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雑木の庭つくり日記

平成から令和へ 川越の庭、竣工  令和元年5月1日
 
 高田造園ブログを見てくださる皆様、大変お待たせしました。
今年も早くも新緑の時期となり、そして、令和の時代が始まります。新たな時代が日本にとって、そして世界にとって、すべてのいのちの営みにとってよき時代となりますように、願いを込めます。

 これからもどうぞよろしくお願いいたします。



 昨年からとびとびの日程でかかり始めました、川越の庭、一昨日に完成しました。
綾部工務店施工の石端建ての伝統家屋を大地息づく雑木の空間で包み込みます。







 裏口側です。



隣接道路より、玄関アプローチ越しに、家屋と庭を垣間見ます。



 洗い出しと敷石の玄関アプローチも、土地に重量をかけずに大地の水と空気の流れを遮断しない、呼吸する下地状態を保ってます。
 すべての土木造作において、私たちは今、土地のいのちの循環を妨げず、再生しながら、庭の空間を作っております。
 たくさんの思考錯誤の中で、今のスタイルに至りました。そのヒントは常に、先人の営みと精神性の中に見出してきました。
 温故知新、と言いますが、行き詰った時代を潜り抜けて時代の進化に到達する、そこには過去現代未来三世を通して大切なもの、過去の造作の意味をきちんと理解して活かしてゆくことが大きなカギであり、妥協なく徹底していくこと、その果てに、楽しみと喜びがあり、わたしたちの造園造作の日進月歩の歩みがあったように感じます。



玄関アプローチから、濡れ縁越しに主庭側を垣間見ます。



 駐車場側から、木々越しに家屋の空間が繋がります。
 
 駐車場の写真は間に合いませんでしたが、3台分の駐車場もまた、土地の通気浸透性を遮断せず、むしろ年月とともに高まってゆくように仕上げています。



主庭の一角に、大穴を掘削し、そのまま落ち葉溜めとして仕上げています。

ここが主庭の土中の水と空気の動きを促す、大切な装置となります。

枯れ池にも見えますが、いずれこの土地の土壌環境が育って木々の根が側面や底面に張り巡らされるにつれてしっとりとした苔が覆ってくることでしょう。そして水の浸み出しが再生されれば、土壌は自律的に恒常性を整えていくのです。

 私たちの環境造作は、自然の作用が健全に向かうように、ちょこっとだけお手伝いする、きっかけを導くものであり、その先に、未来の土地の心地よさ豊かさがあります。
 そんな営みが、過去連綿と続けられてきた果てに、今の私たちが生きる大地がある、そのことをいつも心にとめて、先人とともに歩んでいきたいと願います。

本来の枯山水造作は、大地の通気浸透性に配慮した環境造作が原点にあったようです。
昨年12月の京都新聞での記事だったと思いますが、京都の枯山水が街環境にける浸透性の確保、洪水緩和の面で大きな役割を果たしているという調査研究結果が報告されました。
 当然のことですが、あまり知られておらず、そんな視点と意識をもって、記事の元となった調査研究をなさった方々に敬意と感謝を申し上げたいと思います。

 かつての土地の造作は、必ず環境の安定と調和を促す本質的な視点があって、それを現代人が忘れてしまっているだけのこと、これからの私たちの文明が、永続して子供たち、孫たち、そしていずれは私たちが還ってゆくこの大地のすべてにとって、本当の意味で資する在り方、生き方へと歩んでいけるよう、自分のできることに注力していきたいと願います。



