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雑木の庭つくり日記

ふるさとの木によるふるさとの森つくり実験  平成24年8月20日



 森つくりの実験実習場として取得した千葉市緑区の山林と農地。整備を初めて2か月、いろいろ建ってきました。



 最初に建てたのがこの、あずまやのような水道小屋です。井戸の冷たくておいしい水が滾々と出てきます。
 我々人間が土地に対して何かをする際、まずは水の確保から始まります。



 そして次に建てたのが、この落ち葉堆肥の発酵小屋です。水道小屋も堆肥小屋の木材はすべて、古い家屋や納屋を解体した古材を再生利用して建てていますので、新築直後からすでに人のぬくもりを感じる味わいがあり、風景を落ち着かせてくれます。



 堆肥小屋に刈り草や伐根したササの根を運び込み、米ぬかやモミガラと混ぜ合わせて灌水します。この畑で発生した刈り草や伐根した根はすべて、この畑の土に返していきます。



 猛暑のさなかに植えた樹木の苗は、今は灌水が欠かせません。冬から春にかけて、これらの苗を用いて、とりあえずこの山林で豊かな森を再生していく予定です。



 敷地にほっこらと、変なものがあります。一見まるで何か埋まっているような、怪しい感じです。
これは、千葉県本来の自然植生樹種の、ポット苗混植による森つくりの実験プロットです。

 このプロットは植えつけ後3週間が経過し、すでに新芽が芽吹いてきました。幼苗のたくましさに感動です。

 その土地本来の樹木苗による森つくりは、宮脇昭氏(財団法人地球環境戦略機関国際生態学センター長 横浜国大名誉教授)によって、日本だけでなく、世界中で実践されています。
 私たちはこの方法による森の再生に大きな可能性を感じており、様々な樹木組み合わせによる森つくりの実験を始めたのです。

ここで、苗木密植による森つくりプロット実験の過程をご紹介します。



3.6m四方の四角いプロットを作ります。



 そして、約1.5mの深さでプロットを採掘します。



 人が入れる深さの大穴です。



掘った穴に、剪定枝や伐採した木の根っこなどを入れていきます。



そして、その上に土をほっこらとかぶせて、攪拌しながら埋め戻します。そしてまた剪定枝をかぶせ、土をかぶせての繰り返しで、有機物の堆積した森林土壌のように通気性の良い土の状態を作っていきます。



 ほっこらと柔らかく盛り上げたマウンドに、樹木のポット苗を密植していきます。
苗は、スダジイ、シラカシ、アラカシ、マテバシイ、ヤマモモ、コナラ、クヌギ、モミジ、アカシデといった、千葉の自然本来の森林植生樹種多数を混ぜながら、植えていきます。



植えつけ後、乾燥防止と雑草防止、土壌環境の育成のため、藁を敷き詰め、麻紐で止めていきます。
 この藁が日照を遮断して土壌を育て、表土の生物環境を守り、そして根が地表に張りめぐらされるまでの間、表土の流亡を防ぎます。



 樹木マウンドが一つできました。変な感じです。が、毎日その変化が楽しめます。
 高く盛り上げたマウンドが土中の滞水を防いで樹木根にとって適した物理的環境を作ります。
また、漉き込んだ剪定枝や伐採根などは通風の良い土壌条件でゆっくりと分解されて、良土となっていき、木々の健全な成長条件が整っていくことでしょう。

 植えた苗は、最初の1年程度は、除草や灌水などの管理作業が必要になりますが、その後は自然の掟に従って競合し淘汰されつつ、最終的には人手を要せずに更新される自立した森となっていきます。
 今回は、千葉の潜在的な森林植生樹種であるシイやカシなどの常緑樹の他に、早く成長して木陰を作るコナラやクヌギなどの里山の早生樹種を多数混ぜました。そのため、最終的に常緑樹主体の千葉の自然植生本来の森にしてゆくためには、おそらく10年後くらいまでにこれらの落葉樹を伐採するという作業が必要になることを想定しています。
 しかし、早く健全な森や土壌状態を作るためには、これらの落葉樹早生樹種の混植が効果的だと、私は思い、今回試してみたのです。
 将来、伐採したコナラやクヌギの幹は、シイタケのホダ木や炭焼きの材料にしようと考えています。



 そして、二つ目の実験プロットは8月18日に誕生しました。これが数年後には高さ5m以上の森になることでしょうから、可能性あふれる風景です。
 剪定枝もそのまま有効に処理できます。

 この手法での森つくりは、工業団地周辺緑化や外周環境林、イオンの外周境界林など、日本国内だけでも様々な場所で実施されています。
 これからの緑化の在り方、それは自然に近く、生態系豊かなその土地本来の自然を再生してゆくことが、これからの人類による開発行為が持続的なものとなるための一つの鍵になることでしょう。

 やりがいのある仕事に、命を燃やします。


投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
自然と化した庭 8年目の手入れ  平成24年8月10日



