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雑木の庭つくり日記

いのちの息づく庭環境つくり   平成27年7月2日


 梅雨の長雨の合間を縫って進めております相模原市、丹沢山系の水を集める宮ケ瀬湖の畔、Iさんの週末暮らしの庭つくりが、あとわずかで完成となります。
 雨続きでなかなか記録が撮れないため、まずは1週間前の晴れ間の際の庭の様子から紹介いたします。



 相模原市内在住のIさんご夫妻は、震災以降、自給的で自律的な暮らしの必要性を感じられ、そして2年ほど前、ご自宅や職場から車で1時間程度の距離の山間地に土地を入手し、週末暮らしのための家を建てられました。
 この住処は平常時は週末の癒しと半自給的な暮らしの場として、そして同時にそれは、災害や社会変動などの非常時の際には避難暮らしの住まいとなる、そんなスペースを求められました。
 
それはいわば、ロシアでは今も約8割ほどの国民が所有する「ダーチャ」の日本版とも言える一つの形であり、Iさん夫妻はダーチャの必要性を感じて、この地の暮らしの拠点作りを始められたのです。




 自給的暮らしの根本は、その土地の自然環境の中の一員として、周辺自然環境を意識的に育成しながら利用してゆくこと、他にはあり得ません。
 長い間、人の暮らしはその土地の自然環境を健全に保ちつつ、豊かで多様な大地からの収穫を得て、その土地の暮らしが成り立ってきました。

 人は大地に向き合うことを忘れると、いつのまにか自分たちのいのちの源たる周辺環境を壊し、そしてそれがその土地の気候をも取り返しのつかないほどに変えてしまい、それまでの暮らしを支えてきた豊かな大地の環境基盤を失ってしまうことは、世界の文明の歴史の中でごく自明の理なのです。

 そんな現代社会の暮らしの在り方に疑問を感じ、自然に回帰して矛盾の少ない暮らしをせめて週末だけでも志そうとされる方が、最近非常に増えているように感じます。

 そうした中、私たちは、自然環境再生を主眼とした造園の仕事を通して、そして今後1~2年以内に本格的に活動してゆく予定のダーチャサポートプロジェクトにおいて、現代の暮らしの中で多くの人が忘れてしまった自然の理や共に生きる喜びを力いっぱいサポートしていきたいと思います。



 造園工事に伴う植栽や空間造作を進めながらも、この土地の造成や建築工事などによって傷んだ大地の通気浸透環境の改善作業を並行して行います。
 ここではエアスコップという道具を用いて空気圧で横溝を掘りながら、地面の中の細かな通気脈を通して、土中に空気を送り込むことによって、締め固められて呼吸できなくなった土中環境を改善していきます。

 「いのちの基本は土壌環境にある」といっても過言ではありません。
 土中生物環境が深い位置にまで豊かになれば、この土地が支えられるいのちの総量も種類も格段に増えていき、多様な生き物環境が、この土地の生産力や人の健康をも左右します。
 呼吸する大地の環境再生、数十年前まではあまり考える必要のなかったことからきちんと対処していかねばならない、それ程今は、全国的に大地の環境全体が深刻なまでに病んでしまっていることを実感します。



 敷地西側のコンクリート擁壁の際も念入りに空気を送り込み、溝掘りによる微細な地形落差を設けていきます。
 コンクリートなどの均一素材による直線的な擁壁は、水抜きの処理を施してもすぐに土中は詰まって生き物環境を痛めてしまうことは、擁壁沿いの雑草植生の違いを見ていけば明らかです。 
 自然はきちんとそれを目に見える形で教えてくれます。それを注意深く読み取ることが、自然との共同作業でいのちの環境を再生してゆくうえでとても大切なことになります。



 庭の中では、植栽のための盛土部分と庭スペースの平坦部分との際を中心に、エアスコップによって溝掘りします。このわずかな地形落差で、土中の水と空気が動き出し、その後自律的に生き物環境が改善されてゆくのですから、感動と喜びを伴う仕事です。
 それも、重機やスコップで人工的に掘るのではなく、まるで風の通り道が風洞を穿ってゆくように、エアを送りながら植物根を傷めることなく、石や硬い土を避けて柔らかな土を削ってゆく、風が年月をかけて成し遂げる作業に習って自然に掘ってゆくところに、高い改善効果が生まれるのです。
 掘り方一つでも、自然に習う姿勢を持つことでいろいろと教わることがたくさんあるのです。



そして、溝の途中に縦穴を掘り、竹筒を差し込んで通気を取りながら、縦方向の空気と水の流れを作っていきます。



 こんな地形落差であっても、周囲の土中の絞り水が集まるため、溝底に木炭を敷いて泥水や滞水による土中の目詰まりを防ぎます。



 縦穴の周囲は枝葉で泥の流れ込みを緩和し、縦方向の円滑な通気性を保ちます。



 そしてそ横溝にも剪定枝葉を絡み合わせて、通気層の泥詰りを防ぎます。この有機物が様々な速度で土と同化してゆく過程で植物根を誘導し、枝葉が消える頃には、植物根がとって代わって通気脈の維持と保全を担うのです。
 



芝張り後、ウッドチップの溝が通気脈の仕上げです。地形の際を中心に表面水が浸透しやすい環境を整えてゆくことで、土中の水と空気が即座に動き始め、大地の健康を支える多様な生き物たちが活動しやすい環境が自律的に再生に向かうのです。
 この造作によって、大雨の後でも水は円滑に大地にしみ込まれて滞水することがありません。

 また、有機的で生き物にとっての健全な環境つくりに配慮して作られた空間は、清涼な空気が動き、人にとっても健康で心から休まる環境となるようです。

 写真奥の雑草のマルチは、この庭のメインとなる自然菜園です。



 庭空間の配植や形状に合わせて、曲線状の自給菜園スペースを二つ。畝も曲線状に作ります。
 自然農園では、一度つくった畝をその後耕すことなく、土環境を自然に育てながら使い続けますので、最初の形状が大切です。



そして、菜園マウンドを刈り草や落ち葉を堆積した腐植によってマルチしていきます。



 完成後の菜園マウンド。この庭の刈り草や落ち葉は当然、この菜園マウンドの表層環境保護や土づくりに活かしながら、この畑の土壌生物環境を豊かに育てることが、すなわちそのまま、健康な収穫に直結していきます。
  自然環境に負荷を与え続ける一般的な慣行農業の在り方も、自然農の普及によって変わらざるを得なくなってゆくかもしれませんが、まずは一人一人が生き方を見直していくことが大切です。

 安全な食こそ、健全な体と心、健全な考え方と人間性を育むもの、まずは大地を育み、そして生き物たちと共にいのちの糧を得るという、これまで何千年となく地球の先人たちが行ってきた尊い営みを、こんなところからも思い起こして感動を得て欲しいと願いを込めます。



 古民家の解体で得た材料を組み合わせて作った庭の作業小屋。右奥には落ち葉や野菜屑をストックして腐葉土化する落ち葉ストックがあります。



 薪棚の屋根には、ちょうど茅葺き屋根の解体時に発生した屋根防水用のヒノキの皮がたくさんあったので、それを重ね合わせて屋根葺きにします。
 いずれはこの土地の土に還ってゆく素材ばかりで作る庭では、土、石、木といった自然界の三要素が材料の主役となります。

 そこにある自然の恵みを活かして衣食住を構成する知恵、それこそが人が忘れてはいけない大切な知恵の源のように感じます。



 落ち葉や枝葉屑は生き物環境つくりに欠かせない大切な資材です。堆積して発酵させた腐植の中には、活きのいいミミズやカブトムシの幼虫など、たくさんの生き物たちがあふれています。



 この腐植によって木々の根元をカバーしていきます。
 通気性のよい土壌環境下においては、根元の土を露出させておいてもすぐに山苔が地面をカバーしていきますが、最近の環境下では健全な苔が生えにくい場所が増えてきました。それだけ大地の環境が大きく劣化している証と言えるでしょう。
 病んだ大地環境の再生は私たちの大切な役目になります。こうした場所では植栽後の土を露出させることなく、山の地肌のように腐植によってカバーすると、土壌生物にとっても木々の根にとっても無理なくその土地になじんでいきます。



腐植によるマルチ後の根元の表情。大きく呼吸したくなるような心地よい山の香りが漂います。



 敷地際の法面は竹のしがら編み柵によって自然な形状に戻していきます。竹しがら柵は3年程度で腐朽して、その後は草木の根が代わって地形を支えて自然で安定した風景へとなじんでゆくように配慮しています。



 裏側スペースの足元は炭とウッドチップ敷きによって、雑草の進入を誘います。うっすらと雑草が低い高さで覆うように管理していくのです。
 庭の完成は、実はその後の環境再生のスタートなのです。



 造園工事の完成まではあと少しですが、実際にこの地が風景として育ってくるのは実はそれからなのです。ここでの暮らし、自然環境と人の営みが、かつての日本のように美しい風景が育まれてゆくことを願います。

 また、余談ですが、今の時期は手入れ仕事も集中します。天候も定まらず、お待たせしておりますお客様、長らくお待たせして申し訳ございません。順に廻っていきますので、お待ちくださいますようお願いいたします。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2015年7月 3日 07:47) | PermaLink