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雑木の庭つくり日記

今年もお世話になりました。  平成29年12月23日
 

 先月末、埼玉県飯能市での打ち合わせついでに足を延ばした天覧山。登り口である能仁寺から徒歩30分足らずの低山でありながら、秩父武蔵野を一望する名山で、今もなお、力強い気を放ってこの地域を守っているようです。

 公私とも、心身ともに忙しなさを極め、ブログの間隔が大変空いてしまい、気が付いたらすでに今年もあと数日となりました。

 振り返ると、今年も激動の一年となりました。
 年の末まで、まだあと一週間ほどございますが、いろいろな出来事が起こりながらも、今年も多くの人に支えられ助けられながら、無事にまた一年を終えることができることに、心の底から喜びと感謝の想いが溢れます。
 
 おそらくこれが、今年最後のブログ記事となると思います。
 師走の静かな日曜日、心静かに今年を振り返りつつ、秋の庭や今後の私たちの活動について、少し、抱負をまとめてみたいなと思います。


 
天覧山山頂への道すがら、紅葉真っ盛りの枝葉が日差しを浴びて、駆け抜けた一年を謳歌するように輝きます。
そして抜けて差し込む日差しは優しく、どこまでも愛に満ちて包まれるようです。



 清らかな空気と息づく木々。山体となる岩盤が、この豊かな自然環境を生み出す源にあるのでしょう。
 ここ数年、加速度を増すかのように自然環境の劣化は甚だしく、乾いた森、乾いた大地ばかりが広がる中、今もなお大地のエネルギーを集めて放つような土地の精気を感じる場所に巡り合うと、何か懐かしく、いのちの源に包まれるような、そんな喜びを感じます。



 さて、師走もあと残り僅か、恒例の年末手入れ行脚に休みなく駆け回ります。
ここは世田谷区、三年ほど前に竣工した庭です。紅葉真っ盛りで、手入れをせずとも光が差し込み、そして木々が喧嘩せずに枝葉をすみ分け空間を分け合う姿を見せるのは、土地の健康の証と言えるでしょう。

 
 手入れ後の庭。
 わずかな空間ですが、息づく木々は通る人の心も喜ばせてくれるようです。
 私たちはこうして、以前に作った庭の手入れに回りながら、いつも美しい木々に力をもらい、そしてその幸せをお施主さんとともに分かち合うのです。
 幸せな仕事だなと、いつも思うのですが、こうした時間はまた格別です。



 千葉県市川市のTさんの庭も、竣工して早くも4年となります。あっという間の月日ですが、庭の木々の成長がまた、年月を感じさせてくれます。



 一年ぶりの手入れですが、落ち着いた木々の成長は穏やかで、人の生活空間をあまり圧迫することはありません。手入れもそれほど手間がかかることはありません。
 
 奥行5mに満たないスペースながら、表情豊かな木々のたたずまいは、ここが駅近の住宅地であることを忘れさせてしまうようです。



 東庭テラスの佇まい。それにしても、庭は年月を経て、こうしてますます心地よく育っていきます。

 よく思うのですが、庭の雰囲気が増すのは、決してその庭の環境ポテンシャルのおかげばかりでなく、そこに住む人の想いと愛情に、庭のいのちが応えてくれて、そして庭がより豊かに美しく優しく育ってゆく、そういうものなのだと感じます。
 そんなことをいつから感じ始めたのか、覚えていないけど、そして、僕らがまた、毎年の手入れで庭のいのちと再会するとき、庭の木々は、待ってたとばかりにたくさんの想いを私たちに伝えようとします。
 そして私たちは、人の空間と木々の健康、双方を考えて、調和へと導く自然の働きを邪魔しないように手を施す、それが庭の手入れなのだと思います。

 師走の手入れ行脚、もう25年もそんな年末を繰り返してきましたが、私自身、年を重ねるにつれてますます、庭に施す自分の手入れが、おおらかというか、おおざっぱになったというべきか、、とにかく、なるべく手を加え過ぎずに自然の働きに委ねる割合を増しているように思います。
 
 木々との向かい合い、そして、共に年を重ねるお施主さん家族との向かい合いの中で、たくさんのことを学びながら生きてゆく幸せ、師走は特に感謝と共にそんなことを感じるのです。



 我が家の庭も、この時期は落ち葉の恵み降り注ぎます。落ち葉は大切な大地の恵みです。
 子供たちが落ち葉を集めます。取り過ぎると土がむき出しになって寒々としてしまうので、表土の毛布として落ち葉を適度に残しながら集めるのです。
 その辺のさじ加減は、わが子たちはすでに自然と体得しているようです。



