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「里山に学ぶ茅葺きの話」講演会のお知らせ 平成23年12月9日
来年の1月22日日曜日、日本庭園協会東京都支部主催による講演会が日本女子大学にて開催されます。
講師は社団法人茅葺き文化協会代表理事で筑波大学芸術系教授の安藤邦廣氏、 テーマは「里山に学ぶ茅葺きの話」です。
興味のある方はどなたでも参加できます。参加申し込みは下記まで。
藤倉陽一(藤倉造園設計事務所) fujikura.info@gmail.com
高田宏臣(高田造園設計事務所) info@takadazouen.com
講演会の概要は下記のとおりです。
・テーマ; 里山に学ぶ茅葺きの話
・日時; 平成24年1月22日日曜日 受付13:00~
講演会 14:00~16:00 懇親会16:30~18:30
・場所; 日本女子大学 桜楓会館2号館
東京都文京区目白台2-8-1 TEL03-3942-6090
・参加費; 講演会費 会員3,000円 一般4,000円 学生1,000円
懇親会費 4,000円
・締め切り;平成24年1月12日(木)
・安藤邦廣プロフィール
1948年宮城県生まれ 九州芸術工科大学工学部環境設計学科卒業。
現在、筑波大学芸術系教授 工学博士 建築家。 社団法人日本茅葺き文化協会代表理事。
専門分野:日本及びアジアを中心とした伝統的住宅の研究、木造住宅の機能、デザイン、技術の研究と開発、実践する。板倉造り住宅設計作品多数。
民家や住まいの伝統技術についての著書多数。
最近の著書に、「小屋と倉」建築資料研究社 「民家造」学芸出版社、「日本の民家屋根の記憶」彰国社などがある。
多くの方のご参加を歓迎申し上げます。
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
日本の森林を考える 平成23年12月4日
3日間続いた冷たい雨が開けた快晴の今日、事務所のモミジの紅葉が青空に美しく輝きました。
温暖化と気候不順の影響からか、南関東地域の紅葉の色合いが全般的に良くない中、今年も事務所のモミジは美しく紅葉してくれました。
コナラやクヌギ、ケヤキなどの下で守られた事務所のモミジは、ゆっくりと堅実に成長するがゆえに、急速な温暖化の時代でも、今のところはまだ、放置していても健全な生育を続けています。
近年の生態系の破壊に伴って増え続けているイラガやカミキリムシの被害も、私の事務所の健全な庭では、その被害は全くありません。
これからの時代、人類も植物も経験したことがない程の、急速な気候変動の時代を迎えることでしょう。
これからの時代を生き抜いて、地球に貢献できる木々の在り方、植栽の在り方を考える時、身近な木々が教えてくれるたくさんの知恵が、私たちに多くのヒントを与えてくれる気がします。
東京都西多摩郡檜原村、田中惣次さんという林業家がいます。東京都で、40年以上にわたってひらすら林業家として山を守り続けている信念の人です。
私は学生時代、田中さんの生き様に惚れ込んで、大学を1年間休学し、田中さんの家に住み込みながら半年間の間、山仕事のお手伝いをさせていただきました。
昨日、田中さんの新刊を購入し、一気に読破しました。
20数年前の当時、知床の原生林伐採問題が世論を動かし、健全に日本の森を守ってきた林業家までもが、自然を破壊する悪者として非難された時代でした。
実際には、持続的で豊かな山村文化と生態系を守ってきたのが日本の林業家たちなのです。
田中さんはそんなおかしな時代の中でも一時もぶれることなく、信念を持って山仕事に励み、都会の人たちを山に案内し、林業の大切さ、山の大切さを伝え続けてきました。
今は全国に広がった森林ボランティア活動の発祥の地のなったのも、この檜原村の田中さんの精力的な活動が発端となって広がったことなのです。
高度成長期の東京で林業を続けることがどれほど困難なことだったか、田中さんの20数年来の生き様に接してきた私には、感激と涙を持って感じ入るものがあります。
この40年間というもの、戦後の復興の過程で国民総出で植林された世界に誇る日本の人工林が、衰退と荒廃の一途をたどった時期と言えるでしょう。
今から47年前の昭和39年、木材輸入にかかる関税が撤廃されてからというもの、世界の山林を収奪伐採して持ち込まれる安価な輸入木材に押されて、日本の林業は壊滅的なまでに衰退し、そして山の働き手は職を失い、山村は荒れ果てていきました。