 7年前に植栽した千葉県佐倉市Yさんの庭です。木々が生い茂り、下から見上げると、まるで森の中にいるようです。
 主木となるコナラやケヤキの樹高は約10mに達しました。これらの木々が日差しを遮り、夏の住まいを涼しく快適にしてくれています。
 猛暑の炎天下でこの木々がなかったら・・そう考えると、年々生い茂ってきたこの木々がかけがえのないものに思えてきます。



 
 森と化した庭の回遊路。
 千葉の里山本来の木々で構成したこの庭では、鳥の糞による植物種の進入やどんぐりの芽吹きなどによって、次々と新たな木々の芽吹きが楽しめます。



どういう訳か、大量のカブトムシが庭に住みついて、勝手に繁殖しています。落ち葉溜めの中でたくさんの幼虫が育ち、成虫となったのでしょう。



 この木々を植えたころにはまだ生まれていなかった三男 峻くん(5歳)が、慣れた手つきでカブトムシを捕まえて見せてくれています。
 5歳というのにこの表情・・この庭で子供もたくましく野生化していくようです。



 この庭に住みつく名古屋コーチンも、6歳になりました。ネコより強いニワトリです。庭の自然の中でストレスを感じることなく、たくましく、まだまだ長生きしそうです。



 手入れ後の庭に西日が差し込みます。
 手前の小川にはメダカが住み、そしてたくさんの小鳥が水浴びに訪れます。
小鳥が来るせいか、今はこの庭で毛虫もほとんど見かけません。きっと小鳥が食べてくれているのでしょう。
 庭というより、自然に同化して、生き物の楽園と化しつつあります。
 里山一つ、庭に出現です。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
千葉県佐倉市の庭 小川の完成    平成24年8月7日


 飛び飛びの日程で進めている千葉県佐倉市の庭に新たに作った渓流の石組みが終わり、川底の仕上げにかかりました。



 この流れの防水には、コンクリートも防水シートも一切用いることなく、昔ながらの粘土締固めによる工法で、根気よく仕上げました。
 現代はこの工法を知らない人も多いようですが、一昔前までは当たり前の工法で、かつては田んぼの用水路も溜池もすべて、川底の防水には粘土を用いて優しく自然に水辺が作られてきたのです。
 最近はシートやコンクリートで固めて防水するのが主流となりましたが、シートもコンクリートもいずれはゴミとなります。
 粘土であれば、そこは様々な生き物のすみかにもなり、豊かな生態系を育みます。ゴミになるものは一切なく、すべてが自然のままに還元できるし、何回でも再利用できます。
 私が粘土工法にこだわる理由の一つはそんなところにあります。

 写真は、川底の粘土保護のため、砕いた石を配置しています。いかに自然の渓流に見せるか、水の動きが面白く変化に富む表情を作り出せるか、神経を使う細かな作業です。



 川底に敷く砕石は、石を砕いで作ります。渓流の石は大きさも形状も非常に変化に富んでいます。
 袋詰めで販売されている均質な砂利では決して本物の流れの表情は生み出せません。
本来、渓流の川底には、上から転がり落ちて砕けた石が堆積して、ごつごつした形状の川底の風情が生まれます。
 それを作るため、こうして石を割って、一つ一つ石の表情を確かめながら川底に敷いてゆくのです。



 自然に見せるよう、そして水の流れに変化がつくよう、碁石を打つがごとく、全神経を集中して、砕いた石を川底に敷き詰めていきます。



 完成後、循環装置で井戸水を回すと、心地よい水音が庭の空気感を一変させました。
流れに水を流す瞬間、苦労が報われる瞬間です。




 丁寧に仕上げた甲斐があって、水は石にぶつかりながら様々な表情を見せてくれました。



 古民家を再生した離れ屋(写真右)と、同じく古民家の古材を用いて建てた車庫(写真左)の間を、水音を響かせて小川が流れます。そして、庭の園路や飛び石はこの川を渡り、庭を回遊します。



 さて、渓流周辺の植栽仕上げはこれからです。ずっと昔からこの地にあったような、そんな本物の流れと古民家の佇まいに仕上げていきます。
 が、植栽工事の再開はおそらく9月半ばくらいになることでしょう・・。
 この庭の完成予定は10月中旬です。請うご期待!


投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
谷川岳縦走 植生の旅 その2     平成24年8月2日
 サイトの調子が悪く、しばらくブログ更新ができずにおりました・・。谷川岳山行報告の続きです。




 峠の夕暮れ時、とても静かな蓬峠(よもぎとうげ)の小屋にランプがともります。ランプの灯りはなんと落ち着くことでしょう。下界は灼熱の猛暑というのに、少し肌寒いくらいの山の夕暮れの時間はゆっくりと流れていきます。



少しさびしげに夕日に映えるミヤマシシウド。存在感のある花です。





翌朝の谷川岳稜線。上越国境の山々が雲海に浮かび、静かな夜明けを迎えます。



人っ子一人いない縦走路を、谷川連峰の主峰をを目指して歩きます。
 一面のチシマザサの藪の中、点々と美しい夏の高山植物が楽しめるのが7月山行の魅力です。足元の花を楽しみながら、炎天下の笹原をひたすら歩きます。