 集めた落ち葉をくべて芋を焼いたり玉ねぎを焼いたり。
 寒空の下、かさこそと落ち葉の音に心と頭を研ぎ澄ませつつ、煙の香りと火花はじける音とを、記憶の奥に刻んでいきます。
 子供と一緒にこうした時間を重ねること、そんな時間は何よりの宝なのでしょう。
そこに住む家族の心の原風景を刻む住まいの環境、そんなものをいつまでも提供し続けていきたいものです。



 晩秋の我が家。木々の枝幹の影が一年で最も長く、風に揺れて様々な表情を見せてくれます。人工物では決して味わえない、自然が織り成す無限の表情、人が人として、いのちとのつながりを保って生きてゆくために、最も大切なことがそこにあるように思うのです。

 木々があっての暮らしの潤いです。しかも、木々は自然で、健康で生き生きと息づいていなければなりません。
 いのちのつながりは目に見えませんが、感じることはできます。見えない声や音を聞くこともできます。そして自然は常にサインを送って、私たちに語りかけようと、手を伸ばしています。
 そんな自然に向き合うとき、どんな場合でも優しい心持でありたいものです。



 さて、ここは千葉県佐倉市、岩富城というかつての古城のお堀跡沿いに佇む豊かな環境、ここで新たに体験ダーチャ&ゲストハウス開設の準備を始めたところです。
 建物だけにとどまる古民家再生ではなく、ここでいのちのつながりを実感し、そして周辺環境を育てながら安全で豊かな環境を代々繋いできたかつての美しい暮らし方を体感していただける、そんな場所にしたいと願い、「古民家ダーチャ いのちの杜」と命名しました。
 来年度のオープンを目標に、2棟の家屋改修や庭の整備を、合間を縫って進めています。



 この日はいただいた大量の伐採木を薪にしていきます。

 ダーチャフィールドに高田造園の事務所、それに新たな古民家ダーチャも、寒い冬を快適に過ごすのに大量の薪が必要になります。

 薪は本来、自給が基本で、それもわざわざ薪の確保のために伐採するのではなく、裏山の枯れ木、落ち枝を集め、そして私たちの場合はゴミとして持て余される伐採樹木や解体材をもらってきて、それを用います。
 有機物は循環させれば環境は息づき、当然ながらごみ処理という、不自然な過程が不要になるものです。




 端材を燃やして、環境の再生作業に用いる丸太や杭の表面を炭化させていきます。
 事務所の倉庫や置き場を片付けながらの作業です。

 柔らかな日差しの中で炎や炭火を見ていると、年の瀬を感じます。

 高田造園設計事務所のスタッフも、今年は大きく入れ替わりがありました。
 ありがたいことに、いい若者ばかりが高田造園に定着してくれます。

 すべてが移ろいながら、人と人との縁が発酵し、醸成されてゆく、そこで人はまた、温かさと厳しさの中で心の中に愛を育み、成長してゆくのでしょう。

 出会うすべての方々に感謝です。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
施工庭、春の手入れ巡り 2件紹介   平成29年5月15日
 
 今年もまた、春の手入れの季節となりました。
 この時期はまた、庭を造らせていただいたお客さんとのうれしい再会の時でもあります。
 庭を介して、お客さんとこうして一緒に年を重ねていき、そして再会を喜びあう、本当に私たちの仕事はうれしく、ありがたいものとしみじみ思います。

 この時期の庭は一年で一番生き生きと清らかな生気がみなぎり、力をもらいます。昨日今日と、訪ねた庭を足早にご紹介させていただきます。



 ここは世田谷区、等々力渓谷にほど近い閑静な住宅街の一角、Mさんの造園外構工事の竣工は3年前になります。

 とても狭い敷地の中、駐車スペース、門を斜めに配し、版築の土留めと剪定枝柵、手製の木製門扉で結界をまとめてます。



 門越しの景。外から見るとうっそうとした森の様相ですが、中に入ると木々は互いに共存し、風の抜ける心地よい空間が続きます。



門から玄関に続く樹幹のアプローチ。



 玄関アプローチを数mも進むともうそこは別世界、門を振り返るっても道路の雰囲気がはるか遠くに感じられます。



 玄関前室となる風防室は、古材をふんだんに用いて昭和初期のモダンな雰囲気の家屋に合わせて構成しています。ガラス格子扉の向こうにまた、狭いながらも奥庭へのアプローチに続きます。