今の日本の繁栄があるとすれば、それは豊かな国土とそれを支えてきた第一次産業を犠牲にした上での、持続できないまやかしの高度成長社会であったと言えるでしょう。
日本は国土の67パーセントが森林です。フィンランドに次いで世界2位の森林大国です。その日本が、自国の森を荒らして、実に木材消費の80%を海外の安価な木材輸入に依存しているのです。
そうしている間に山は荒れ、そして持続的な暮らしも文化も生き方も節度も、我々の祖先が築いてきた日本人の素晴らしさをあっという間に失ってしまったのです。
これから迎えるTPPの荒波、世界の中の日本を思う時、大国の脅迫を退けることなど、日本のような弱小の敗戦国家として決してできないことくらいは、職人の私にもわかります。
しかし、このまま何もしなければ、日本の文化と共にあった稲作も、衰退の一途を辿ってしまった日本の林業と同じ運命をだどりかねません。
さて、今私たちはどうするべきか、国家としてではなく、身土不二の一人間としての原点に返り、子供たちの生命と健康と幸せを願う素直な思いこそが、私たちにかろうじてまともな知性と勇気と節度を授けてくれるのではないかと思います。
時代の変遷に微動だにせず、ひたすら日本の山を守り続ける田中さんの生き方考え方に、いつも私は勇気づけられてきました。
わずか半年間でしたが、若い頃にその影響を受けた弟子の一人として、私もゆるぎない人生を正しい世のために捧げることができればと、決意を新たにしています。
我が事務所の地表を覆う雑木の落ち葉が、晩秋の柔らかな日差しの中で感慨深い景色となって心にしみこんできます。
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
ちば山見学会2 房総の山は今 平成23年11月30日
ここは房総丘陵南部、東京大学演習林から見た、県有林の山並みです。
戦後に植林された人工林のほとんどが管理放棄されている中、この森は良好な管理が今もなされています。
植林後、30年経過した人工林です。人が植林したのであれば、良好な森の状態を維持しながら持続的に木材生産するためには管理作業が不可欠です。
それが同時に国土の保全に直結する面もあります。
良好に管理された人工林の中では林床の多様な植生が進入し、生態系として健全で安定した森が形成されます。
一方、これは管理がなされていない不健全な人工林の内部です。光の届かない下枝が枯れたままの状態となり、木材としても価値はなくなります。
光の届かない林床にはほとんど植生は育たず、生態系として不安定な状態となっています。
もやしのようになった人工林の木々は台風の度に倒れます。
暗い林床では、鳥の鳴き声も聞かれません。命を養う本来の森の潜在能力はここでは感じられません。
残念ながら、日本の里山の多くはここ数十年の間にこうした不健全で生態的にも貧弱な状態となっているのが現状のようです。
そしてこれは、植林後100年以上経過した杉の人工林の様相です。光が差し込む林内では中低木が階層的に生育し、重層的で安定した森の機能が見られます。
そして、この人工林の一部で行われた木材搬出の現場を見学しました。
100年を越えて良好に管理された森が伐期を迎え、木材となります。
伐採後の土地には新たに若い森が再生されます。
山の急斜面で伐採された木材は、山中に張られたケーブルを伝って土場と呼ばれる木材中継作業場まで降ろされます。
そして山から降ろされた木材を規格寸法にカットして、そして初めて出荷されます。
木材生産を通して維持されてきた千葉の里山、健康な人工林、豊富な生態系と人工林との共存は戦前までは当たり前の光景だったようです。
それが、今や山仕事の担い手不足から、必要な管理が行き届かずに荒れてきたのが今の里山の現状のようです。
そしてこれは、房総の極相林(自然状態で土地を放置した際、最終的に生育する森の植生)の様相です。
樹高40m以上のもみの木が主木となって、その下に樹高20m程度のシイノキなどの常緑広葉樹が見られます。その下には豊かな中低木が自然状態で生々流転しています。
森は、上下空間の階層が多い程、豊かで安定します。
今は温暖化の影響で、極相林の主木であったモミの木に昔日の勢いはありません。
今はこれが極相と言われますが、本来安定すべき極相が、地球温暖化と気候変動のために姿を変えようとしています。
