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雑木の庭つくり日記

落葉の下で・・・       平成26年12月7日


 片田舎の小さな我が事務所。木々の表情と差し込む日差しの美しさはいつも、ここで過ごすことの幸せを感じさせてくれます。
 師走に入り、
庭から庭へと片時の休みもなく動き続ける日々の中、今日は来客を迎えるために早朝から事務所の掃除です。
 水道管が凍るほどに冷え込む快晴の朝、木々越しに差し込む朝の日差しが穏やかで美しく、それを見ているだけで心穏やかに、木々と共に生きていることの幸福感に包まれます。
 せわしなく日々を送っていると、移り変わる季節を感じる心の余裕すら、いつの間にかなくしてしまうものです。
 そんな時は時折立ち止まって、庭を掃除し、窓を拭き、心に溜まった埃を掃き清めることが何よりです。



 紅葉も盛りを過ぎ、明るい日差しが差し込む初冬の庭に、イロハモミジが穏やかな日差しを浴びて一際美しく、1年の終わりをやさしく彩ります。
 師走に入り、毎日毎日早朝暗いうちに事務所を出立し、そして日が暮れてから現場から戻る日々が続き、のんびりと事務所の木々と対話する時間もなんだかとても久しぶりな気がします。
 この感動や豊かさを伝えたくて、自分はこれまで庭を作り続けてきたんだなと、改めて感じます。



 光と影、そしてそよ風に揺れる木漏れ日、ここにいて、空気を感じているだけで心も体もリセットされる、私にとってかけがえのないのがこの、ちっぽけな庭の木々たちなのです。



 大量の落ち葉に埋もれた庭を掃き集める。本当に毎年よく落としてくれます。これが私たちにとっては良質な腐葉土を作るための大切な資源になります。
 今年もまた1年間、感動をもらい、楽しませてくれて力をくれた木々たちに感謝しながら、プレゼントの落ち葉を集めます。



 小さな庭で、積もり積もった落ち葉をかき集めて地表が現れると、流れる空気が変わります。
それは、健康な地面に空気が引き込まれて抜けてゆく、地中と地上の空気の流れが変わるのです。
 狭く限られた庭においては特に、ずっと落ち葉を積もったままにせずに時に掃除して、一部分でも健康な地表を現わすことで、人にとっても心地よい空気の流れを保つことができる。それは同時に、土地の健康維持のためにもまた、効果的なことなのです。



 1か月以上も落ち葉が積もったままだった庭の地表から落ち葉を取り払うと、こうしてすでに根が浮いてきます。落ち葉の下では、このひと月の間ににぎやかな動きがあったことが分かります。



 細かな根が上を向いて伸びていき、そして積もった落ち葉に絡んで大地に引き戻そうとする、そんな活動が冬の地表で活発に繰り広げられているのです。
 落ち葉の中は根が活動するのに心地よく、こうして地表地表へと根が向かい、それが結果的に豊かな大地を守ることに繋がるのです。



 落ち葉に埋もれていた杉の幹の根元から新たな根が生じ、落ち葉によって供給されるあたらな環境の変化に対し、こうして積極的に動いてゆく、そんな生き生きとした木々の動きを感じることだできるのも、落ち葉掃除のおかげです。

 落ち葉を掃いて地表をむき出すと、露出した根は樹皮を発達させて木部と化し、地表に接する部分から新たな根をおろし、すぐに地表に潜り込んで大地を捕捉していきます。そこには水や空気の抜ける心地よい地表が生まれます。

 こんな木々の素晴らしさ、いのちの営みを、伝えたい想いに駆られます。



 事務所の落ち葉を積もりっぱなしにして大地に還す場所も残します。冬草のロゼットが、落ち葉の毛布をかぶって暖かそうにしています。

 木々の営みはいつも賑やかで、いつもたくさんのことを教えてくれます。



 小さな事務所の小さな庭、健康で元気な木々たちが共にいてくれるおかげで、どれほど心豊かに暮らせることでしょう。
 
 木々と共に生きる幸せ、いのちの営みは、人にとって本当に大切なものに気づかせてくれる、そして健康と力と生きる意味を感じさせてくれるのです。



 







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
つくば市、緑・住・農一体型住宅地の緑地改善  平成26年12月1日