これは施工中の様子です。

以前は田んぼだったこの土地を埋め立て、長年駐車場だった土地です。ハンドピックという削岩機を用いての土地改善造作となりました。



 植栽箇所の下地には、山中にて風化させた枝や瓦を敷きます。
土地を締め付けず、適度な空間を保ち、そして菌糸や土中生物が活動しやすい植栽環境を作るのです。



 植栽箇所の下にも多数の穴を穿ち、そこに炭と瓦と藁などを重ねて、菌糸な根が深くまで誘導されて深い位置から土中環境が再生されてゆくよう、労力を費やします。

 私たちの仕事では、植栽などの、目に見える部分の造作の何倍もの時間と労力を、見えない土の中の健康な環境つくりに費やします。
 それこそが、穏やかで健康な庭環境の表情に繋がり、そして未来の土地の豊かさ、健康につながります。
全てのいのちが調和をもって共存できる環境に、人の安らぎも心地よさも生まれる、そこは単なる見た目のデザインではなく、その基には人の営みを自然の大きな営みの中に受け入れてもらうための、不可欠な視点があります。



 こうしてまた、庭の完成と同時に、息詰まった土中の環境が再生へと向かい始めるのです。



 庭という、街の中の小さな点の空間の土地の再生、それが点と点が繋がって、いつか傷めてしまった大地の環境再生の拠点なってゆく、そんな庭つくりをしていきたいと思います。


 
 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
新年初工事 埼玉県八潮市 低地の植栽 平成31年1月17日
 
 皆様明けましておめでとうございます。私たち含む、世界中の人たち子供たちにとって、今年が平和で、たくさんの希望を感じる年となりますように・・。
 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、昨年から断続的にかかってきました埼玉県八潮市の庭、植栽と土中環境改善を進めております。



 八潮駅近くの新興住宅地は、水のはけにくい低地に最近造成されました。
 造成によって土の中の環境もさらに悪化して、掘ればいたるところに停滞水がじわじわと浸み出します。
 今は、これまで人の住まなかったような立地だろうが、構わずどこにでも大規模に造成されて売られる時代ですので、こうした、環境的に問題のある土地は当たり前になってしまいました。
 しかし、こうした場所でも、庭の植栽の仕方によって、土地を育ててゆくこと、回復させてゆくことも十分に可能です。

 今回、少し、植樹を追って紹介します。



 まず、環境つくりのための植栽は、一本単位で植えず、自然群落の組み合わせを参考に、高木、中木、低木を、必ず組み合わせで植えていきます。根鉢と根鉢をくっつけ合うように植えることで、土中菌も多様化し、そしてそれを木々の根もお互い利用し合うのです。
 自然界では菌糸のネットワークの中で草木が情報交換といのちの補完を行っているのと同様のことを、庭の環境に作ってゆくのです。



 先の植栽マウンド、植栽完了後。景観だけでなく、こうした植栽群を適切に点在させてゆくことで、土地改善の起点を作ってゆくイメージです。



 こちらは同じ庭の中庭側で、昨年秋の植栽終了して今の様子です。その数か月全く水を与えずとも、木々は生き生きいています。



 確認のために、1本を掘り取り、根と菌糸の様子を観察します。
 秋植え後の冬だというのに、わずか数か月ですでに、根と共生する白い菌糸はびっしりと張り巡り、そして新たに細かい根がたくさん出ています。そしてその根の先の方にも、白い菌糸が多い、根と養分や水分の交換を行っている様子が分かります。

 こういう状態になれば、木は水を与えずにもたくましく生きていきます。菌糸が乗ってこないと、いつまでも生長不良が続きます。菌糸が乗ることではじめて、新たに植えた木が土地のいのちの仲間入りを果たしたと言えるのです。

 菌糸が健全に土中を覆い、木々の根と共存してゆく、土中環境の再生が、荒廃地でも健康な庭を作るために、最も大切なことになります。

そのために、土中環境つくりは十分かつ、臨機応変に行う必要があります。



 植栽する場所の下地に炭と燻炭を混ぜて攪拌したうえ、縦穴を数か所開けていきます。



 その縦穴の中に古瓦片と炭を入れて、通気透水層を、根鉢の下に作っていきます。





 そして、木々のバランスを見ながら、改良した植栽下地地盤の上に置いていきます。
 一か所にこれほどの木々を、しかも根鉢をくっつけるほどに密集して植えます。



 植えるというと、穴を掘って根鉢を入れて埋め戻す、そんな風に考える人が多いと思いますが、こうした外周道路との高低差に乏しい今の大規模住宅地、しかも、ここは本来低湿地、こうした庭で穴を掘って木を植えると、多くは酸欠や根腐れの症状を呈してしまいます。
 穴を掘るなら、植える場所の隣を掘って、その掘った土で盛って植栽する、これは実は、それこそ昔からの日本の環境林造成の手法であります。