奥庭となる北側は、Mさんご夫妻の落ち着ける屋外のリビングスペースとなります。



 年数を経て庭は、住む人の心の清らかさをいっぱいに吸い込んで、ますます美しく、清らかに街の景色を潤していきます。庭の表情がより豊かに調和に向かって育ってゆくということ、庭は住む人の心の反映、そんな面が必ずあるように感じる瞬間です。



 そしてここは、千葉市中央区、竣工後一年余りの庭、主庭から裏門へと続くアプローチの景です。
 わずか1年半前までは空き地の草むらだった古都が想像できないほどに、心地よい樹幹のアプローチとして育ってきました。



 裏門の外は縦列駐車スペースです。駐車スペースと言えども、車の重量によって圧密されない土中環境を整えることで、緑の駐車場は可能となります。
 日常の駐車ではなく、来客用の駐車スペースですので、あまり頻繁な利用でないということもありますが、タイヤの跡も轍となることなく、芝生は良好に保たれています。



 メイン広場となる主庭は一年を経て、周辺家屋の気配が全く気にならないほどに、木々が息づき落ち着きを増してきました。






 家際の木立は、四季を通じて心地よい家屋の環境を作ります。
 木々を生かして住まいの環境を心地よく改善しようと思えばまず、この家際の木々の配置が最も大切なポイントとなります。



 主庭脇の園路から中央デッキを望みます。



 駐車場から主庭へ続く園路。

 こうして、庭が育ってゆくことを、懐かしいお客さんとともに楽しむ豊かさは、、何物にも代えがたい宝となります。
 毎年、こうして訪ねるたび、共に年を重ねるお客さんとの絆は深まり、庭を通して生きている実感を共有する幸せ、本当に、自分は今生、一庭師というスタンスを保ちたいと思うのです。こんな時代、不安なこの国、子供たちや生き物たちのよい未来のために、しなければならないことがたくさんありますが、それでも自分の心の原点は庭つくりにあると、そう思います。

 作らせていただいた庭、いつもその時の自分の精いっぱいの想いを投入します。何年経とうが、こうしてその庭に赴くと、作った当時の心境や、メンバーの思い出、出来事、当時の自分、、様々なことが昨日のことのように思い出され、そしてまた、年月の経過を想います。
 
 そして、その場の庭の木々は、黙ってそれを共に感じてくれて、常に心はともにある、そんな温かさに包まれるのも、庭のおかげです。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
千葉県旭市 九十九里平野の庭空間完成  平成29年4月24日
 


年始から断続的に進めてきました、千葉県旭市、九十九里平野の450坪の庭環境つくり、本日でようやく終了となりました。

 砂地なのに水がはけず、砂ぼこりの舞う砂漠のような海岸平野の庭が、施工後は水たまりもできず、なおかつ敷地外への水の流出もなく、すべてが大地にしみこんで潤す、呼吸する空間へと生まれ変わりました。

 敷地内には車が往来できる車道を配していますが、それも大地の通気環境を保ち、呼吸する道路として、庭の中に違和感なく溶け込ませています。



 
 庭の要所には、木々の根元にデッキ上の木蓋を何か所も配してますが、この下には1m以上の大穴を掘って、そこに大量の竹炭を漉き込んでいます。
 これが地形落差を生んで土中の水と空気を動かし、草木微生物等、様々な命が共存しやすい磁場を作り出す要として機能していくのです。

 砂塵吹き荒れる乾いた土地でも、命の調和を生み出す健康な環境へと誘導してゆくことは実はそれほど難しいことではないのです。



 敷地内車道造作の様子を少しご紹介いたします。
 常に車圧のかかる車道において、心地よさと潤いを保つためには、地盤の通気浸透性が永続的に保たれるための造作が不可欠になります。
 要所に車道を横断する横溝を掘り、溝の底には竹炭を敷き詰めます。



そこに透水コルゲート管を埋設し、その周辺を廃瓦片やコンクリートガラ、そしてその隙間にウッドチップ落ち葉などの有機物を漉き込みます。
 車圧を支えるのはコンクリートガラ等の無機物ですが、この透水機能を永続させるためには必ず、その隙間に落ち葉等の有機物を詰め込んで、土壌菌糸を誘導してゆく必要があります。
 


そして無機物有機物によって埋め戻した横断暗渠に、自家製の土壌複合発酵液を染み込ませていきます。これによって、眠ってしまった土中菌類を目覚めさせ、凝縮した菌類微生物が増殖し、土壌の隙間を適度に広げて保つのです。



 路面の下地に敷き詰めているのは、解体工事によって発生するコンクリート片です。このコンクリート片が地盤に刺さってクッションのように車圧を支えます。
 庭の造作に本来捨てるものなど何もなく、使い方次第ですべては環境資材として有用に利用できるのです。