 ここはつくば市の新興住宅地、春風台。緑・住・農一体型分譲区画の風景です。

 豊かな菜園の実りあるこの風景が、ここわずか2~3年程度で分譲、建築された住まいの風景と思えるでしょうか。
 これは紛れもなく、今年7月にここに家を建てて越してきたばかりの
方の住まいからの風景なのです。
 
 関東平野の名峰、筑波山をまじかに仰ぐ広々とした台地にこの土地の自然環境を調和した、豊かな住環境を創造する、新しい住宅地作りの取り組みがここで始まりました。



 緑・住・農を一体として提供する、一区画200坪の住宅地には、接道部分に道路から奥行き12m、面積60坪もの景観緑地を有し、そして家屋敷地の背面に、奥行き7m、面積40坪程度の菜園用地を有します。

 これらの緑地や農地を挟んでゆったりとした住環境、そして隣接家屋とも程よい距離感を保つ、そんな魅力的な街づくりがここで始まりました。

この街づくりを提唱し、主導してこられた地元の地権者で物理学者のS先生は、言います。

「今の日本の住宅環境はあまりに悪すぎる。特に最近の新興住宅地の環境ははますます狭く、潤いもない。そんな環境では人間関係もコミュニティもなかなか育たない。
 海外の研究者仲間たちは、日本には短期滞在はしてもいいが、長期にわたって家族を連れて住むことなど絶対にできない、と言う。それ程今の日本の住環境は悪すぎる。
 人が心地よく住み続けられる環境とはどういうものか、そこから考え直し、意識を変えていかないと、日本はますます世界から取り残されてしまうだろう。」

 S氏はまた、地元で里山育成活動にも関わられており、ここに新たな日本の美しい、自然と調和した現代の暮らしの環境を再生したいとの想いから、粘り強く市や地元住民に働きかけ、そしてこの新たな街つくりを主導されてきました。



 ところが、緑地部分の土地の移管を受けたつくば市によって3年前に植栽されたコナラとヤマボウシの状態が悪く、今回私はS氏から緑地診断の依頼を受けてこの地を訪れました。

 原因は一目瞭然で、ほとんどの木々が根腐れ、根詰まりを起こしていたのです。もともとこの土地は広大な畑に屋敷林が点在していました。それが住宅開発のための造成工事によって一斉に表土がはぎ取られ、重機で蹂躙されて締め固められました。そんな環境に木を植えても、健全な木々の状態が得られるものでは決してありません。不健全な環境は意識せずとも人の健康や快適性に大きく影響を及ぼします。
 
 本来の大地の循環を壊して不健全な住宅環境が量産される現状、それは現代の大規模住宅開発や土木工法に、根本的な問題の一つがあります。



この緑地の植樹は3年前、この土地本来の代表的な里山樹種であるコナラにヤマボウシが一本ずつ、列状に植えられ、そして今、ほとんどすべてが成長せずに傷んだり枯れたりしています。
 こうした、本来山の自然樹木を、蹂躙されて締め固められた土地に単木で植栽されれば、健康を維持できずに傷むのは当然のことなのです。
 木々と共にある健康な住環境、住宅地を作ろうと思えば、従来の開発の在り方ではなく、もっと自然に寄り添った形の、その土地との付き合い方、あるいは自然環境へのインパクトの少ない改変の仕方がなされねばなりません。
 自然破壊型の開発から、自然環境再生型の住環境つくりへ、発展させていかねばなりません。



つくば市内を流れる桜川の畔から、周囲を見ます。広大な水田の向こう、段丘状の山並の上に、この春風台住宅地が開発されました。森の畔には、旧来の集落が連なります。
 これが本来の中山間地域の住まいの在り方と言えるかもしれません。裏山の木々は大地を吹き荒れる季節風から住まいを守り、そして、森の木々に寄り添うように住まいが連なる。
 一方で、春風台住宅地が造営されたこの段丘の上の台地は、時期によって遮るもののない風が吹き荒れます。そこに家を建てて住む場合は、かつてであれば屋敷林の存在が不可欠だったのです。



春風台住宅地の下の旧集落。裏山の幸や湧水を利用して、昔からこうした土地には人が定住してきたのです。それが長年暮らし繋いでゆくうえで、人々にとって暮らしやすい環境だったのでしょう。

