじんまりとしたエントランスの表情。
 そして今日、駐車場の仕上げにかかります。



 駐車場といえども、住まいの大切な環境の一部ですので、有機的で潤い感じる緑の駐車場を作ります。
 駐車場工事もやはり、水脈環境改善から始まります。水と空気が停滞しやすい道路際の溝掘りです。



 そしてそこにやはり、縦穴通気孔と横溝には透水コルゲート管を通します。この際の縦穴の深さは、舗装道路の土圧の及ばない深さまで掘ることによって、道路を超えて水脈を誘導し、道路下の車圧の影響を受けない深い位置にまで、樹木の根を誘導していくのです。
 通気のよい土中環境が維持されれば、木々が舗装を持ち上げて壊すということもありません。

 街路樹の根上がりによる舗装の持ち上げは、木々の根がきちんと呼吸できる環境へと改善されればすぐに収まるばかりでなく、街を潤す木々も心地よい表情で健康に生き続けて、私たちの街の環境を守ってくれる、本当はそんな簡単なことなのです。



 そして剪定幹枝や石を絡ませながら、通気のための隙間を守りながら埋戻していきます。
 車圧に耐えうるよう、沈んでいかないように一工夫しながらの作業です。



そして、水脈の上、駐車場の使用に支障のないスペースに3か所ほど、木々の苗を密植混植しながら植え付けていきます。
 主にカシやコナラの苗で、これらの根が水脈を通して駐車場に巡り、車圧のかかる地盤を支え、土中の通気環境を維持するのです。

 生け垣のことを、かつては「垣根」と呼びました。つまり、木々の根による垣(外との隔て)、という意味です。
 住まいを建てる際、敷地の周りにまず溝を掘って、そこに生活排水が誘導します。
 そして、掘った土を住まいの周りに盛り上げて、そこに苗木を植えていきました。
 盛土に植えられた苗木は、外周の溝との地形落差によって水と空気が円滑に動く土壌環境において、健全に育ち、土中に張りめぐらされた根が、幾度となく押し寄せる大雨や洪水からも、生活環境を守り抜いてきたのです。



 駐車場の造作にかかり始めた今日、一日がかりでその下の大地の呼吸環境の改善に費やします。
 見えない部分になぜここまでやるのか、それはそこに住む人にとって心地よい環境を作るために、必要なことだからなのです。
 心地よい環境とは決して、見た目ばかりの景観だけではありません。
 大地から、心地よいにおいと共に、健康な土の中で浄化されたきれいな空気が湧き流れ、そして木々も生き物も健康で安心した表情を見せる環境こそ、本当の意味で人にとっても心地よい環境なのだと感じます。



 水脈造作や要所の植樹を終えて、いよいよ明日、駐車場の仕上げにかかります。
 駐車場は芝生の播種によって、庭と一体化した緑の空間を目指します。
 播種した芝生が健全に育ってゆくためには、何よりも土壌の通気が大切で、それが確保されれば芝生は、車圧のかかる環境にも十分に耐えうる力を持っているのです。
 播種した芝が芽吹いて伸び、駐車場を覆うのは来年のことでしょうが、来春以降の生き生きとした庭の成長を夢見ながら、明日、この庭をお引渡しいたします。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2015年9月19日 18:17) | PermaLink