正面が、今の場所の植栽埋め戻し後です。これで終わりでなく、まだまだやることあるのですが、その手順はまたいずれ紹介します。
 
 玄関アプローチの石畳も、自然に植えられた木々の合間でようやく落ち着きを感じさせてくれます。




 こんな感じで、植栽群落を一つずつ丁寧に、土中環境から作ってゆくことで、高低差のない低湿地の住まいの庭も、健康な森となっていきます。

 環境が健康であれば、小鳥も楽しそうに囀ります。人もやさしくなれます。
 そして、ひんやりと、深呼吸したくなるような発酵した土の香りが感じられる、そんな環境となって住まいを包んでいきます。

 広いのでまだまだかかりますが、また報告いたします。

それでは皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
麻賀多神社旧裏参道 地すべり斜面の安定造作 平成30年11月4日
 

 ここは千葉県成田市台方、麻賀多神社。
 終戦の前年、この地に降ろされたという日月神示で有名なその鎮守の杜には、東日本一とも言われる大杉をはじめ、巨木たちが今もかろうじて、この太古からの豊かな営み香る、この地を見守っているようです。

 鎮守の杜、それは本来、その地域の環境の要を守るべく、本来その神域は、一山丸ごとあてがわれてきました。ところが今、多くは本殿拝殿の周辺のみを鎮守として残すのみにまで、極度に縮小されたケースが非常に多く、この麻賀多神社も同様に、今や鎮守の杜は、かつての森のほんの一部にしかすぎません。

 なぜ、古来から土地の要の地として鎮守を定め、その環境を守ろうとしてきたのか、その意味を今こそ問い直されねばなりません。



 麻賀多神社の旧裏参道だった小道において、長年土地の豊かさを守ってきた巨木も今は次々に伐られ、殺風景で霊気もない、つまらぬ道に変わり果て、その光景に落胆を隠すことができません。
 でも、これが今の日本の現状です。巨木は、単なる危険物として次々に伐られ、そしてそのあとには歴史も風土も感じさせてくれる光景が何もない、乾いた土地へと変貌します。



旧裏参道、本来鎮守の木々に守られた石段の道だったであろうこの道も、いつしかコンクリート舗装の車道となりました。
 そして両脇の斜面は、崖条例指定区域とされるほどに荒廃し、不安定な土手には、荒れ地の雑草が喧嘩するように競い合って徒長し、そしてそこに周辺の住人が除草剤散布する。
 その結果、土壌は傷み、表土を守るべく草木根も枯れ果て、そしてまた崩落が進む悪循環。
 こんなバカげたことが今、全国の田舎で繰り返されているのが現状です。



 土壌が安定構造を保つことのできないまでに蹂躙され続ける土地は、たとえ傾斜が緩やかであっても、地すべりや斜面崩壊、土砂の流亡は続きます。
 ここでも、斜面全体に無数の小規模崩壊が常時発生し、そして道路をも埋めていきます。

 このたび、この土地を取得されたTさんの依頼により、この参道の土壌環境再生による土地の安定のための造作を行いました。
 
 崩壊斜面の安定のためには、コンクリート擁壁など力で抑え込む必要など、全くありません。
 その斜面の土の中を、水と空気がともに健全に動く、そんな環境さえ整えることができれば、そもそも地形を崩そうとする土圧など発生しないのです。
 そうした自然の摂理に基づくやり方があり、そしてそれは特別な技術者でなくたって、だれにでもできるものだということを知っていただききたいと思います。