 そして、その上に、竹炭、砕石、廃瓦片、廃瓦粉砕チップ、ウッドチップをサンドイッチしていくことで、車圧に対して圧密のおこらないクッション状の路盤を作ります。
 土の中の世界、見えない部分できちんと、車道の通気浸透性を保つために不可欠な造作を施すことによって、年月とともに健全に育ってゆく住まいの環境が生まれます。




 
広いので、まるで公園のような庭空間になりました。


 
 工事にかかり始めたときは生後2か月だったマメシバの子も、今ではかわいく元気な子供犬。
 工事のトラックが到着する音が聞こえると、今ではうれしくて大騒ぎします。この子の幼少の記憶はきっと生涯の記憶として、私たちのことを忘れないでいてくれるはずです。




 この子たちが優しい自然の調和を感じられる心地よい環境で暮らしてほしい、温かな思い出の風景を心に刻んで大人になってほしい、僕らの庭への思いはごく単純なものです。

 

 
 今後の年月の中で、木々が思い思いに枝葉を広げて空間を分かち合い、家族とともに互いに育ちあう、生まれたばかりのこの庭も、住まいの環境、家族とともに時を刻みつつ変化してゆくことでしょう。


 
 そして昨日手入れにうかっがったのは、地元千葉市緑区の庭、施工5年目です。
匝瑳市の広大な庭とは打って変わって駐車場際のわずかな幅の植栽スペースを活かして木漏れ日の住環境に仕上げたのですが、住まう家族の愛情は年月をかけて住まいの森へと環境を育ててくれるのです。



そして、植栽後10年余りが経過した我が家の木々も、これまで一度たりとも剪定も枝おろしもしていないにもかかわらず、木々同士がスペースを分け合い、人のスペースを侵さずに共存する、心地よい環境を黙って恵んでくれるのです。
 本当にいとおしいのが、命の営みというもの。人の営みも然りです。
木々に学び、その奥にある無限の愛を感じながら、豊かに時を刻んでいければ、そしてその喜びや幸せを人に届けたい、そんな思いでこれからも生きていきたいと思います。
 























投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
本年の終わりに  これからの活動に向けて  平成28年12月27日


 例年のとおり、年末は来る日も来る日もこれまで作らせていただいた庭の手入れに追われます。
 造園の仕事を始めてまもなく四半世紀になりますが、師走はいつも、休みのない手入れ行脚を乗り越えて、新たな年を迎える、そんな生活をずっと繰り返してきたことになります。

 今年も残すところあと数日、今年の仕事もいよいよ終わりが見えてきました。

 写真は2年前に作った葉山Sさんの外空間、エントランスです。手入れと同時に、継続的な環境改善作業を施し、そして一日の作業を終えると、日は落ちて、夜景の中に浮かび上がります。



 今秋はどこも、見事な紅葉を見せてくれました。ここは4年前に作らせていただいた、千葉市内Sさんの外空間。
 お施主さんの愛情は確実に木々や庭の生き物たちに反映されます。
 私たちが手入れにうかがい、毎年手を触れて木々に語らうだけでも木々は喜び、元気に反応してくれるもので、ましてそこに住む人の木々やいのちに対する愛情と想いが環境を豊かに育てていき、そしてにぎやかないのちの輪の中に調和させてゆくことをいつも実感させられます。

 木々をいたわり、落ち葉にさえも感謝し、落ち葉掃除を心の掃除と考えて、優しい心持で住まいの環境と向かい合う、そんな方々は木々からも小鳥や様々な生き物たちからも歓迎されるのです。



 今年の春、埼玉県草加市のお施主さんから、シジュウカラのひなが庭でかえったという喜びのメールとともに、かわいいひなの写真が送られてきました。



 この写真は今年初めてウグイスが来てくれたという、歓喜のメッセージとともに送られてきた写真です。
 街中のわずかな一点、オアシスのような小さな雑木林の庭空間に、今はたくさんの小鳥たちが訪れて、そしてそこでまた巣を作り、巣立っては帰ってくる、そんな営みがにぎやかに繰り返される場所が、街中の点の空間に誕生するのです。

「小鳥たちにとって気持ちが良いように手入れしてくれればいいですから。」

 お施主のKさんはそう言います。そんな素晴らしいなお施主さん方々に私たちは育てられ、支えられているからこそ、、信念を曲げずに生きていけるのだなと、こうして手入れに回るたびに改めて感じさせられます。 そんなお客さんは何よりの心の宝です。

