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雑木の庭つくり日記

施工後、新緑の庭をめぐって            平成28年4月30日


 本日、メンテナンスに訪れた、茨城県鹿島市、Yさんの庭です。竣工後丸2年が経過し、いよいよ森の様相を深めてきました。
 ひんやりとした空気感も昨年までとは違い、一歩庭に入ると涼しく爽やかな風が心地よく、いつまでもそこに居たくなります。



 私の植栽は住空間の中に樹木を群落単位で点在させていきますが、2年前、ここでは高木の根元に、様々な苗木を混在させて植えました。カシ、コナラ、シイノキ、エノキなど、みんな大きくなる樹種ばかり、まるで自然林での林床の芽吹きのように植えたのです。
 「これ、どうなるんだろう。」
 植栽当時、興味深げに観察していたYさんの様子が面白く思い出されます。

 それが今、力強く競合し、共生しながら、まるで山奥で朽ちた倒木の上でたくさんの実生が芽吹き競い合って伸びる、そんな光景を彷彿とさせます。
 庭で感じることのできる力強い自然の営み、伸び伸びと育つ木々の濃い緑に大きな力をもらいます。
 
 私の庭では、できるだけ管理しすぎることなく、野生の木々本来の力を発揮させて伸び伸び育てたい、その理由は、こうした健康な木々が人に与えてくれる無限のエネルギーと幸せ感にあります。



 庭つくりの時はまだ赤ちゃんだったYさんの息子、イチロー君も、たくましい顔つきの4歳の男の子になりました。
 作った庭を訪れる楽しさは、成長する子供達との再会の喜びが大きいものです。イチロー君は庭作業する私たちのまねをして、頭に手ぬぐいを巻いて、庭の中や外をちょこちょこと動き回ります。



 「休日はいつも一日中庭に居る、庭があれば連休もどこにも行く必要がない。」
 Yさんはそう言って、休日の今日も日がな一日、庭で子供たちと一緒に過ごします。
 新緑まぶしい今の時期は、一年の中でもっとも美しい時期かもしれません。
 日ごと表情を変える木々の息吹を感じていれば、飽きるということなどありません。



 Yさんの庭の一角に設けた20㎡ほどの菜園は、いまや子供達の土遊び場となりました。
子どもが生まれる前、あれほど熱心に週末菜園に熱中していたYさんも、野菜つくりをお休みして、菜園スペースの全てを子供の土遊びとして明け渡したのでした。
 今はなかなか土を自由にいじる場所もないせいか、近所の子供たちもここに土いじりに来ると言います。
 
 「子供が小さなうちは、庭なんぞ作り込んではいけない、掘ったり植えたり、子供が好きに触れ合えるような、そんな雑多な雰囲気がちょうどよい。」

 そんな私の庭への想いも、Yさんの庭やその暮らしを見るにつれて、ますます思いを強められます。
 子供がわくわくと楽しめる庭、子供の五感をときめかせる場所、、、、そんなものを求めているうちに私の庭は、里山自然環境やかつての屋敷林のある暮らしの環境としてのニワとの境界線がますますあいまいになり、溶けてゆくようです。



 日当たりのよい木の枝に干された子供の服。それをぼんやりと眺めていると、新緑のまぶしい緑の美しさと相まって、とても幸せな気持ちに包まれます。
 限りある人生、その中で子供と過ごす幸せな時期というものはあっという間に過ぎ去っていきます。だからこそ、心地よく優しく、生き生きとした緑に包まれた家庭での時間を大切にしてほしいといつも願うのです。
 縁側に子供の靴が並び、そして木の枝につるされた小さな服、そんな光景がどれほどかけがえのないものか、手入れに行くたび成長してゆく子供たちを見て、いつも想うのです。



 そして今日、2件目に訪れたのは、ついひと月前に造園工事完了したばかりの保育園、野草舎森の家です。焼き杉の木柵や木戸、そして現地の土を塗った土壁の門塀も新緑の中になじんできました。