 ニッコウキスゲ。



シモツケソウ。



ジョウシュウキオン。



クルマユリ。



そしてエーデルワイスの親戚、ミネウスユキソウです。



 いよいよ谷川岳の主峰が近づきます。この切り立った岩壁が有名な一ノ倉の岩場です。
 この辺りからは、これまで歩いてきた広いチシマザサの尾根とは打って変わり、切り立つ岩場の稜線を伝います。



稜線上で見かけた巨石。石の上にいかにも不安定な雰囲気で巨石が乗っかっています。
 1石で数100トンはありそうです。これが山の最上部の尾根のてっぺんまで、地球の隆起によって、いとも簡単にむくむくと持ち上げられてきたのでしょう。
 生きている地球。人知の感覚的な尺度をはるかに超える大地の力。そして今も地球の隆起は続いています。
 こんな、むくむく動く活断層に乗っかっているのが日本であり、ヒマラヤ以西のモンスーンアジア一帯なのでしょう。
 高い山があり、自然豊かでそしておいしい水の恵みを得られる反面、地震や津波、土砂災害とも我々は付き合っていかねばなりません。
 きっと、克服するのではなく共存するという発想こそが大切なのでしょう。
 原発事故後もいまだ人知で自然災害を制御し安全確保できると詭弁を弄する愚かな人間。どんな理屈も無用です。



 名峰、谷川岳の山頂です。昨日からの縦走路では人っ子一人会わなかったというのに、山頂に着くとにわかにたくさんの観光客が行き交います。
 ロープウェイを使って最短距離を登ってくれば、山頂までわずか3時間の行程です。
私のように、下から山々を超えて2日かけてはるばる縦走してくる登山者は珍しいようです。
 しかし今回、昔からの峠道を登ってくることで、山々と一体感を得ることもできるし昔の人を偲ぶこともできるのです。だから山登りはやめられません。



 山頂から望む上信越国境の山々。この険しい稜線が日本海と太平洋の気候を分断し、そして季節風がこの山塊にもたらす大量の風雪を深い森が蓄えて生き物を育み、そしてその水は関東を潤します。田んぼの水も関東の水道も、元をたどればすべてこの深い山々の恵みなのです。
 
 関東に生まれ関東に育った私たちの命は、はるか上流のこの山々なくしてあり得ないのです。 




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
谷川岳縦走 植生の旅 その1     平成24年7月28日



 どこまでも続く上信越国境の山々の一角に谷川連峰があります。この山々が表日本と裏日本を気候的に分断し、そしてその植生も独特の様相を見せてくれます。
 久々の山旅、猛暑の中、つかの間の夏休み、谷川連峰の縦走に出かけました。



 ここは有名な谷川連峰の難所、一ノ倉沢です。異様な霊気が漂っているようです。
 昭和初期以前からのロッククライミングの聖地、一ノ倉沢の岩場だけで、昭和6年以降だけで800人近くの遭難死者を記録し、その数は世界でも例がありません。
 圧倒的な迫力で切り立つ岩壁、生死をかけてここに挑んだたくさんの若きクライマーの心境を偲びます。



 上野国と越後国との国境となる谷川連峰。今回の山行は上野国すなわち群馬県側から入山し、上杉謙信の清水峠越えの道を途中まで辿って稜線を目指します。
 ブナ林の中のとても気持ちの良い道を登っていきます。



 湯檜曽川源流を登り始めてしばらくの間、美しく深いブナ林の中を歩きます。成熟したブナ林の深さの秘訣は、1本で大きな樹冠面積を占有する、樹高40mほどのブナやシナノキ、サワグルミなどの大高木の下に、広い林床空間が開けるという点にあるように感じます。
 大高木の下にはイタヤカエデヤハウチワカエデ、リョウブ、トネリコなどの中木、そしてその下にはクロモジなどの中低木やブナやリョウブの子供などが、高させいぜい10m程度以下までの間に密に競い合います。
 しかしその上には、ブナの樹冠の下まで広い空間が開けているケースが多く、まるで豊かな緑の中にブナの美しい幹が浮かび上がってどこまでもつながっているようです。



 このあたりの山々は東京の水瓶と呼ばれる通り、とてもおいしい水があちこちから湧き出しています。
 これは山の中腹、雪渓に端を発した雪解け水が流れ落ちています。とても冷たく、感動的なまでのおいしさです。
 豪雪地帯のに降る雪を山肌全体が受け止め、そしてその大量の雪解け水をブナの森が地中に蓄え、浄化し、夏も枯れることなくゆっくりと下界へ届けてくれるのです。

 

 ブナ林の中、沢筋の道沿いに咲くノリウツギ。7月の谷川連峰はたくさんの花が迎えてくれます。



 日本海側の沢筋に見られるエゾアジサイ。



 豪雪地域の谷川連峰周辺では、日本アルプスなどの中部山岳に比べて森林限界が極端に低く、標高1500mを超えるとほとんど一面チシマザサに覆われます。1年の半分以上の間、数mもの豪雪に覆われるこの地域ゆえ植生です。



 笹原に覆われた稜線上の小屋は蓬ヒュッテ。この日はここで一泊です。

 続きはまた。


 

 
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