どこまでも続く房総丘陵の山並み。これからの維持の在り方が問われます。
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
ちば山見学会1 木材の自然乾燥と人工乾燥 平成23年11月28日
ここは千葉県夷隅郡大多喜町、NPOちば山の木材乾燥貯蔵施設です。
NPOちば山では、千葉県の山村文化保全や山林の活性化のために千葉県の地産木材を活用し、山林育成を促すための様々な試みを行ってきました。
と、、、私が言葉で紹介するとなんか、、、実際のちば山の雰囲気にそぐわない堅苦しさを感じさせてしまいます。。。
要は、千葉の山や木が好きで好きでたまらない人の集まりと言った方が正しい気がします。
先の土曜日、ちば山の見学会のために、房総ののどかな山村、大多喜町を訪ねました。
自然乾燥木材のストックヤード、この倉庫で、製材された木材は、強制的に加温されることなく、ゆっくりと呼吸しながら自然乾燥させていきます。
倉庫に入ると木々の香りとひんやりした空気がとても気持ち良く、体の芯から健康になる気がします。
生きた木材の細胞が呼吸しているのです。自然乾燥の場合、製材してから最低でも1年近くもの時間を乾燥に費やします。そして、乾燥によって変形した木材を修正するために更に製材を施して初めて、こうして木材の細胞が生きたままの建築木材となるのです。
時間と手間を要すのが、自然乾燥の木材なのですが、つい数十年前までは当たり前のことでした。だからこそ、木の心地よさがあり、更には何百年もの間、家屋を支える素材としての耐久性を維持しうるのでした。
一方、今の建築材料としての木材の多くは、人工的に高温を加えて乾燥させます。
木材の細胞は50度以上に加熱されることで組織は死んでしまいます。死んだ木材細胞は、吸湿能力もほどんとなく、木の香りも艶もなくなり、耐久性も格段になくなります。
呼吸しなくなった人工乾燥木材は、製材後の変形も少ないため、機械的な扱いもしやすく、それが今の大量生産住宅にぴったりと適応したのでしょう。
また、短時間で木材の含水率を下げて製品化のプロセスを画期的に早めたことも、人工乾燥木材が主流となった大きな要因と言えます。
これが、私たちの社会です。木の細胞を殺して、それがなんのための木の家なのなのでしょう。
木材ストックヤード見学の後、地元の木材プレカット工場を見学しました。
ここでは、木材のほぞ穴など、木造建築のための刻み加工を機械にて行っています。
かつては大工さんが木材を目利きし、ノミとカンナで刻んだ、材木の下ごしらえの作業も、今の住宅では多くの場合が機械によるプレカット加工となっています。
こうした機械化の作業性の向上に大きく寄与したのも、木材の人工乾燥技術だと言えます。
歪みを生じやすい自然乾燥木材は機械で扱いにくいので、なかなか普通のプレカット工場では受け入れてもらえません。
地元、山二林産の工場では、ちば山の自然乾燥木材を受け入れて製材してくれていました。
しかし、自然乾燥木材を持ち込むのはちば山の工務店だけであって、それ以外はほとんどが人工乾燥木材のようです。
人工乾燥木材をKD材と言います。
プレカット後のKD材製材後の断面の様子です。表面には亀裂はありませんが、木材の内部には細かな亀裂がいくつも入っている様子が分かります。
これも、強制的に乾燥させられたKD材の特徴と言えるかもしれません。
実際に木材にノミを当て、カンナで削ると、KD材と自然乾燥木材の違いが良く分かります。
しなりや粘り、そして生きた木材特有の艶や香りがあるのが自然乾燥木材、粘りもなく、焦げくさく、木目がぼそぼそしているのがKD材なのです。
KD材のプレカット後の様子です。スパッとした木材の艶やかさはなく、ぼそぼそした肌の様子が感じられると思います。
かつての日本では、木材乾燥の時間短縮のために、蒸気によるスチーム乾燥も行われてきました。しかし、その温度は木材の組織を殺すことのないように、摂氏48度程度以下で乾燥されるように配慮されてきました。
そうした配慮が、快適な呼吸する木造住宅を造り繋いできたのです。かつての日本人の知恵に、ここでも驚嘆させられます。
含水率の変化による変形など、建材としての木々の欠点をなくすため、短絡的に加熱して乾燥させることを思いついたのが今の木造建築。その結果が、本来の木造住宅の良さを奪い去ってしまったのです。