 植えたばかりの木々は今後、必要以外には手を入れることなく、この園舎を心地よい森の環境へと育てていきます。
 数年後には濃い緑の中、庭全体に夏の木陰が広がることでしょう。



 2か月前に植栽したばかりの木々ですが、昨日の大風にも倒伏しない、力強い根の張りを見せてくれていました。
 私の植樹は基本的に支柱は施しません。また、樹木の深植えも今は決して行いません。
 倒伏防止のために心がけていることがあるとすると、植栽樹木の根が早い段階で健全に伸びてゆくよう、下地土壌の通気性には格別の手間を施しています。
 土壌の通気性と浸透性、それさえ心がけていれば、植栽後、わずかひと月もたたないうちに木々の根と根が絡み合い、台風にも倒木しない健康でしなやかな樹木群落となるのです。
 また、自然林での樹木群落のようにその土地においての相性の良い樹種による密植混植の効果も



 土壌の通気浸透性改善造作による木々の根の生育環境改善の効果はてきめんに顕れます。
 これは1年前に、つくば市内、水はけの悪い大型造成地において、土壌通気浸透改善・植栽した樹木群です。
 本来この土地は7年前、もともとなだらかな起伏の畑地だった土地の地表をはぎ取り、重機で締め固められたこの大規模造成地は、宅地造成によって通気浸透性を失い、水は浸み込まず、そこに植えられた樹木はほとんどが生育不良の様相を見せていたのです。

 そんな中、試験的な取り組みとして、造成地の一部、総延長約100mの街路において、我々の提案による、通気浸透改善・密植による植樹を1年前に実施したのです。



 それに対してm道路を挟んだ隣地には、我々による改善植栽とほぼ同時期に、従来の方法で植えられた街路樹が並びます。この写真はその、従来型植栽によるものです。
 大半の木々は枝先を枯らし精気もなく、根の伸長不良による生育不良の様相がすでに顕著に表れていました。
 普通に木を植えてもまともに育たない、今、そんな造成地が全国で増え続けているのです。



 一方で、土壌通気浸透環境改善の上で私たちの植樹した街路樹は、、2回目の春を迎えてますます葉数を増やし、枝先先端の葉も大方後退することなく、あたらな新芽を吹かせていました。
 その違いはわずか1年余りで誰が見ても顕著に分かるほど、結果は明らかに顕れます。

 根の呼吸環境への適切な配慮と造作がなされれば、どんな場所でも健全に木々を育てることができる、そのことを一つ一つ示し続けたいと思います。

 現代の技術が置き去りにしてしまった大地の呼吸環境への配慮という大切な視点を忘れない社会つくりに活かされるよう、日々結果を示し続けていこうと思います。黙って結果を示し続けること、木々を、大地を生き返らせ続けること、それも今の私たちに与えられた大切な使命なのだと感じます。



 そして先週には、埼玉県越谷市Aさんの庭の改修2期工事が終了しました。



 家周りのコンクリートを剥がし、アスファルトを剥がし、そして土中環境改善の上での植樹です。
30年もの間、アスファルトの下敷きになって死んでしまったような土壌環境でも、適切な改善措置によって呼吸する大地、木々が健康に育ってゆく環境がよみがえります。



  旧家の広い庭の中に、2か所の大きな穴を掘り、そして取り外し可能な木蓋をかぶせた場所を設けます。
 ここが、この庭の土壌環境改善の要となる、大地の通気孔となるのです。




 ここに集まった水を水中ポンプでくみ上げて庭や畑の灌水に使うのですから、ある意味この呼吸孔は、浅井戸の役割をも兼用します。



 約2mほどの深さの穴には、雨が降る度に水が集まり、そして水位は日によって上下します。
掘った直後の穴の側面は、地表から1mほど下の位置から青くグライ化した水通しの悪いヘドロの層がずっと下まで続いていたのですが、穴を穿って2週間もすると、側面のグライはかなり解消されてくるのです。

 そして、この水は常にたまっているように見えて、きちんと土層を通して動き、行き来していることは、水が腐らず匂いもしないことから判別できます。
 穴を掘り、溝を掘って土中の水と空気を動かしさえすれば、土の中から土壌環境がおのずと改善されてゆきます。

 そして、もっと言えば、深い位置で溜まった水を、支障がなく水が腐らない限り、これを無理に抜こうとしないことも大切なことと思います。
 グライ土層、あるいは粘土層をさらに掘り進むと、通常きれいな砂、あるいは砂礫の層に行きつくことがよくあります。
 通気浸透改善を、水を抜くことと考えると、ついその層にまで掘り進みたくなるものです。
 その、水が抜ける層が、植物根の映える有機質土壌であれば問題ないのですが、清浄な砂礫層まで掘り進めることは注意が必要です。

 その理由は、端的に下記の二つに集約できます。

 ひとつめに、本来、降り注いだ水は大地の中で浄化され、貧栄養化した清冽な水となってから、深層水脈へと誘導されねばなりません。これを、劣化した土地において土壌浄化機能が回復しないまま、深層水脈へと流し込んでしまえば、それは浄化されず、ダイレクトに地下水の汚濁、富栄養化、そして深層水脈の汚染、詰まりという、まさに広域な自然環境全体に及ぶ環境劣化にも繋がります。
 あくまで、劣化してしまった土地の源環境を健全に回復させ、そしてそれが持続される形でゆっくりと育てていく必要があるように思うのです。

 もう一つは、土中の生き物環境を潤し、そして土中の空気を動かす水の役割というものがあります。本来、土中に浸み込んで動き、生きとし生けるものを養う水を、まるで排水するように深層へと流してしまうことは、本来の自然環境における健全なあり方ではないのです。

 傷んだ大地、それでも適切な土中改善造作によって、木々がきちんと生育できる環境はある程度充分再生することはできます。
 さらにその上で、本来のその土地の大地の力を取り戻したいと思う時、それは、自然の呼吸に合わせるように、時間をかけてゆっくりと改善させてゆくことも必要ということかもしれません。



 そしてここは三日前、一部分の改修を終えた、千葉市内の庭です。
この庭の造園工事が竣工したのはもう14年くらい前のことになります。
 粘土質の土は排水が悪く、植えた当初は生育不良の様相が顕著に見られたのですが、施工後から5年間くらいの間、毎年縦穴通気孔をあけては有機物資材を詰め込む、そんな改善作業を続けてきました。
 その結果、いつしか木々は生き生きとよい表情を見せてくれるようになり、そして今、この小さな庭はいつも心地よい空気が流れる、別世界となりました。



 今回の改修工事中。
 それまでの広いウッドデッキを半分の幅に狭めて、そして生まれたスペースを整えるというものです。
 14年前の当初、小学生だった二人の子供部屋が外で繋がる広いデッキを設けたのですが、子供が巣立った今、デッキを縮めて植栽スペースを増やし、より深く木々を感じて暮らしたい、そんな要望を受けての改修工事となりました。
 写真はデッキを切り詰め、ステップを作りなおしたところです。



 改修完了後。新たな造作14年前から育まれてきた庭の中に違和感なく溶け込ませていきます。



 足元の配石中。
 作った庭を後に手を加えて作り直すということ、そこには独特のむずかしさがあります。
 それまで時間をかけてなじんできた庭の中に、新たな造作を違和感なく溶け込ませるということ、そのためには、既存の素材の佇まいやデザインを再びじっくりと考慮して、素材の取りあわせや収め方を考えていかねばなりません。
 囲碁の碁石を打つように、敷石を打っていきます。



 デッキ下足元造作・植栽仕上げ完了後。



新たに植栽したデッキ際の木々。



 改修を終えて、庭は一段と美しく、心地よく充実しましたが、これが、たった今改修工事を終えたばかりの庭とは思えない、どこを改修したのか分からないほどの違和感のない収め方を期します。それも一つの、造園技術なのかもしれません。

