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雑木の庭つくり日記

幼稚園の環境改善工事を終えて     平成27年9月6日

 お盆明けの工事を一つ、ようやく終えて、久々に心静かな日曜日を迎えました。仕事を通して感動を得て、そしていつも新たなことを学んでいきます。今回もそうでした。
 めまぐるしい日々の中、想いをブログでご紹介できることはいつもほんのわずかなのですが、久々のこんな静かな日曜日には、少し想いを伝えることができたらと思い、ちょっとご報告したいと思いました。




 ここは東京都小平市 なおび幼稚園。2年半前に植栽した木々はこの夏、涼やかな木陰を広げてくれています。



 園庭の外周には、子供達200名と一緒に植えた木々の苗は大きく成長し、2年半を経て、いまや高いところで4mを超える樹林帯となりました。
 わずか30㎝の苗木、小さな子供たちと一緒に植えたポットの苗木が、わずかな月日でこんなに立派に育ってゆく、こうした光景を目の当たりにすると、造園という仕事の常識まで問い直される思いがいたします。



 造園的にはおおよそ順調に景観が育っているように見えますが、実際にはこの庭も10年前の園舎改修以降、根本的な大地の環境劣化が進行していたのです。
 
 自然環境に対してよほどの愛情を持ちえない限り、あまり気付くことはないかもしれませんが、根本的な生き物環境の劣化は日本中で今や加速度的に進んでおり、そうした園庭の変化に気づいたこの幼稚園の園長先生は、健全な環境再生を私に依頼くださったのです。

 園長先生は言います。

「確かに木陰は増えて心地よくなったけど、この木陰は昔の木陰とは違う。なんていうのかなあ、昔の木陰は、そこに行くとひんやりと土の匂いがして、ふかふかの土の中に虫たちがたくさんいて、見上げると木の上に虫や小鳥の声が聞こえる、子供たちにそんな木陰で遊ばせたい。木陰があればいいってものじゃなくて、昔のような本当の木陰のよさを取り戻したい。」
 
 園長先生はさらに言います。

「10年前に園舎を建て替えて以来、土が硬くなって芝生もなくなってきた。何より今年は特に生き物が少ない、トンボも蝶々もバッタもコオロギもほとんど見かけないし小鳥も少なくなった。木があるだけじゃなくて、ここが昔のように生き物でにぎわう、そんな環境にしたい。」

そんな園長先生の素晴らしい想いに感動し、さっそく園庭の改善工事に取り掛かることになったのです。



 2年半前の植栽の際、柔らかで肥沃な土に入れ替えたのですが、それでも地中の空気と水が土中で滞ってしまえば、土壌は呼吸できずに急速に劣化し、そして生き物が生育できない硬い土壌へと、短期間で変わり果ててしまいます。
 実際に、この幼稚園で今年の大雨の際、雨水がはけきらずに建物に浸水するという出来事があったようです。これまでそんなことはなかったと思うと、それだけ土壌が機能低下が進行してししまっていることが理解されます。

 大地が息づいていたかつての環境であれば、傷んだ部分だけ土を改善すれば、あとは自律的に健康に息づく土壌が育っていったのですが、現代のように劣化して呼吸不全に陥った大地の環境においては、土の入れ替えだけでは、本来の健康な環境を取り戻すことができにくくなっているのです。
 
 反面、土壌の通気透水環境さえ改善すれば、大地はおのずと健全な方向へと再生されていきます。その、自然界の自律的な再生を手助けすることが、今は必要なのかもしれません。
 これからはそんな視点を大切に、人の営みが自然環境を苦しめることなく、全ての環境がより良くなるような、本来当たり前の配慮が普通になされる、そんな世界が実現すれば、人は持続的に幸せに穏やかに生きていける、日々、環境改善の現場で仕事し続ける中、そんな想いが確信となり、何かに背中を押されるままにこうして仕事を続けております。

 なおび幼稚園の土壌劣化は、10年前の建築時の機械踏圧や地形攪乱の影響、コンクリート水路などによる、土中の水と空気の動きの遮断などが大きな原因であることは、状態をきめ細かに観察する中で見えてきます。
 原因が分かれば改善の道筋はおのずと見えてきます。



 硬化した土壌は乾燥と過失を繰り返し、大地は呼吸しなくなります。そうした土には一部のバクテリアや嫌気性の細菌しか住むことはできず、生態系はますます脆弱にバランスを壊してしまいます。
 本来土壌は、湿度や気温、大気圧の変化に応じて地上と地中で自由に空気が行き来し、そして土中の様々な生き物や鉱物などによって吸収、分解、浄化され、そしてまた、心地よい土の香りと共に地上に湧きだしてくるというのが健全な空気の循環なのですが、呼吸できなくなって硬化した土は、もはや環境浄化という不可欠な役割を果たすことができなくなっていきます。

 今、都会を中心に勢力を急速に拡大している致死性の人食いバクテリアも、大地の生き物環境の劣化が招いた結果であって、人間の生存をも脅かすこうした環境変化は、土壌環境の急速な劣化を想う限り、残念ながら今後も急速に進んでゆくことでしょう。