 ところが春風台開発地の下、旧集落の裏山であるこの斜面林でも、開発後に異変が生じてきたのです。



 斜面林内の300年生の杉の大木が、開発後に次々と枝枯れをはじめ、1本、また1本と、枯死していったのです。
 この原因は明らかに、上部の住宅地開発に伴う地下水脈の変化に起因します。
 乾燥に弱い杉の大木から順に、水脈の変化の影響を受けてしまったのです。
  開発に伴う水脈の変化の影響は、周辺環境の広範囲に及ぶのです。



 緑・住・農の一体型の住宅地という素晴らしい理念。それが新たな日本の、美しい住まいの原風景となりえるためには、単に緑地の木々だけでなく、この住宅地を取り巻く大地の環境から改善し、その後自然の作用によって自律的に環境改善されてゆく、そんな改修が必要です。



 傷んだ木々、枯れた木々、その理由など、住民の方々に集まっていただき、この木々たちが置かれている今の状況を説明し、問題意識を共有します。
 この町に住まれる方々は、豊かで健康的な緑と共にある環境を望んでおります。自然豊かで美しい環境を育ててゆくために、何が問題で何をすべきか、住民方々にきちんと説明し、合意を得て、改善のための道筋をつけていかねばなりません。



 そして、住民や地権者でつくられる街づくり協議会の要請を受けて、緑地改善のレクチャーを開催いたしました。
 私が提唱する改善のポイントは以下の3点にあります。

1.配植、植栽組み合わせの改善
2.植栽部分の土壌改善
3.緑地全体の地下水脈の改善

 この三点の改良が適切になされることで、どんな土地でも必ず木々は良くなり、本来の健全な成長を取り戻すのです。そればかりか、一度は途絶えた周囲の自然環境も良好に改善されてゆくのです。



 住まいの自然環境を健全に再生すること、それが暮らしの環境を愛着と温みりあるものに育て、そしてそれが本来の郷愁を取り戻すことに繋がります。
 そのためには、木々も大地も本来の健康を取り戻さねばなりません。

 そんな住環境つくりが真剣に考えられ、実践される、そんな胎動がこの街に感じられます。

 春風台 緑・住・農。一体型住宅地、その緑地の改善工事は来年冬から始まります。改善工事の様子は順次、ブログにて紹介していきたいと思います。


 
 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
山際の家屋 地下水脈の改善   平成26年11月17日


 ここは静岡県三ケ日町
、浜名湖畔の山間部、Kさんの家、新築住宅の造園工事です。遠方ゆえ、1か月ぶりの工事再開となりました。
 背面北側に山を背負い、南側に開けた家屋配置、こうした場所は昔から住まいの立地条件として、ある面理想的で、かつてはこうした山の畔に集落が点々と繋がる光景がよく見られました。
 こうした山畔が好まれて住まれた理由のうち、とても重要な一つに、水の得やすさがありました。
 こうした場所では裏山の際を掘れば、たやすく水脈が見つかります。そしてそれが生活用水や農業用水などに利用されてきたのです。
 かつての整備された里山では、斜面林の麓、山の際に素掘りの側溝や小川が誘導されている光景が見られます。
 同時に、こうした場所に住まいを構える際、地下水脈が住まいの快適性に悪影響を及ぼさないよう、水脈をコントロールする知恵も、かつての暮らしの中では当たり前に持ち合わせていたのです。



 山の畔に家を建てれば当然、無数の地下水脈が、家の下や庭を縦断します。
 特に、家屋建築の際に造成されて締め固められ、コンクリートで覆われてしまったこうした宅地では、敷地内に地下水脈が停滞し、土中の滞水が起こります。そしてこうした水の停滞は様々な問題を引き起こすのです。
 こうした場所での造園工事では、停滞した水脈を健全な形に再生しつつ、進めてゆくことが大切です。
 地下水脈の停滞は、自然環境だけでなく、そこに住む人間の健康にも悪影響を及ぼします。地上だけでなく、地下にも健全な形で水と空気が流動する環境こそ、豊かで心地よい住環境を育てます。