 そんな技と同時に、改修の際にはまた、庭の土中環境の変化を確認するという、この上ない楽しみもあります。



 改修工事に際して、3か所ほどボーリングし、土中の状態を確認します。
14年前は20~30㎝も掘ると全く根の入り込めない粘土の地山だったこの庭の土壌は今や、70~80センチくらい下まで細根が到達する、膨軟な粘土質土壌に生まれ変わっていたのです。



 年度の隙間を木々の根が広げていきそれによって空気と水の通りがよくなり、そしてそこに共生する菌類微生物は土壌の構造を変えていきます。
 本来、砂質土壌よりも、水脈環境を保ちやすい粘土質土壌の方が、森林の源環境としては豊かなように感じておりましたが、一方で粘土質土壌は人為によっていったん、その中の血管のような水の道をつぶされてしまうと滞水もしやすく、土壌環境劣化も著しいものがあります。
 
 ここも竣工時の14年前はそんな住宅造成地だったのです。
 それを、木々の根の力、そして竣工後の継続的な土壌通気改善によって、土壌環境はここまで回復しえたのです。

 

 こうした改修工事は、土中の変化を観察する、とても貴重な機会になります。
 根の環境は刻々と変化し、土中のバクテリア、微生物環境もそれに応じて瞬く間に変化していきます。
 これは細根分岐した、根のはびこる周辺に広がるグライ土です。ヘドロ臭があり、この環境が続けば根は生きつづけることはできないはず。
 しかし、むしろこうした、粘土質土壌に点在して生じるグライ土部分に細根が集中している面白さ。こうした日々の観察がまた、土壌環境への理解を深めてくれます。
 だから、この仕事は楽し過ぎてやめられません。



 そしてここは、今年の1月に一期工事を終えたばかりの庭です。ここは砂地の地山を環境改善して植栽しました。
 3か月が経過し、枝先の精気や木々同士の枝葉の伸び方重なり合いの様相から、木々の根はおおよそ順調に伸びていることが分かります。



 木々は早くも家際のデッキに心地よい木漏れ日を揺らします。これから根の伸長と共には数を増やし、濃い木陰が夏の住まいを涼しく心地よく改善してくれることでしょう。

 連休を明日に控えた仕事納めの今日、長いブログになってきました・・・。でも、この時期の庭は生気にあふれ、まぶしく美しく、その喜びを是非お届けしたいとの思いから、もう少し、ご紹介させていただきます。



 ここは昨年秋に竣工した、つくば市Mさんの庭です。竣工後、半年余りが過ぎて初めての新緑の時期を迎えています。



 この庭では、駐車場スペースを改善し、ノシバの種を播種したのですが、時期外れの播種でした。



それでも、播種後半年経過して温かくなった昨今、ようやくノシバの芽吹きがうっすらと確認できました。
 ほとんど水も与えられず、乾燥しやすい駐車場にあって、ノシバの種はきちんと生き延びて発芽してくれたのでした。
 この日は新たに炭と目土をまぶして再びノシバを播種します。梅雨を超えて夏までにはきっと、淡い緑が駐車場を覆ってくれることでしょう。



 今は一年で最も清らかないのちの芽吹きの季節です。昨秋に植えたどんぐりも、一斉に葉を開いて競争を始めます。



 播種後、2度目の春をトレイに密植状態で迎えた白ヤマブキ。



 これをポットに植え替えます。
 忙しい日々の中、何のためにどんぐりや種から木々を育てているのか、その理由は、単に楽しいからです。そしてとても学ぶものがあるから。

 興味のある方は是非、木々の苗を育ててみて欲しいと思います。
 いのちの神秘を常に感じること、そこは大きないのちの繋がりを感じる入り口にもなります。
 そして、どんぐりも種も、野山に行けばただで手に入る上、子供でも楽しみながらできます。
 庭がなくてもベランダでも、こうした木々の赤ちゃんを育てることができる、是非、皆様にも試していただきたいと思います。



 事務所の庭とオンボロの愛車。12年前に植えた木々は伸び伸びと、いつも生きる力をもらっています。

 いよいよ連休となりますが、九州の災害、そして今の日本や世界にかかる暗雲を想うと、やはり気は焦り、駆けつづけねばならないように感じます。
 よい未来、安心できる平和な日本、平和な地球、そのために、学び続け、走り続けていきたいと思います。

 感謝をこめて。連休後もどうぞよろしくお願い申し上げます。
  





 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
自然環境としての庭を育てる    平成27年5月30日


 新芽が固まって梅雨へと向かう時節は、庭の育成コントロールのためのメンテナンスの適期でもあります。
 本日おうかがいした、千葉県市原市Aさんの庭は、竣工後1年半が経過し、木々はますますこの土地の自然へと同化していきます。写真は手入れ後です。
 光通し、風通しをコントロールしつつ、健全に成長しつつ、人も木々も、そして生き物たちにとって心地よい環境が醸成されてくるよう、適度な管理は必要になります。

 「カーテンを開けて暮らしたい。」 それこそこの庭の改修植栽前までは常にカーテンを閉めっぱなしで暮らしていたことが考えられないくらい、今は常にカーテンも窓も開け放した、快適で健康的な生活をなされています。



 健康な自然環境としての庭がもたらすかけがえのない豊かさは、その場に暮らしてみて初めて気づくものかもしれません。
 揺れる光と呼吸する大地、木々の香り、土の香り、こうしたことに日々感じながら幸福を実感する、本当に庭とはなんとかけがえのないものなのでしょう。
 手入れにうかがい、お客さんの笑顔と再会するたびにいつもそう感じます。



 大屋根の軒まで枝葉が達することで、狭くとも深遠な森の中にいるような、そんな感すら漂います。

 よく、私たち高田造園設計事務所の作る庭は大きな庭ばかりのように思われる方が多いようですが、そんなことはありません。この庭も植栽幅2m弱のごく狭いスペースなのです。
 それでもこれだけの、スケールの空間を作り出せるのは、自然環境としての雑木の庭ならではのことなのでしょう。



 ここは千葉市内、Tさんの庭は植栽後3年です。コンクリートの駐車スペースを剥がして作ったわずかなスペースに植栽した木々は、こんな環境でも生き生きと、その場所に適応しながら生きようとします。
 住む方の愛情を浴びて木々はますます元気に生き生きと、美しい住環境の風景を作っていきます。



 家と駐車場の間、1mに満たない植栽スペースで、これほどの豊かな潤いが実現できるのです。そして、こんな場所で必死に生きる木々に愛情を注ぎ、いたわりながら、健康を気遣う、それが最も大切な庭環境育成の視点と言えるでしょう。

 メンテナンスの際は地上部だけでなく、木々が呼吸する土中に無数の通気孔をあけていき、細根の発達を促す作業も、こうしたコンクリートに囲まれた今の住宅地では欠かせない作業となります。



 東京都江戸川区Uさんの庭も竣工後5年目となりました。
駅前再開発地の劣悪な土壌環境のもと、ここだけは大地の呼吸を取戻しつつある様子が、風や匂いで感じられます。



 光通しと風通し、そして土壌の通気状態と、都会のコンクリート環境の中でなお、自然環境として健全な状態を保てるような配慮、それがそのまま人の空間としての本当の意味での豊かで温かく、そして心から癒される、自然に対する畏敬の念まで感じさせてくれる、そんな住環境の営みが生まれるのでしょう。



 さて、ここは私の実家の庭、庭の竣工は僕が24歳くらいのことですので、すでに20年以上の歳月が経過しています。
 隣地境界まで2mに満たないわずかなスペースに、ミズナラやモクレン、コウヤマキなど、40種類ほどの木々が共存しつつ、20年を超えました。



 見た目だけでない手入れ、木々と対話し、生き物として労わり気遣いながら、そっと手を差し伸べるような、そんな管理をし続けることで、それこそ人の一生涯、庭の木々は人の住環境を侵すことなく、快適で心地よく共存してくれるものです。
 
 とある造園家が以前にこう言っていたことを思い返します。

「庭の寿命は25年くらいだと、いつもクライアントに説明している。25年経ったら庭もリフォームしましょうと。」

 生き物のいのちの環境として見向きもしないような、庭に対するこうした考え方を聞くたび、「いまだ庭は命を育む環境としてではなく、建築の付属物のように捉えられることが多いのだな」と、少しさびしく感じます。

 庭はいのちの営みの場であり、その地に適応しながら年月をかければかけるほど、多様な生き物環境としても育まれてゆくもの、それをあたかもまるで人が作るモノや作品であるかのような捉え方は、今後は改めていかねばならないことでしょう。
 建築もそうですが、自然環境も生き物もすべて、人がコントロールできるという傲慢な考え方の先には、人の未来も地球の未来もありません。

 自然環境あっての人間社会であり、その縮図が人と庭であるように思えてなりません。

 庭の自然環境と共に生きようと、人の心が歩み寄る、そんな心構えで庭と向き合えば、幾世代にもわたって庭は良くなり続けるもの、命ある環境、生き物の命を人の都合で無造作にはぎ取って顧みない時代から、私たちは進歩しなければなりません。



 22年間、実家の父母と共にあったこの木々たち、この庭の手入れはおそらく、今回が私にとっての最後の手入れになるかもしれません。
 それというのも、母親がひと月後にはこの地を離れて、引っ越すことになるからです。
 22年間の感謝の想いを込めて、手入れしながら、色々な思い出が胸をよぎります。

 家と庭は僕がこの家を離れてからリフォームしていますが、僕が幼稚園の頃から大学入学まで暮らした懐かしの土地であることに何ら変わりはないのです。

 この家の新たな住み人がそのご家族の暮らしと共に、この木々を愛し、木々のいのちと共に生きてくださることを祈るばかりです。







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
一年の終わりに     平成26年12月26日


 師走に入り、今年最後の庭づくり一期工事が終了しました。つくば市Mさんの庭です。小学校の通学路となる角地の広い敷地、通る子供達にも楽しんでもらえるよう、木塀をセットバックして塀の前面にもゆとりのある植栽を歩道に張り出します。
 春になれば新緑の淡い緑が家を包み込むことでしょう。



 南側主庭。春を待ってから、芝や地被を植栽し、そして完成となります。

 Mさんも問い合わせいただいてから2年以上もお待たせしての造園工事となりました。いつからか、1年以上お待ちいただける方の依頼しか、承ることができないようになりました。
 お待ちくださるお客様には、実際に作らせていただく頃にはもう、感謝の念しかありません。
 同時に、こうして作らせていただくことは本当に縁なんだなと、思います。
 何かの縁があって、そこに庭が生まれます。そして、その後5年10年と、庭の管理を通してご縁は続き、庭やお施主家族との時の流れの中に発見があり、思い出があり、喜びもあります。
 ふと、これまでいくつ庭を作ってきたことか、そしてこれからまた、どれだけ新たな庭を作ることだろうか、そんな想いがよぎります。出会いと縁は自分の糧となります。これからもずっと、与えられたご縁を大切に、来年も歩んでいきたいと思います。



 造園工事の際の視点で今年、新たに増えたことがあります。それは、土地の改変等によって壊された土中の気脈水脈を再生するという視点です。
 それは植栽した木々の健康のためだけでなく、その土地が自律的に大地の健全性を取り戻し、豊かな土中生態系を再生してゆくという視点で、造園工事の際に水脈改善のための作業を必ず行うようになりました。
 大地の健全性は、その土地の空気の流れをも変え、人にとっても快適で健康な本来の生活環境をおのずと作ってくれるのです。

 写真の竹筒の頭が土中から飛び出している光景、高田造園の完成直後の庭ではこの光景が標準となることでしょう。
 竹筒は数年で腐り、なくなりますが、その頃には木々の根がその縦穴にびっしりと張りめぐらされ、滞ることのない大地の呼吸孔としていつまでも機能し続けるのです。



 ここは工場跡地の臨海埋立地、ジェフ市原のホームグランド、フクダ電子アリーナ正面広場です。埋立地の劣悪な土壌環境と海から常に吹き付ける潮風にさらされ、植栽された木々が健全に育たない中、写真奥の密集した木立はこんな環境でもひときわ健全に生育しています。

