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雑木の庭つくり日記

鴨川の自然と共に暮らす      平成25年4月20日


 千葉県鴨川市、大山地区の棚田を見下ろす絶景のカフェ、草soの造園改修工事が数日前に終了しました。



 家の周りに木々のない家というものは、どんな素晴らしいロケーションにあれども、長年の暮らしの舞台としては落ち着かないものです。
 植栽した木々は、細い幹の若木ばかりですが、これらの木々が家族とともに年月を重ね、ともに成長しつつ、この土地の風土を作ってゆくのです。



 敷地内の傾斜地に、植栽工事で発生した残土を盛って棚状の地形を作り、そして回遊路を巡らせました。



 回遊路の随所に設けた階段もさりげなく配します。造園的な作り込みはこの地に似合いません。
あくまでさりげなく、作り過ぎず、自然に、この地の風景としてなじませるのです。



 木々の合間の階段が、さりげなく景色のポイントとなります。

 その土地、その家、そこに住む人たち、その品格にふさわしい外空間の佇まいをつくるためには、当然ながら造園的な技や感覚も必要不可欠です。しかし、それだけでは決して、本当の意味で良い風景にはならないと思います。
 大切なことは、その土地やご家族の心と深く向き合い、敬意を持って、家族やその地に相対し、最善とは何かを考え、感じ取り、そして心魂を込めて生み出すことなのだと感じます。



 造園という仕事は、風景が生まれる一つのきっかけに過ぎません。
その土地とのご縁を結び、木々を植える。しかし、それが風景として育つまでには時間が必要であり、そしてその地の人たちの愛情が必要です。

 悔いのない、風景の種まきができました。30年後、ここには貴重な未来の風景が育っていることでしょう。

 やりたいように施工させてくださいましたお施主様、また、造園工事を温かな目で見守ってくださいましたカフェのお客様や地元の皆様、本当にありがとうございました。



 草soさんの工事の最終日、近所に移住されて居を構えられたご夫妻の素敵な家を訪ねました。

 都心に近く、温暖で自然に恵まれた鴨川市には、自然と共にある暮らしを求めて、魅力的な方々が大勢移り住んでいます。



 ここに住まれているのは、ブラジル人のヘジナウドさんと下郷さとみさん、お二人の案内で、隣接する森を訪ねます。

 これからこの森をどう育ててゆくべきか、そんな相談を受けて、この地を訪ねたのです。



 鴨川の早生林らしく、カラスザンショウ、ミズキ、アカメガシワなどの落葉樹、そしてスダジイ、タブノキ、ヤブニッケイ、モチノキなどの常緑樹とが混交する、ごく若く成長途上の森の様相を見せています。

 もともとは生活林として落ち葉採取や薪炭林として利用されてきたようですが、近い過去に伐採等の大きな攪乱があったように感じます。
 温暖な鴨川は、コナラなどの落葉高木樹林を形成することなく、ごく早い段階で常緑樹の密生林となる場所が多いようです。
 そこには健全な植生遷移を形成できない、樹種の貧困化も感じられます。
 自然豊かに見えても、実は種の欠落があちこちで進んでいることに気づかされます。
 
 森をよい方向に誘導しようと思えば、10年から20年後を想定して進める必要があります。
「この森をどう育てようか。」そう問われるヘジナウドさんと下郷さん。
 、そんなお二人から、この地に対する深い愛情が伝わってきます。
 こんな方々の存在が、その土地に未来の豊かな風土をつくるのでしょう。とてもうれしい気持ちになり、ついつい長居してしまいます。



何か視線を感じるな、と思いきや、馬がこっちを見ています。



 与那国島から来た在来馬です。下郷さんが、毎年のお米と引き換えに、与那国島の人から譲り受けてきたと言います。



 ヘジナウドさんが自慢げに見せてくれたのが、この馬糞堆肥です。藁と混ぜて積みあげて、それだけで素晴らしい堆肥になると言います。
 「馬の餌は田んぼの畔草だけ。それで素晴らしい堆肥の原料をを毎日生産してくれる。」ヘジナウドさんはそう言います。
 つまり、道草を食って堆肥を生産する、そんな素晴らしい動物がこの貴重な馬なのです。



 藁で土手を囲い、そして真ん中に馬糞を積み上げると、あっという間に発酵が進みます。香ばしい藁の匂いこそすれども、臭みなど全くありません。



 半年かけて、馬糞は素晴らしい堆肥に生まれ変わります。

 私も剪定枝を堆肥化してますので、良土を作る喜びはよく理解できます。これが命の循環といいうもの、そこには大きな感動があり、そしてそれが人の心に本当のいのちの輝きを宿すのでしょう。



 この、のどかで素晴らしい土地も、下郷さんとヘジナウドさんの二人が開墾したのです。
楽園とは、探すものではなく作り出すもの、この土地を拝見しながら、そんなことを想います。

 お二人の夢は、果てしなく続きます。今はここに鴨川の豊かな産物を用いたカフェを開くべく、着々と準備を進めています。
 8月オープンを目標にしているといいます。

 素晴らしい土地、素晴らしい人たち、ここにカフェがオープンすれば、また人がこの土地にたくさん集まります。人が集まればまた何かが始まります。
 そうやって、面白いことが循環していくのでしょう。

 

 この土地に、完成したカフェ草soのエントランス風景。
 造園工事をさせていただくということは、その土地との縁を結んでいただくということ。出会いが出会いを生み出して、そして私たちの人生も、ますます豊かになってゆくのです。
 素晴らしい仕事をさせていただけることに、心から感謝です。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2013年4月20日 16:21) | PermaLink