 植栽しながら、地下の滞水箇所を見つけていきます。1か月前に植栽した木々の中の1本が枯れ始めたため、その根元を掘ったところ、案の定、滞水が見つかりました。
 



 家の下から滾々と水が湧き出し、そして、それがはけずに土中に停滞しています。



 たとえ地下水位が高くても、水が動いてさえいれば、その動きと共に土中の空気も動き、木々や土中生物にとって健全な環境が育ちます。それによって土質も自律的に改善されていきます。しかし、こうして滞水すれば、水は腐り、そした土は青くヘドロと化して有害な気を発し、土をますます目詰まりさせ、土中環境をさらに不健全化していきます。
 つまり、地下の水の流れが円滑でなければ木々は長く健全に育つこともなく、豊かな生き物を育む本来の生態系がなかなか醸成されていかないのです。また、土中への円滑な空気の流れは地上部のよどみをも解消します。
  住宅地の地下滞水の多くは、水脈を顧みない現代の土木建築工法の欠陥に問題があります。
 これから植栽する木々を、自然状態のようにたくましく健全に育てていこうと思えば、この土中水脈改善から手掛けることが必要です。

 滞水箇所の下流部に深い穴を掘り進み、滞水がつくったヘドロによる硬板土層を抜いてその下の本来の土層にまで縦穴を掘っていきます。ここでは深いところで1,5m程度掘り下げて、水の抜ける層に到達させます。



 そしてその縦穴に気抜きとなる竹筒を差し込み、その周囲に乾燥させた剪定枝を縦にに差し込みます。無機物だけでなく、有機物をバランスよく組み合わせることで、自然の力で自律的な土中環境改善につなげていきます。



 そしてその隙間に、木炭を中心とした改良資材を漉き込んでいきます。これが締め固められたこの土地の呼吸孔となり、水と空気の動きが土中に生じることによって周辺の土中環境も再生されてくるのです。
 縦穴の底に集まった水は徐々に浸み込み、それが毛細管現象で土中深い位置にしみわたると、寸断された水脈とぶつかってそこに水が供給されることによって、水脈再生の勢いが増します。そしてその深い位置からも、本来の造成前の水脈が再生されてゆくことでしょう。

 人が壊してしまった大地の血管、その再生のためにほんの少しばかり、お手伝いすること、自然の力による再生のきっかけを作ること、それがこの作業なのです。



 
 植え戻し前の暗渠縦穴。枝の隙間から土中へと、空気も水も流れ込みます。



 そして、暗渠となる横溝を掘って絞り水を受け、縦穴と繋げながら、敷地全体を改善していきます。



 暗渠パイプを併用しつつ、乾燥枝などの有機物、炭、腐葉土、ゼオライト、ウッドチップなどで埋戻し、あくまで土中環境の改善と再生のために、暗渠整備していきます。




 暗渠埋設の他、さらに地形から水脈を予測し、要所に空気孔となる竹筒を差し込み、くり抜きます。



くり抜いた竹筒の周りに炭を中心とした改良材を流し込みます。



 こうした小さな気抜き孔を10数箇所、点在させて、水脈の再生と土中生物環境の改善を促します。



 植栽、水脈改善さ作業を終えて整地します。精緻の際、起伏に応じて微妙な地形を造作して、表面水が表土を削ることなく、水jの勢いが分散されるように、山のライン、谷のラインを変化させていきます。
 そこに直線的な単調な連続はなく、期せずして自然なラインに近づいていきます。

 表面水に加速度がつけば、表土を削り、泥水となって表土の微細な空気孔を塞いでしまいます。山や谷など、自然の地形を見れば、流れる」水が加速度がつきすぎずに一定の速度に勢いが弱められるよう、自然とそんな地形となっていることが分かります。
 
「庭のお手本は自然。」とは、よく耳にする言葉ですが、見た目だけ都合よくお手本にするのではなく、見えない部分の素晴らしい力や役割、それを活かすことがこれからますます必要となることでしょう。



 家屋南側の水脈改善を終えて翌日、お施主のKさんが言いました。

「いつもじめじめしていた北側まで、水がはけて乾いてきた。いつもじめじめしていたのに、すごいね。」

 この一言で、丸2日間も水脈改善に費やした苦労が報われます。そして、木々もこの土地も、生き生きとこの土地の自然環境の一員として育ってゆくことを夢見ます。

 

 







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
東京都世田谷区の造園外構工事    平成26年11月1日