斜面のキワに、垂直の段差となるように切込み、そしてそこに横溝、縦穴を掘り進めます。




 垂直段丘の形成、横溝、縦穴終了後、縦穴に竹筒を差し込み、枝葉を漉き込みます。



 そして、斜面際に現地での竹林整備で発生した竹を用いて、キワの土留め柵を編んでいき、



 そしてその柵に剪定枝葉を絡ませ、そして埋め戻します。
 この枝葉が適度な湿潤状態で分解が進むと同時に、分解の過程で増殖する土中菌糸がそこから延びて、斜面の通気性保水性を高めていきます。
 そんな状態が生じるころにはもはや、土圧も水圧も発生しない状態となるのです。



裏参道沿いの斜面下部、水が集まりそうな地形。
 土中環境の衰えとともに進入した竹林の中になお、大木が残っています。
 今回、竹林整備と同時に、この水脈の要の地に大きな穴を穿ち、土中通気透水環境の改善を図ります。



 
 斜面を下って道が折れ曲がる地点、ここが土中水脈の要、心臓部と言える場所、ここに深さ2m近い大穴を掘り、そこで整備の際に発生した伐竹を燃やし、炭化させます。



 いい感じに炭になり、炎がおさまり炭火となるのを待ちます。



そしてそこに土をかぶせ、



よく踏んで、空気の出入りを遮断します。
これによって炭が灰になることなく、現地の残材を用いた埋炭が完成していきます。



 こうした一連の土中環境造作により、重苦しかった土地も軽やかに、明るさを取り戻してゆくようです。



 そして、この穴が大地の呼吸孔であり、それを守るべく、ミニ鳥居を作って据えました。
 龍神様の守りです。



 地すべりが止まない不安定な土手が、こうした一連の造作で安定し、そして斜面の土壌はますます健康なものとなっていきます。




 そして、キワの土留めの上部のミニ段丘は、直線状に造成するのではなく、微妙な地形に応じて、変化をつけていきます。
 こうしたきめ細かな観察と造作が、斜面安定のための重要なカギの一つとなるのです。

 この後、微妙な谷部分で、再び小規模な崩壊が起こるのですが、それでよいのです。
 自然が、大地の健康を取り戻そうとして起こる現象の一つが斜面崩落です。
 この、人為的な段丘形成によって、この斜面はこの造作をきっかけにして、再生へと動き始めます。
 すなわち、斜面安定のために、もう少し地形を変える必要のある個所を、この後、小さく崩していきます。そして、そこに土中菌糸と草木根が呼び込まれて、安定した土手となっていくのです。




 これでこの斜面は、改善に向かいます。上部の土壌環境もまた、豊かに育っていきます。

空気と水の通りの良い、自然の営みに逆らわない造作は、何とも言えぬ美しさと落ち着きを感じさせてくれます。





 総延長100m近い参道沿いの崖面道路際に、合計55か所の縦穴通気孔を設け、竹筒を通して土中深部から安定させてゆく。それが土地の自然本来の安定化作用との協業で行われるのが私たちの環境造作です。

これで土地は安定に向かうのです。




 そして、この枝を絡ませた、枝絡み土留めが土の循環へと還るとき、ここに安定した段丘が自然の力で完成していきます。
 私たちの環境造作は、自然の安定作用に対する、ほんのわずかなお手伝いに過ぎません。

 地すべりに対して、擁壁を巡らせて力任せに抑え込もうとしても、それは決して永続しない。永続しないものに守られる住環境など、本当は砂上の楼閣と変わらないのです。

 むしろこうして、自然の作用に従い、自然本来の呼吸する地形の中に、人の都合の良い営みを溶け込ませてゆくことで、環境の豊かさの源を高めながら、共存の美しさを育むことができる、そんな造作が当たり前になれば、かつての美しい人の営みの風景はまた、戻ってくることでしょう。

 かつては当たり前におこなわれてきた、智慧に満ちた環境造作を今、多くの人に思い起こしていただきたいと思います。


 
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
埼玉県飯能市の庭、竣工  2018年4月13日
 

 新緑まぶしいこの時期、あらゆる命にとって一年の中でも最も希望に満ち溢れる時期ではないでしょうか。
 この時期を新学期、新年度のスタートとしてきた日本人の感性に、心地よい親しみを感じます。
 さて、この一週間、泊まり込みでの集中施工で庭が完成し、また一つ、これから育まれる風景が生まれました。

 入間川の畔、背面の崖線の木々が借景となって繋がってゆく、そんな風景を意識しました。






 この庭の正面に、地元の憩いの場であると同時に週末にはたくさんの観光客でにぎわう飯能河原のゆったりした景が広がります。
 庭の背景として絶好のロケーションであると同時に、この庭が飯能河原の一角の風景として、訪れる人たちにとっても、さりげなく、飯能河原の心地よい印象を深めてもらえる、そんな庭を心がけました。



家屋側、玄関付近からの景。飯能河原周辺の森とつながってゆく、そんな植栽と空間配置です。






 この住まいのデッキからの眺めを構成する、その中で改めて、風景はせせこましい人間の所有を超えてつながっているという、ごく当たり前のことに気づかされます。
 風景ではなく、環境のつながりというのが本来なのでしょう。

庭を想うことで、生きとし生けるすべてのいのちのつながりに想いを抱く、そんなきっかけになる庭つくりができれば、そんな気持ちになります。



 こじんまりとした平屋、この場所にはこのスケールがたまらぬほどにしっくりと収まります。
 これが二階家屋であれば、背面段丘崖の木々とのつながりがぷっつりと途絶えてしまうのです。





 庭の木々越しの家屋風景。植えたばかりの木々も、植えられた直後からその土地の風景に何の違和感もなく溶け込む、そんな植栽の在り方が、数十年の風景を育むものと信じます。



 道路から見た庭の全景。
単純で一見何もない、シンプル極まりない空間ですが、周辺の景に違和感なく収まり、そしてこの地の風情をさらに高めてゆく、それが私立ちの目指す庭の極意かもしれません。



 
 庭の木々と背面段丘の木々。






 シンプルでいい。その土地の風景として、人間だけでなく、あらゆる命にとって心地よく愛される庭、そんな空間を作っていければ、造園という仕事は本当に今の時代にかけがえのない価値を発揮することでしょう。
 
 お施主のIさん、施工まで長らくお待ちいただきありがとうございました。

また、今もなお、お待ちくださっているお客様、一つ一つ心込めて作ってまいりますので、今後ともどうかよろしくお願いいたします。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
新年、最初の庭竣工「野鳥の集う庭」 2018年1月31日
 
 今年も早、立春を迎えとしています。
 今年が平和と希望の年になりますように、祈りを込めて。



 今年最初の造園環境改善工事、千葉市若葉区の新興住宅地の庭が先日竣工しました。

 この住宅造成地は、私の地元、森を切り払い、畑をつぶし、重機で平らに造成し、幾世代にも続く故郷の原風景も、生き物の生育環境も大規模に潰して、造成されました。
 
 心のふるさと、地元の森や畑が大きな機械力ではぎとられるように造成の始まった、数年前のやるせない気持ち、今も浮かびます。

 それまであった森や畑、古い家、すべてをはぎとり平らにして立ち並ぶ新たな家屋、そこに住居を構えられたOさんに、庭つくりの依頼をいただいたのです。

 野鳥の写真を撮り続けてきたOさん、建築前の打ち合わせの際に私に言いました。

「たくさんの野鳥が訪れ、住み着き、森に行かなくてもここで野鳥観察ができる、そんな庭にして欲しい」

というものでした。



昨年の9月に始まった工事は2期に分けて行いました。大規模に地形を壊して行う最近の住宅開発地の多くは、風を緩和してくれる樹林もなく、強風の砂漠のような無機質な、そんな暮らしの場に変貌します。

