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雑木の庭つくり日記

海岸松林の再生と、庭の環境改善    平成28年9月29日


 昨年11月より森林再生実証作業にかかり始めた新潟市北区の海岸松林保安林、今年春の様子です。

 昨年の改善実証作業の前は、松も次々に枯死し、手の施しようのなかった海岸松林、そこでの森林環境改善作業を実施して10か月が経過しました。当初の予想以上に早く、改善の効果が見えてきましたので、少々ご報告いたしたいと思います。



 これは今年5月(改善開始後6か月)の実証実験区の様子です。



 これは今年9月(改善開始後10か月)の実証実験区。
葉色、葉量、枝葉のバランス、しなやかな枝先の様子や枝の分岐具合などから、不健康だった森がすっかりと健全な状態へと変化してきたことが明らかに見受けられます。



 (改善作業前の松林)
 次々と枯死し、残っている松も多くは葉色が悪く枝先に張りもなく、精気なく痛々しく乾いた、病気の林だったのです。

 これまで、国策で進められてきた農薬散布の果てに、海岸林の生命環境は壊滅的に劣化し、なおかつ松枯れは一向に収まることはありませんでした。
 当然です。傷んだ環境に対して、さらに農薬散布などによってバランスの回復を妨げるようなことを繰り返せば、ますます木々が健康に育つことができない、健康で劣悪な環境へとますます変貌してしまいます。
 
 一方で、木々が健康に生育できるための、その源たる環境に目を向けて、人間の手によって少しばかり適切な対処を施すことで、すぐに木々も森も健康を回復してくるものなのです。
 



 先ほどの写真と同じ松林の一角ですが、改善開始後わずか10か月ほどで、松林はみずみずしい健康を取り戻してきた様子が明らかに感じられるようになりました。
 
 定説にとらわれず、健康な心と頭でバランスよく観察し、そして森の本質、自然の本質としっかりと向き合うこと、それさえできれば驚くほど短期間に環境は再生されてくるという事実、それを多くの人に知っていただき、本当の自然を見通す感覚を育てていっていただきたいと思うのです。

 こうした環境再生のための視点について、ここで少しばかりご紹介したいと思います。



これは改善作業前の土の様子です。植物の根は表層にしかなく、土中にはほとんど根はありません。



(改善作業前) 
土は完全な砂のままで、有機物はほとんど土中に存在していません。
当然、植物の生育に必要な土中微生物環境も全く育っていないことが分かります。



(改善開始後、半年経過)
 今年5月、試験区内を試掘すると、表層の細根は飛躍的に増え、そして深い位置にまで植物根が進入、そして細根分岐している様子がうかがえます。



(改善開始後、半年経過)
そして、砂の色も匂いも変わり、有機物の分解によって砂が黒く色が変わり、そこにたくさんの菌糸や細かな根が絡みついて土壌中に空隙を作り始めていることがうかがえます。微生物、土中生物も深い位置にまで生息できる環境へと変貌してきました。



(改善作業前)
松林の林床は、イバラやつる、そしてイネ科、キク科等の荒れ地の草がうっそうを繁茂し、空気は滞る不快で不健全な藪でしたが、



(改善開始後8か月)
今や、あの不快なとげのある植物や荒れ地の背の高い雑草はほとんど消えていき、今はヨモギやツユクサはじめ、柔らかな下草が多種共存できる心地よい林床環境が育ってきております。



 
 今年5月、実証実験区域に隣接する松林は変わることなく不健康な様相で、林床の下草は荒れ地の雑草ばかりがはびこる藪の状態を見せております。



 一方、同じ日の実証実験区内の松林の林床の様子です。
 ここでは打って変わって穏やかでしっとりとした心地よい林床の様相を見せ、そして松の下に自然に進入してきた灌木類はのびのびと多種共存の森環境を作り始めていました。

 とても大切なことなのですが、私たちは松林の再生のために、決して松だけを見ているのではなく、環境全体を見ているのです。
 松が健康であるためには環境が健康でなければなりません。健康な環境とは、あらゆるいのちが多種共存し、喧嘩せずに互いに生かしあう、いのちの環境なのです。
 いのちは、それ一種類で生きているわけでは決してなく、自然界のあらゆるいのちがつながって共生、共存してこそ、健康な命を保つことができるのです。

 健康な松林を再生するために私たちが見ている部分は、土中環境や下草、灌木、空気の流れ方といった、松以外の環境全体の健康の回復のために、これまで手を施してきたのです。
 その結果、主木の松がこうして健康を取り戻してゆくのです。



 改善開始後10か月(今年9月)。
 これが以前は、不快で不健康な病気の林だったとは思えないほど、健康で心地よい海岸林へと変わりつつあります。
 
 人はしばしば、自然という、常に変化し、複雑で複合的なたくさんの要因でファジーに移り変わる世界を、単純化して考え、強引に枠にはめて従わせようとするようです。

 「松枯れの原因はマツノザイセンチュウ。これを退治すれば問題は解決する。」などと、原因と結果を取り違え間違った学説に基づいて、国策をもって今も農薬散布が強力にくりかえされています。その果てに環境はますます健康を失い、木々は枯れてゆき、私たちの生存基盤を失っているのです。

 我々は早く、その悪循環を断ち切り、ふたたび自然と手を繋いで歩んでゆくことを思い出さねばなりません。
 新潟市長の英断で始まったこの松林環境再生の効果を世に示すことで、その第一歩となるよう、力を尽くしていきたいと思います。

 

 さて、次にご紹介しますのは、間もなく竣工する、東京都武蔵野市Iさんの庭、二期工事の様子です。
 家屋解体後の傷んだ環境を改善して植栽し、半年が経過しています。



 わずか半年で、木々はとても健康に育ち、枝先はしなやかでバランスも良く、その様相から土中の生き物環境もまた、健全に育ってきていることがうかがえます。



樹木の根元には、枝葉の分解途中の腐植状態のものでカバーしております。これによって健康な森の林床のような、ふかふかでしっとりとした呼吸する大地の地表が早い段階から育っていくのです。



 芝生を張ったのは3週間ほど前のことですが、これほどの大雨がここ数週間降り続いたにもかかわらず、土はふかふかで芝生はびっしりと元気に生えそろいました。
 芝生も、水がきちんとしみ込む環境でなければ、長く健康を維持することはできません。特にこの秋のように、毎日のように大雨が大地をたたく日が続けば、なおさらです。
 大地の呼吸環境を徹底した改善したこの庭では、こんな気象もものともせずに芝生も健康に根を伸ばし、青々と生えそろってくるのです。

 今の時代の環境、気候条件においては特に、植栽よりも先に、まずは土中深くまでいのちが心地よく呼吸できる環境を再生すること、それを第一に考えて住環境を作ってゆくことこそが今、とても大切なことと思えるのです。



 一方で、ここは3年ほど前に竣工した千葉県印西市の庭。水がはけずに土が硬化し、芝生が後退してきています。



 大雨の際に水がはけにくい場所は特に、芝生は消えて土がむき出しとなり、そのむき出しの地表を雨がたたいて泥水となり、それがまた表層の微細な通気孔をふさいで行ってますます土は固くなり、土壌環境はますます悪化し続けてしまうのです。

 今回、芝生が健全に生育できる環境へと改善していきます。



 樹木植栽部分との境界や、芝地を横断するように、移植ゴテでちょこちょこと土中通気浸透性改善のための横溝を掘っていきます。



土壌の状態や地形に応じて、要所に深さ60センチ程度の縦穴を開けていき、



そして縦穴、横溝に枝葉を絡ませていきます。これによって枝葉の分解に伴い、土中微生物菌類が土中に増え、土壌に菌糸を張り巡らせてふかふかの団粒土壌構造を作っていき、それによって土中の通気浸透性は日を経るごとに改善されてゆくのです。



 そして、土中に眠っている様々な菌類微生物をゆり起こし、健全な発酵のサイクルへと土壌環境を早期に誘導するため、自社培養の複合発酵酵素水を散布します。
 土中の通気浸透性の改善の上でこれを散布することで、その改善効果は飛躍的に高まることを日々実感します。

 すべては、たくさんの命が健全に生きられる環境の力を高めてゆく、たくさんの生き物たちが拮抗作用を起こすことなく健全に共存できる環境つくり、私たちの改善作業の本質はそこにあります。
 それが結果として、人にとっても健康で心地よい環境につながってゆくのです。



 今回の改善作業によって、来春には見違えるほどにこの庭の表情は変貌してゆくことでしょう。
 環境の再生、環境の改善、日々そんな仕事と向かい合える幸せを噛みしめながら、これからも切磋琢磨していきたいと思います。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2016年9月29日 15:39) | PermaLink