 この木立は一昨年の秋、、コナラやシイノキ、カシノキなど、千葉のふるさとの木々を組み合わせて植栽し、そして2年が経過しました。



 潮風にさらされる、植栽樹木がなかなか健康に育っていかない土地条件のもと、、この木立だけは健全に力強く、競争しながら伸びていました。
 2年前、固く締め固まった土地を人の背丈ほども掘り下げて、そして下地の硬板層に穴をあけて水脈を取り、水と空気が円滑に流れる土壌環境を作りながら植栽したのです。

 結果は明らかで、この公園のどの木々よりも健康に、元気に生育していました。その間、ほとんどメンテナンスはせずとも、こうして木々自身の力で健全に生育してゆく様子に、感慨無量な想いに包まれます。
 人の暮らしの環境に木々を植えるということは本来、人の幾世代もの先のスパンで考えていかなければなりません。
 人間よりもずっと寿命の長い木々は、健康に大きくなってこそ、そこに豊かな環境を作ってくれるからです。つまり、植栽して、それが健全に育って自分の次世代、その次の代を見据えて植栽してゆくこと、つまりは、自然環境再生につながる形でしかあり得ないということに、はっきりと気づきます。

 再開発などと言う名の、壊しては作る、その繰り返しの果てにどんな未来があるというのでしょう。人は健全な自然環境あってこそ、継続的に生きていけるという本質も、今のマネーの論理の中で見失なわれつつある中、造園という仕事から、今の時代に発信していかねばならないことがたくさんあるのです。




 庭を作れば作るほど、毎年うかがわねばならない手入れの件数は増え続けます。ここは2年前に施工した、埼玉県草加市のKさんの庭です。2匹の大型犬と家族がともに自由に過ごせる場所がこの庭です。



 2年を経て、庭はどこから見ても落ち着いた表情を見せてくれます。



 密集した住宅地の真ん中に、この庭があります。それ故に、この庭は家族だけでなく、周辺の家の方にとっても癒される貴重な緑の環境となり、さらには様々な小鳥たちもここを訪れます。
「小鳥がたくさん来るので毛虫もほとんどいないです。」とKさんは言います。
 もちろん、農薬散布などは決して行わず、自然の循環の中で自律的にコントロールされて快適な環境を作ってくれる、それがこれからの庭の理想なのかもしれません。



 庭の中の落ち葉ストック。スペースがあればなるべくこの落葉ヤードを庭に取り込んできました。これ一つで、落ち葉とサンドイッチしながら1年分の台所の野菜くずが土に還るのです。しかも、水と風をコントロールすれば嫌な臭いもまったく湧きません。
 落ち葉や野菜くずをゴミに出さずに大地に還元してゆく、それを知ることは大きな喜びをもたらし、そして、未来につながる地球の環境を育てることなく食いつぶしながら生きる社会の罪深さに気づくのです。
 今再び、実感を持って自然と向き合い、感じ取ること、それが人や社会の健康、存続のために不可欠なものであることを、この仕事を通していつも感じるのです。



 今年から始めた高田造園の自然農園、霜に耐えながら五月菜が青々と寄り添い、、春の訪れをひっそりと待っているようです。
 この菜園も、もともとは締め固められて硬くなった土地を水脈改善し、そして剪定枝葉をリサイクルしてできた腐葉土を漉き込んで畑にしました。
 肥料も特に与えず、また、一度作った畝を耕すこともありません。この畝の土の中には、様々な土中生物が生態系を作り上げていきますから、それを再び壊すような耕起はせず、自然と寄り添いながら野菜を収穫してゆくのです。
 これまで、収穫の度に耕していたときに比べてはるかに作業は楽しく、感動や発見も多く、そして収穫も多く、大地の動植物との共存が実感されます。

 造園も農も、対話するように自然と向き合うことで、行きつくところは豊かな自然環境の中で共存してゆくあり方なのだと気づきます。



 そして、社有林に小さな小屋が建ちました。構造材や建具はすべて、古民家を解体した廃材を用いています。



 小屋の中には広い土間に薪ストーブ、そして6畳一間の小さな部屋。懐かしい空間と温かな木の香り、来年にはこの森の中にもう一棟山小屋を建て、そこがこれからの私たちの活動の拠点となります。
 
 今の都会の人たち、現代の子供たちに自然と共にあったかつての農山村の楽しみを体感してもらう、そんな場所にしていけたらと考えております。
 そしてここは、来年立ち上がるNPOダーチャサポートの一つの活動拠点になるのです。
 今の時代、豊かな未来は失われた過去の中にある、そんな言葉が脳裏によぎります。私たちは今、失ったものを取り戻さねばならない時期に来ているようです。

 日本社会に暗雲が色濃く立ち込めるここ数年、私たちはあきらめるのではなく自律し、そして本当の豊かで美しい日本を取り戻していくべく、確かに歩んでいきたいと思います。
 こんな時代だからこそ、エネルギーが高まり、そして人も集まります。



 そして、小屋の脇にはハンドメイドな茅葺きトイレが完成です。素掘りの穴に用を足したら落ち葉と木炭をぱらっとかぶせる。水分の調整を炭と落ち葉と素掘りの穴がその役目を果たすのです。素掘りの穴に空気を通せば臭いも湧きません。
 そしてそれをまた、大地の循環の中に還してゆくのです。

 今年は様々な新たな気付きがありました。それも、様々な人との出会いのおかげです。
 また、本年中に手入れに廻れなかったお客様、工事をお待たせしているお客様に、この場でお詫び申し上げます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 







 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
雑木の庭1年目の手入れ講座 記録    平成26年10月6日

 10月4日に開催しました、雑木の庭1年目の手入れ実地講座の実況ユーチューブを昨日ブログで紹介いたしましたが、その続きがユーチューブ公開されました。
 
 自然環境を育成するということは、技術よりも、木々に対する姿勢、考え方、木々との対話の経験の積み重ねが不可欠です。
 単に剪定技術ばかりでなく、木々や庭と向き合う上で本当に大切なことを知っていただきたい、そんな想いでレクチャーさせていただきました。
 
 雑木の庭の手入れや育成に関心のある方は是非ご覧くださいませ。

再生は下記をクリックください。

雑木の庭 1年目の手入れ講座 その3 
  3分50秒

雑木の庭 1年目の手入れ講座 その4
    7分7秒

雑木の庭 1年目の手入れ講座 その5
    

雑木の庭 1年目の手入れ講座 その6   5分17秒

雑木の庭 1年目の手入れ講座 その7
   土壌改良編 4分44秒


 今回の動画を作成くださった藤井京子さんに感謝申し上げます。

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
自然環境としての庭の育成      平成26年10月5日

 昨日(10月4日)、地元の市民団体(NPOちば山)主催、「雑木の庭手入れ講習会」を開催しました。
 庭環境を、土、植物、空気、空間を含めて自然環境としてよい状態へと育ててゆくためには、正しいコンセプトに基づく適切な管理が必要です。
 そして、そのノウハウについて、これまで様々、書籍等のメディアを通して解説してまいりましたが、実際に字数制限のある書籍等で伝えきれる部分はほんのわずかです。

 今回、講座の様子を、聴講くださった方(藤井京子さん 千葉県いすみ市在住)が、その一部をユーチューブに投稿してくださいましたので、雑木の庭の手入れについて、興味のある方は下記よりご覧くださいませ。

雑木の庭の手入れ講座(その1)  平成26年10月4日 房総ドミノ千葉ハウス

http://www.youtube.com/watch?v=AD46jGBHsyk&feature=youtu.be


 なお、すでに続きもアップされております。私の解説が早口で分かりにくいかと思いますが、ご了承くださいませ。

 手入れにおいて大切なことは、それぞれの樹木をどう剪定するかという剪定技術ではなく、その庭が健康に生育し、自然環境として良好な状態へと再生されてゆくにはどうしたらよいか、そんな視点こそが必要です。
 
 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
 
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