現代文明とはそんなものだと、職人として生きていく中で、その浅はかさを実感します。
ちば山では、一貫して自然乾燥木材の家造りを続けています。
また、千葉県産の自然乾燥木材で造った私の家は、その快適性を実証します。
真夏の屋外で湿度90%以上のじめじめした日でも、室内の湿度は大体60%台で推移します。全ての窓を全開にしても、湿度70パーセントを超えることはありません。
これは、自然状態で含水率20数%程度の家屋の木材の呼吸によって、湿気が適度に吸い取られることによります。
これによって、エアコンのない住まいの夏を、我が家は毎年乗り切っているのです。
同じく、筑波を拠点に自然乾燥木材による板倉建築住宅を造り続ける建築家、安藤邦廣教授は、先日私にこう言われました。
「人工乾燥の木材は細胞が老化した老人の肌のようなもの。バサバサしていて艶もないし張りもない。呼吸しない。
それに対して自然乾燥の木材は若者の肌のようなもの。収縮や膨張などの悪さもするが艶やかで張りもあるし呼吸する。それに、これから壮年期にかけて更に強くなる。だから何百年もの間家屋を支えることができた。
それに対してKD材は、強制乾燥をかけた直後から劣化が始まる。しかしそれでも、30年程度は問題なく家屋の建材として使用に耐えることはできる。
今の日本の住宅は大抵30年位で寿命が来るから、それだけ持てばよいというのなら、KD材でも問題ない。
ただし、かつての日本の民家のように、建て替えの際に木材を再利用することは絶対にできない。劣化した抜け殻のようなものだから。」
全く共感です。
里山保全が、言葉ばかりのブームのように聞かれる中、しっかりと今の文明を足元から一つ一つ見直していかねばなりません。
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
奈良・滋賀 庭の取材撮影 平成23年11月25日
ここは大和の国郡山、 西大寺本堂です。
平城京のあった奈良時代、東の東大寺に対して西の西大寺として命名されました。官寺にふさわしい壮大な伽藍があったこの地に、今は静かに佇む金堂の前、石段に囲まれたかつての五重塔の礎石の佇まいが昔日の栄華を伝えています。
来年10月発刊予定の書籍、「雑木の庭空間を作る」の撮影取材のため、奈良県の生駒市を訪ねました。
快晴の朝、版築塀の向こう側に、秋の気配が漏れてきます。
家屋が密集する住宅地の中の狭い主庭なのですが、それを感じさせない雰囲気がこの庭にあります。
この庭は昨年、京都の雑木の庭空間作家、田島友実さんによって造られました。
水音が聞こえ、デッキ際に小さな流れが伝います。11月の日差しを反射して、木々は明るく光り輝きます。
リビングに、木漏れ日が差し込み、光が揺らぎ、その表情は刻々と移り変わります。これがここに住まれるHさんご夫妻の日常風景です。1年前に造られたこの庭がHさんご夫妻の暮らしを潤し、そして今はもう、この庭のない暮らしは考えられないと言います。
1日での近畿地方撮影取材は駆け足です。奈良の次は滋賀県に移動します。
昼過ぎに、琵琶湖のほとりにたどり着きます。琵琶湖のアシ。かつてはよしずや草ぶき屋根の材料として保全され、育まれてきました。
近年、アシの需要激減と湖畔の開発によって、琵琶湖のアシ原が激減します。水質浄化能力の高いアシが消えるにつれて琵琶湖の汚染が深刻化し、そしてまた近年、アシの環境価値が再び見直されてきたようです。
ここは比叡山を望む琵琶湖のほとり大津市、田島さんの11年前の作庭です。
三角形に張り出したガラス張りのリビングが、庭の木々の中に溶け込んで、雑木林の中に佇むようです。
そして庭の雑木林は、木柵を挟んで隣接する伸びやかな街路樹と一体化してどこまでも豊かな木立が続いてゆくようです。
リビング西側は、幾重もの木立で夏の西日をシャットアウトしています。
これがこれから冬にかけて葉を落とし、今後は柔らかな冬の日差しをとり込む庭へと変わっていきます。
三角形の先端を庭の方向に張り出すリビングの様子。室内にいながらまるで雑木林の中にいるようです。
作庭後11年、毎年の手入れによって木々はコントロールされながら落ち着きを増していきます。
この2件の庭の様子は来年10月発売予定の書籍の中で詳しくご紹介させていただきます。
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink