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雑木の庭つくり日記

山際の家屋 地下水脈の改善   平成26年11月17日


 ここは静岡県三ケ日町
、浜名湖畔の山間部、Kさんの家、新築住宅の造園工事です。遠方ゆえ、1か月ぶりの工事再開となりました。
 背面北側に山を背負い、南側に開けた家屋配置、こうした場所は昔から住まいの立地条件として、ある面理想的で、かつてはこうした山の畔に集落が点々と繋がる光景がよく見られました。
 こうした山畔が好まれて住まれた理由のうち、とても重要な一つに、水の得やすさがありました。
 こうした場所では裏山の際を掘れば、たやすく水脈が見つかります。そしてそれが生活用水や農業用水などに利用されてきたのです。
 かつての整備された里山では、斜面林の麓、山の際に素掘りの側溝や小川が誘導されている光景が見られます。
 同時に、こうした場所に住まいを構える際、地下水脈が住まいの快適性に悪影響を及ぼさないよう、水脈をコントロールする知恵も、かつての暮らしの中では当たり前に持ち合わせていたのです。



 山の畔に家を建てれば当然、無数の地下水脈が、家の下や庭を縦断します。
 特に、家屋建築の際に造成されて締め固められ、コンクリートで覆われてしまったこうした宅地では、敷地内に地下水脈が停滞し、土中の滞水が起こります。そしてこうした水の停滞は様々な問題を引き起こすのです。
 こうした場所での造園工事では、停滞した水脈を健全な形に再生しつつ、進めてゆくことが大切です。
 地下水脈の停滞は、自然環境だけでなく、そこに住む人間の健康にも悪影響を及ぼします。地上だけでなく、地下にも健全な形で水と空気が流動する環境こそ、豊かで心地よい住環境を育てます。




 植栽しながら、地下の滞水箇所を見つけていきます。1か月前に植栽した木々の中の1本が枯れ始めたため、その根元を掘ったところ、案の定、滞水が見つかりました。
 



 家の下から滾々と水が湧き出し、そして、それがはけずに土中に停滞しています。



 たとえ地下水位が高くても、水が動いてさえいれば、その動きと共に土中の空気も動き、木々や土中生物にとって健全な環境が育ちます。それによって土質も自律的に改善されていきます。しかし、こうして滞水すれば、水は腐り、そした土は青くヘドロと化して有害な気を発し、土をますます目詰まりさせ、土中環境をさらに不健全化していきます。
 つまり、地下の水の流れが円滑でなければ木々は長く健全に育つこともなく、豊かな生き物を育む本来の生態系がなかなか醸成されていかないのです。また、土中への円滑な空気の流れは地上部のよどみをも解消します。
  住宅地の地下滞水の多くは、水脈を顧みない現代の土木建築工法の欠陥に問題があります。
 これから植栽する木々を、自然状態のようにたくましく健全に育てていこうと思えば、この土中水脈改善から手掛けることが必要です。

 滞水箇所の下流部に深い穴を掘り進み、滞水がつくったヘドロによる硬板土層を抜いてその下の本来の土層にまで縦穴を掘っていきます。ここでは深いところで1,5m程度掘り下げて、水の抜ける層に到達させます。



 そしてその縦穴に気抜きとなる竹筒を差し込み、その周囲に乾燥させた剪定枝を縦にに差し込みます。無機物だけでなく、有機物をバランスよく組み合わせることで、自然の力で自律的な土中環境改善につなげていきます。



 そしてその隙間に、木炭を中心とした改良資材を漉き込んでいきます。これが締め固められたこの土地の呼吸孔となり、水と空気の動きが土中に生じることによって周辺の土中環境も再生されてくるのです。
 縦穴の底に集まった水は徐々に浸み込み、それが毛細管現象で土中深い位置にしみわたると、寸断された水脈とぶつかってそこに水が供給されることによって、水脈再生の勢いが増します。そしてその深い位置からも、本来の造成前の水脈が再生されてゆくことでしょう。

 人が壊してしまった大地の血管、その再生のためにほんの少しばかり、お手伝いすること、自然の力による再生のきっかけを作ること、それがこの作業なのです。



 
 植え戻し前の暗渠縦穴。枝の隙間から土中へと、空気も水も流れ込みます。



 そして、暗渠となる横溝を掘って絞り水を受け、縦穴と繋げながら、敷地全体を改善していきます。



 暗渠パイプを併用しつつ、乾燥枝などの有機物、炭、腐葉土、ゼオライト、ウッドチップなどで埋戻し、あくまで土中環境の改善と再生のために、暗渠整備していきます。




 暗渠埋設の他、さらに地形から水脈を予測し、要所に空気孔となる竹筒を差し込み、くり抜きます。



くり抜いた竹筒の周りに炭を中心とした改良材を流し込みます。



 こうした小さな気抜き孔を10数箇所、点在させて、水脈の再生と土中生物環境の改善を促します。



 植栽、水脈改善さ作業を終えて整地します。精緻の際、起伏に応じて微妙な地形を造作して、表面水が表土を削ることなく、水jの勢いが分散されるように、山のライン、谷のラインを変化させていきます。
 そこに直線的な単調な連続はなく、期せずして自然なラインに近づいていきます。

 表面水に加速度がつけば、表土を削り、泥水となって表土の微細な空気孔を塞いでしまいます。山や谷など、自然の地形を見れば、流れる」水が加速度がつきすぎずに一定の速度に勢いが弱められるよう、自然とそんな地形となっていることが分かります。
 
「庭のお手本は自然。」とは、よく耳にする言葉ですが、見た目だけ都合よくお手本にするのではなく、見えない部分の素晴らしい力や役割、それを活かすことがこれからますます必要となることでしょう。



 家屋南側の水脈改善を終えて翌日、お施主のKさんが言いました。

「いつもじめじめしていた北側まで、水がはけて乾いてきた。いつもじめじめしていたのに、すごいね。」

 この一言で、丸2日間も水脈改善に費やした苦労が報われます。そして、木々もこの土地も、生き生きとこの土地の自然環境の一員として育ってゆくことを夢見ます。

 

 







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2014年11月17日 18:23) | PermaLink