 ここは東京都世田谷区、等々力渓谷にほど近い住宅地の一角、Mさんの造園外構工事がいろいろクライマックスを迎えています。
 裏庭側からかかり始めて、ようやく門と駐車場の外構工事にたどり着きました。
 門やアプローチなどの外構工事に先行して主要な高木は先に配してしまうのが、高田造園の工事方法です。あくまで、主要な木々の適切な配置をできる限り優先して、全体が心地よくまとまるように門や駐車スペースの配し方を調整してゆくのです。
 今回は昭和初期の洋館のような雰囲気を持つ建築に合わせて、モダンで丁寧な、当時の雰囲気や空気感をつくるべく、素材とデザインを吟味してまとめていきます。



 駐車スペースや接道との段差は版築で処理していきます。こうした敷地内の段差は、上部植栽地の土中環境をよりよい状態に育ちやすくするもので、庭はなるべくこうした高低を活かします。
 土留めに呼吸する版築塀とするのも、単にデザインではなく、土中環境の改善による、樹木の健康な生育を期してのことでもあります。
 コンクリートを用いて土中の呼吸や水を遮断してしまえば、土中に水脈気脈を生み出すせっかくの高低差も意味をなさなくなってしまいます。

 土中の呼吸や水の動きに配慮すれば、こうした段差の処理は本来、竹などのしがら柵や、あるいは石積みのような、空隙のある形のものが最適なのですが、そこはその場のデザイン性との兼ね合いで考えていく必要もあります。



真砂土・石灰・にがりを配合して付き固め、型枠を外すと版築独特の美しい地層文様が現れます。



 この、版築の上に、笠石をあてがっていきます。この笠石も、化粧柱も、この場に合わせた寸法で洗い出しでつくりました。
 素材はなんでも、その場に合わせて作り、あるいは見立てることが大切です。こうした外構素材は、安易な既製品を当てはめて構成しても、本当の意味で見ごたえのある品のよい空間は決して生まれません。
 土、石、木といった外構の3原則素材を基本になんでもその場に合わせて作ることが、大切です。



 真砂土洗い出し仕上げの笠石。呼吸する素材は年々その風合いを増していきます。



 笠石設置後の土留めの表情。



 1つずつ工程を進める度に門回りの景が美しく引き締まってきました。



煉瓦積みの門柱の笠石。微妙な水きり勾配と程よい厚さが門周辺を上品にまとめます。



 土、煉瓦、石を基本素材に、門扉もまた、木製造作していきます。なるべく安易な既製品、高価な素材など使わず、意匠に凝りすぎず、そして身近で手に入る土・石・木といった素材を基本に、素朴に一つ一つ丁寧に作ってゆくこと、それが飽きることのない生涯の美しい原風景を育てることに繋がる、そんな風景を提供していきたいと思います。







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
大地の再生講座 inちば      平成26年10月28日



 昨日、千葉市緑区の高田造園社有地にて、大地の再生講座(講師;矢野智徳 杜の園芸 NPO杜の会副理事長)を開催しました。
 週初めの月曜日だというのに、県外からも多数参加いただき、当初予定の20名定員をはるかに超えて、総勢30数名での、とてもにぎやかな屋外実地講座となりました。



 講師の矢野智徳さん。矢野さんはこれまでの長い間、現代土木工法の中で顧みられることなく閉塞させてしまった土中の気脈水脈を、本来の健全な状態に再生することを主眼に置いて、全国各地の山林農地、宅地における環境改善を手掛けてきました。
 6年前に山梨県の中山間地、上野原に移住し、その後は全国各地で大地の再生講座を開催しつつ、それぞれの地域が内在する自然環境の問題をえぐり出し、そしてその土地なりの問題に対応した環境改善に取り組んでこられました。

 矢野智徳氏の大地の再生講座開催は、千葉県では初めてとなります。しかも平日であるにもかかわらず、これだけの参加希望者が集まったのも、それだけ今の国土の現状や、自然環境を顧みない開発の在り方に疑問を感じ、真剣に学ぼうとされる方が非常に増えてきた、その証のようにようにも感じます。



 今回の講座のフィールドはここ、千葉県内によく見られる、放置された里山です。全体的に傾斜地で、上部の平地には畑と、40年前に開かれた小さな集落が点在します。
 斜面に残された山林はこうして、急斜面にはコナラを中心としたかつての里山利用の名残がみられ、緩やかな傾斜部分にはスギヒノキなどの植林地が点在します。放置されて久しい林内は総じて暗く、風通しが悪く、林床植物に乏しく、枯れ木や衰弱木が目立つ、不健全な山林がここ数十年、なおも増え続けているのです。
 まるで現代日本の経済成長の過程で打ち捨てられた里山の現状の縮図のような山林がここにあります。
 2年ほど前、荒れた里山再生利用の実習林としてこの地を取得し、そして今年に入って、ようやく山林整備と活用に向けて、いろいろと動き始めたところでした。
 
 利用されず、不健全化した山林農地の多くは高度経済成長期以降の大規模宅地開発の圧力に飲み込まれ、そして私たちの身近な生活空間から、日常的に感じることのできる本来の自然環境が次々と失われ続けてきました。
 それはそのまま、人が本来心の中に握りしめて生きてきた、美しいふるさとそのものを、まるで大きな爪ではぎ取られるように失われることを意味します。
 私たち多くの日本人は気づかぬうちにこうして大切な心の原風景を失い続けてきたように思います。

 そんな中、千葉県内では今、荒れた里山を再生し、本来の美しくのどかな千葉の自然環境を取り戻そうと、様々な市民活動が活発に展開し、それぞれの方法でボランティアによる山林整備が行われています。
 今回の講座開催の目的は、千葉の里山自然環境の問題を明らかにし、今後どのような視点で荒れた山林農地などの身近な自然環境を再生してゆくべきか、その大きな指針を定めるべく、千葉での大地の再生講座開催に至ったのです。



 こうした山林の地表は、表土がむき出して土が露出している箇所が数多く見られます。
 森が本当の意味で健康であれば、地表はふかふかの腐葉土が覆い、そこに木々の細根が張りめぐらされて腐葉土や落ち葉と絡まり、さらには下草が進入して表層を安定させて、急斜面でも土壌が浸食されない状態が形成されます。
 最近はこうした林床風景が多くの山林でごく当たり前の風景となってしまいましたが、実はそれは本来の健全な姿とは言えないのです。
 こうした地表の不健全な様相は、実は地下の水脈気脈の詰まり、いわば大地の呼吸不全に起因すると矢野さんは断言します。




 斜面林を下りきるとそこは、かつての小川が落ち葉や落ち枝、ヘドロに埋もれた泥沼となっています。そこに覆いかぶさるように、斜面林下部の木々の枝がひょろ長く張り出し、それがまたこの地の風通を停滞させます。

 もともとここには、千葉の独特の原風景の一つとなる山間の谷津田が広がり、清らかだった小川にはメダカやドジョウ、イモリにカエル、ホタルなど、たくさんの生き物にあふれていたと地元の方が言います。
 耕作放棄され、そして里山利用もなされなくなってからの数十年で、小川は泥に埋もれ、生き物にあふれた里山は、生き物にも乏しい不健全な様相へと変貌していったのです。



 この山林の不健康の原因は、斜面林最下部の小川の滞りから生じる地下水脈や気脈の停滞にあると矢野さんは断言します。

 最下部の小川が停滞し、ヘドロ化することで、斜面林に血管のように張りめぐらされた水脈が停滞します。水脈が滞ると、土中に空気が吸い込まれなくなり、土中の生物相が呼吸不全を起こし、劣化していきます。土中に水脈の動きが戻ると、ストローの吸い込みのようにそれに伴って空気も流れ込み、木々は細根を発達させ、そして活性化した土中生物相が多様化、健全化してゆく、そのためには最下流の泥沼の水の動きを健全化する必要があります。

 そこで今回、この小川の再生から作業が始めます。



 木々や森の不健全性を判断する際、私たちのように樹木を専門的に扱う者はつい、木々を取り巻く光環境や生物相、表層土壌、水はけといった、いわば目に見えやすい部分ばかりを中心に考えてしまいがちです。
 一方で矢野さんは、自然環境を読み取る際、その環境を作るファクターを以下の4つに集約して考えます。
 1つ目が土壌、地形、地質といった大地環境、2つ目が動植物相や人の生活といった生物環境、3つ目が空気や水の動きといった気象環境、4つ目は自転、磁気、重力、太陽、月の引力といった宇宙エネルギー環境、これが矢野さんによって集約された、自然環境を決定づける4つのファクターです。

 そのうち、地上の環境要因は大地環境、生物環境、気象環境の3つのファクターしかなく、今の自然環境の問題がどこに起因するか、このファクターに照らして丁寧に見ていけばおのずと読み取れます。
 
 今回、斜面林の再生と健全化のために、最も大切で根本的な作業が、一番下の小川の泥のくみ上げにあると判断したのです。


 
 まずは泥に埋もれた小川に散乱する枯れ枝などを流れの周囲に並べていきます。そしてそこにくみ上げた泥をかぶせていきます。
 それによってくみ上げた泥は小川に再びに流れ込みにくくなり、同時に枝葉の隙間から空気が入り込みやすい状態が作られることで、くみ上げた泥の生物環境が改善され、川岸の表層が安定してくるのです。

 こうした細かな配慮を何気なくこなす偉大な知恵、しかしながらかつて自然と向かい合って生きてきた先人たちは当たり前にそれを活かしてきたのでしょう。
 私たち人間ははたして進化していると言えるのか、自然環境を向き合えば向き合うほど、そんな疑問が生まれます。



 周囲の草も低く刈りすぎず、ちょうど風が吹けば均等になびくように、上部の重い葉先の部分を、風が払うように刈り取っていきます。
 本来自然界ではその仕事を風の流れが自然に行い、おのずと調和のとれたおとなしく健康な表層の状態を作り上げている、それに倣うように人がしてあげることが大切と言います。



 風道を通すための木々の整理も、あくまでやりすぎず、一つ一つ枝を振るってなびき方の違う枝先の重たい部分を取り払っていきます。
 水や風の働きを熟知する矢野さんの動きに、参加者みんなの目からうろこが落ちていきます。

 今回の講座には、造園関係者も10名以上参加されましたが、今回の矢野さんの手入れの思想や方法には、誰もが驚きと共に、実感を持って納得していきます。

 私自身、環境改善を主眼に造園を続けてゆく中、人にとって本当に心地よい環境は地上にも地中にも風と水が滞りなく流れ続ける環境にあり、それはすなわち多様な植物動物たちにとっても心地よい環境であることに行きつきました。
 しかしながら、矢野さんの存在を知り、その考え方や実績に触れるにつれて、私がこれまで主に庭を通して手掛けてきた環境改善とは、どちらかというとまだ、人の側の都合に重きを置いた環境改善であったことを反省させられます。



 泥をさらうと水量は一気に増して、まるで沼地に溜まった膿が一気に湧き出して流れてゆくようです。斜面林の下の小川、そしてそのほとりに田んぼが広がっていたかつての里山の暮らしの風景が、小川の再生作業によってみるみる蘇ってきたような感触を覚えます。

 流れの泥をさらうだけでなく、5m程度ごとに深みを作っていきます。本来自然の流れには水流によって適度に深みが形成され、それによって水の流れが加速せず、均質な速度を保つよう、実に微妙なコントロールが自然となされているのです。その作業をまた、人間が補います。



再生した小川に十分な深みをとってゆくため、急斜面に道を整備しながら重機を通していきます。
 土留めには倒木の丸太を使い、傾斜を調整していきます。腐りかけた丸太でも、芯の部分は強く腐りにくく、道の土留めには十分に活躍できる資材が山には溢れています。
 すべて、現地で材料を調達し、持ち出さず、あるもので作ってゆくのです。



 道の路盤には枝などの有機物とかぶせる土とのバランスをとって表層水が浸み込んでゆくように重機で直しつつ、ゆっくりと斜面降りていきます。
 この、ゆっくり作業することが自然環境にインパクトを与えない重機の扱いの大切なポイントと矢野さんは言います。
 重機の力はゴジラのように、使い方によっては自然環境を破壊し、一方で繊細に使ってゆくことで自然環境を再生してゆく大きな力にもなるのです。

 道の周辺の木々はなるべく伐らず、掘り取った株は道の谷側に植えつけていきなががら、植物の根によって道を補強していきます。



 急斜面を重機が下りると、かつてこの山の下部にあって今は埋もれてしまった道があっという間に再生されていきます。



 作られた山道は風の流れが一変し、心地よい空気の通り道が、閉塞感のあった林内に生まれました。
 
 よく、登山道が人の踏圧によって浸透性が低下し、水の通り道となってしまい、道が浸食されてゆく光景があちこちで見られますが、表層水の浸透と加速度をつけない水の逃がし方に対する細かな配慮がなされれば、重機が通るようなこうした山道でも雨水によって浸食されることのない、健全な道が作られるのです。



 重機を斜面林の最下部まで降ろしたところでお昼です。
 お昼は近所の方々や友人の農家から調達した野菜にお米、そしていただいた猪肉を煮込んだ猪鍋と、盛大な炊き出しとなりました。


 
 おいしい食材に薪焚きのご飯に猪鍋、新鮮で安全な具だくさんのお味噌汁、マクロビオティックの尾形先生によるとてもおいしい玄米ご飯と、こうしたイベントの醍醐味は食事にあります。



 高田造園の自然農園も、9月に土中水脈の改善を施した後、肥料もまったく施さないにもかかわらず、見事な生育を見せています。食べきれないほどのこの野菜たちも今日の料理に活躍です。
 水脈改善の効果は非常に短期間に目に見えて実感されます。こうした考え方が実際の社会環境つくりや自然環境の保全に活かされれば、日本の自然環境も、人の心も大きく変わってゆくことでしょう。



 昼食後、トイレがまだないこの山に、急きょ簡易トイレを作ることになりました。そこにある植物資材を用いて壁や屋根を作り、そして土中に還元されて分解される、バイオトイレがみるみる出来上がります。



 簡易 トイレの完成。用を足した後、腐葉土をぱらぱらまぶせるだけで分解が進み臭いもしません。風を通せば何も問題が起こらないと矢野さんは言います。
 そして、そこにある材料でこうした設備が次々と整っていく様子にみんなの心が躍ります。



 たった一日の作業が終了すると、じめじめと鬱蒼とした環境が一変し、風が抜け水音が心地よい、快適な空気感へと変貌したのをみんなが実感し、感動に包まれます。
 今回、この斜面林の肺とも言うべき、下部の水脈を再生することによって、この森は急速に健康を取り戻してゆくことでしょう。それはこの、明らかに変貌した空気を感じることで確信を持って時間されます。

 学ぶということ、それは実感と感動を持って理解してこそ、本当に自分の血肉となって人生を変えてゆくものになりうるものです。
 そしてそれが、今の偏った社会を健全な形に変えてゆくことに繋がる、そうした希望を持って今後も日々学び続け、そして活かしていきたいと、心に誓います。



 そして講座の翌日となる今朝、再び小川へ降りてみると、驚きの光景を目の当たりにします。整備した箇所のさらに上流部、泥沼だった箇所に3本の流れの筋が生じ、それが合流して昨日整備した水脈へと、停滞していた水が滾々と流れ込んでいたのです。
 この沼地の下流部を整備して水脈を再生したことで、今回整備の手が届かなかった上流部まで、自然の力で水脈が復活していたのです。
 
 自然の再生力、たくましさに息をのみ、そして立ちすくみます。自然は自ら自立して、全ての流れを健全な形に整えようとする、それを育む要因の多くは人の所作にありますが、それもよくよくきちんと自然との対話を取り戻していき、そして付き合い方を考え直すことで、思った以上に小さな力で変えていけるのではないか、この光景がそれを感じさせてくれました。

 矢野智徳氏、私は自分の道の途中で矢野さんを知り、惹かれ、そして出会い、学び、今後連携しながら共にやっていくことを約束しました。
 造園を通して環境つくりに取り組み、その先に見えてきた世界があります。そして、この人からとことん学びたい、吸収したい、そう思える人がいるということほど、幸せなことはないかもしれません。
 その素晴らしい機会がこうして与えられたことに、この山に感謝し、人に感謝し、全てに感謝する想いが自然と沸き起こります。

 真剣に、真摯に自分の道を追及していけば、自分がなすべき役割はおのずと与えられます。それもまた、ちょっとしたきっかけで自律して再生し、調和を取り戻そうとする自然界のシステムを目の当たりにして、その一員である人間の役割も、自然の中でおのずと与えられるもののように感じます。

 今回の講座開催に多大なご助力をいただきました地元の皆様、仲間、そして千葉での矢野さんの講座実現のために力添えくださいました方々、一生懸命作業してくださった参加者の皆様、本当にありがとうございました。

 








投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
         
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