 大地の呼吸環境の改善は可能で、それがいのち息づく環境の再生や人間にとって健康な環境つくりに繋がります。
 わたしたちにできること、たとえわずかな点のような土地であっても、呼吸する大地を取り戻していきたい、そんな思いで改善工事に臨みます。



 水と空気が浸みこみやすい緩やかな起伏の自然地形に戻しつつ、土中の空気を動かすために園庭全体に横溝、縦穴を穿っていきます。
 このわずかな地形落差によって、周囲に停滞した土中の水と空気が動いて抜けていきます。



 園庭に設けた約100カ所の縦穴通気孔に、コルゲート管を差し込んでいきます。



 園内の要所に3か所ほど、深さ1mほどの大きな穴をあけてそこに剪定枝葉を詰め、その上に園児用の小さなベンチをかぶせます。
 この下の穴は、土中の通気浸透を促すとともに、枝葉などの有機物分解がさまざまな生き物を呼び込み、ここは豊富な生き物活動が展開されます。
 子供たちが下を覗き込んで生き物の気配を感じる光景を想像しながら作ります。



 溝掘りによって土中の通気浸透改善の後、表層には木炭とウッドチップを敷き、その上に野生の芝の種を播種、目土をまぶします。
 通気性の改善された環境で、グランドの植物は改善されてくることでしょう。

 通気改善によるグランドカバー改善の効果は絶大なものがあります。以下に改善例を紹介します。



ここでは当社所有地の車道にウッドチップを敷いていたのですが、数か月前にそのわきに溝を掘って有機物を漉き込み、土中の通気性改善作業を行いました。
 写真は5月の様子です。冬の改善作業後、野生の芝生がすぐに進入をはじめ、ウッドチップを覆い始めました。



 そしてこれは今年7月の様子です。2か月ですっかりと、ウッドチップの車道は芝生で覆われ尽くしました。
 実はここは、2年前からウッドチップを敷いていたのですが、今年の冬に溝を掘って通気改善するまではすぐに土が露出して、チップの補充を繰り返していたのでした。

 土中の空気と水が動いてくれば、こうしてすぐに植物が力強い活動を始め、大地がみるみる息づいてくるのです。
 大切なのは、大地の呼吸環境への配慮なのです。



改善後のなおび幼稚園、10日程度の間に、木々の表情も穏やかに変化してきたことを感じます。また、足元のウッドチップも、来春にはきっとうっすらとした緑に覆われることでしょう。



 木の根元は土になりかけた枝葉の腐植をまぶして、森の林床の再生の引き金とします。
この腐植には炭化した枝葉、様々な生き物が住み付き、そこで子供は五感を研ぎ澄ませて見入ります。
 

 なんでも、危ない、汚いと、子供たちから排除していては、子供の五感も健全には育っていかないことでしょう。
 ここの園児は裸足で園庭を駆け回ります。素足で大地のぬくもりを感じるのですから、その大地は健康なものでなければなりません。

 この幼稚園の子供たちと触れ合う中で、人間によってよい環境とは何か、根本的な部分から学ばせてもらえます。



それにしても元気な子供達。この幼稚園ではいつも、平日の就園時間に私たちは工事に入ります。
 それは、子供達にも庭が変わってゆく様子や、自然や子供たちのために大人が一生懸命働いている姿を見せたいとの、園長先生の想いから、いつも子供たちの見守る中で、楽しく作業させていただいております。

 この子供たちが大人になる頃までに、悪化した環境をどれだけ再生していけるか分かりませんが、彼らのために頑張ろうと思います。



 最近、子供たちと一緒に作業することが多くなりました。それは本当に幸せで楽しい、かけがえのない時間になります。
 これは毎月行っている、千の葉学園(旧 あしたの国シュタイナー学園)の環境改善作業です。
子供たちは素直に作業の意味を理解し、純粋な愛情を持って、いのちの環境に接します。こんな美しさを持ち合わせている大人は一体どれほどいることかと思うと、彼らの美しさを守りたい、そんな想いが熱くこみ上げます。



 土に触れ、そこに形ができてくる、子供たちは一心不乱に土壁塗りに熱中します。



 大人でも大変な土の家つくり、子供たちはわずかな時間で集中して難なく作り上げていきます。こんな素晴らしい子供たちのために私たちができること、それは、環境をこれ以上壊さないこと、大人の都合やこじつけの理論ではなく、いのち輝く優しい世界を取り戻すことではないでしょうか。

 素晴らしい子供とのかかわりの中で、心の中の余計な部分が次々とそぎ落とされてゆくことを感じます。



 夏休み、田んぼの畔に暮らすわが子たちは、近くの川に泳ぎに行きます。



ザリガニ釣りに熱中する我が息子の夏。こんな時間を、たくさんの子供たちが普通に得られる日本に戻したい、そんな想いを強くします。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2015年9月 6日 09:05) | PermaLink