 ここに自然環境を再生する意味を考えます。
 過去永劫に育てられてきたいのちの環境を現代一時の間にすべてを奪い取って顧みない、それが現代のわれわれ人間のやっている所業。

 しかし、そこに心あるお施主が居て、そして、庭を野鳥が集う森にしたいと要望されたとき、
 「ああ、この砂漠のような住宅地に一点でも、生きた土地、森が育つ環境を再生していけば、やがてそこが点々と森をつなげていって、街の環境再生の起点になって行くかもしれない。」
 そんな希望が胸によぎり、そしてこの庭環境再生に取り組みました。



 畑と林だったつい10年前、この辺りの森にふつうにあった木々を組み合わせて一群落を構成して、広大な住宅地にわずか一か所の植え込みが、街の見え方を大きく変えていきます。



 一期工事にて、玄関前の植栽、アプローチ、浸透する駐車スペースの施工を終え、そして今年になって二期工事にかかり、先週完了したのです。



 庭の中央には枯掘りのような溝を巡らせて、そこが傷んだ大地の呼吸再生の要になります。

 枯れ流れのような日本庭園における造形造作も、本来はその場の環境を息づかせていのちの環境をより豊かに育むための環境装置という面が必ずありました。
 失われた先人の智慧、環境を保つ技を、庭の中で未来の人たちに繋いでゆく役目、現代の造園の中で、それを担わなければいけません。

 野鳥が集う庭、それは、単に特定の野鳥が好む実を植えたり巣箱や水場をつければよいというものでは決してありません。
 土の中の世界を含めてたくさんのいのちの循環がことのできる、豊かな環境を取り戻し、そしてその優しく温かな木の流れの中で、小鳥たちもここで安らげ、いのちの気配に安心するような、そんな環境にしてゆくこと、そこが大切なことと思います。



 小鳥が憩う水場は、浅い水盤を用います。
この水盤の下の土の中に大きな空洞を設け、土中の空気と水を動かしてゆく拠点になります。
 見える造作よりも、土の中の見えない部分の造作に、より多くの配慮を注ぐことで、いのちの気配溢れる心地よい環境が醸成されていきます。

 お施主のOさんは、庭にルリビタキを呼ぶのが望みです。
ルリビタキはなかなか街の中の庭には訪れませんが、おそらく、何年かすれば、きっとこの庭にルリビタキも来てくれることでしょう。
 小鳥たちのための庭、この庭がそうなるように、今後も管理育成していきます。



玄関前の石畳。この周辺の植栽も含めて、昨年秋の竣工です。すでにしっとりと、土壌が育っていることが様々感じられます。
 造成され、むき出しの赤土だった、痛々しい環境に、丁寧に向き合うことで再び、森の木霊たちが戻ってくる、そんな実感。



 植え込みの土壌保護のためのウッドチップマルチも、呼吸する土の上で絡み合い、飛散することなく落ち着き、そしてそこに菌糸のネットワークが張り巡らせます。
 この菌糸が様々ないのちを繋ぎ、生と死を繋ぎ、大地のいのちの連携をつくり、そして環境をゆっくりと豊かに育ててゆくのです。

 植栽仕上げ後、わずか二か月で、こうした状態に至る、そのために、我々は土の中の環境再生に力を注ぐのです。



 2か月前に植えた樹木の根を彫り上げてみると、すでにびっしりと粘菌、変形菌がまるで血管のように大地のネットワークと木々の根をつなげようと、活発に動いていることが分かります。
 これを確認してはじめて、私たちの造園施工は完了です。

 木々も人も、動物、小鳥たち虫たち、菌類微生物、あらゆる命が平和に共存する世界、そんな理想を庭に込めるのです。

 この庭は、これから生き生きと育ってゆくことでしょう。
お施主のOさん、長らくありがとうございました。
 また、お待たせしておりますお客様、心機一転、今年はこれまでにましてさらに良い空間を提供してまいりますので、どうかよろしくお願いいたします。

 皆様、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。





投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
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