 手入れに回る中、かつて自分が作った庭の成長を感じるとともに、実はそれは過去の自分が作った庭であるということも、はっきりと感じさせられます。
 10年前の庭、5年前の庭、2年前の庭、、、どれも今の自分の作り方とはずいぶん違いますし、来年はさらに変わってゆくことでしょう。

 もちろん、だれがどんな作り方をしたかなどは些細なことで、植えられた後、木々や庭環境、生き物環境に対する人の愛情の注ぎ方、環境との対話と対処の仕方こそが、その環境を人にとっても他の生き物たちにとっても心地よい、穏やかになって自然の呼び声を感じさせてくれる空間へと育てていきます。
 大切なことは作庭後の環境との付き合い方なのでしょう。人が変わってゆくように、庭も変わっていきます。良い方向へと心地よく育ってゆくように庭を導くのは、お施主の愛情、そして同時に、人と木々の声とを繋いでゆく我々庭師の役目かもしれません。

 師走と言えども手入ればかりでは済まされません・・。今月、手入れの合間にかかり始めた海辺の庭・環境再生工事の様子を少しご紹介します。



 千葉県旭市、海岸平野の砂地の庭の改善工事に着手しました。
 カチコチに締め固められて呼吸しない大地。ここをいのちの息づく豊かな自然環境へと再生してゆくのです。
 海にほど近い砂地で、しかも土壌微生物環境も崩壊した土地に木を植えて、健康で息づく土地へと改善してゆく、その環境改善・植樹の模様をご紹介します。



ここで植樹の際の土壌環境改善資材として用いたのが、大量の廃瓦と、



剪定枝を山中に放置して菌糸の張り巡らされた腐植枝です。



 樹木を植えるために掘った植穴の底に数か所ほど縦穴を開けて、そこに廃瓦と有機物、炭を挟み込みながら、縦方向の通気浸透ラインを作ります。




その上に、植穴底に竹炭、燻炭をまぶして攪拌し、



その上に腐植枝と廃瓦をまぶし、



 さらに腐植枝葉をサンドイッチしながら炭をまぶし、また廃瓦を重ねていきます。



 それに、掘り起こした現地の砂に腐葉土、炭燻炭を攪拌してふんわりとまぶしていきます。
腐植枝、廃瓦、改良砂、炭、これらをサンドイッチするように繰り返しながら、植穴を埋め戻していきます。


 これで、砂地においてもしっかりと土壌環境が育ってゆく、そんな下地環境造作がひとまず完了です。



 植樹の前にさらに、再び腐植枝を井桁状に敷き詰めていき、



そしてその井桁の上に、掘り取った大木を載せていきます。
 見た通り、土に埋めるのではなく、砂の重さや根鉢の重さにも圧密されない空間豊富な下地の上に根鉢を載せるのです。



枝葉の井桁に乗っかることで下地土中の通気環境、隙間の空間を保つのです。
 腐植枝葉からすぐに様々な菌糸が伸びてきてその粘性によって砂を捕捉し、生き物の活動によって豊かな土壌へと変えてゆくのです。



 そして、埋め戻しの際にさらに割れた瓦片を根鉢の周りにすき込みます。
多孔質で保水性に富む瓦片に樹木根はすぐにびっしりと張り付いていき、そこで呼吸し、多様な菌類微生物の働きと相まって、この無機的な砂地の環境をいのちの源となる土壌環境へと短期間で変えてゆくのです。

 砂地は粒度一定であることが、多彩で豊かな植物環境が育ってゆくうえでのネックとなりますが、それを踏まえた改良のコツがあります。
 それは、例えば海岸砂丘に草木が生えて安定してゆく過程を見れば容易に掴めることなのです。
 何も特殊な資材や、土の専門家がすぐに勧めたがる培養土や改良材など全く必要なく、その辺の廃材を用いてこそ、恒久的な命の息づく土壌環境へと変貌させることができるのです。

 自然界の働きに沿ったこうした方法は間違いなく、環境を浄化していき、そして眠っていた命が再び目を覚まして、心地よい空気感へと変えていくのですが、人はどうして自然本来の働きの力を借りないのか、菌類微生物、そして植物の力を借りてこそ、我々は安全に快適に暮らせる環境が作れるというのに、それを、「有用微生物」と「有害菌」などと、自然界の命を人間都合で切り離して、都合のよいものばかりを集めようとし、そして都合の悪いものを排除しようとしてきた結果、今の取り返しのつかないバランスの崩壊、環境劣化、環境破壊を招いてきたと言えるでしょう。命はすべてつながっているのですから。
 誰のせいでもなく、我々一人一人の、大地における向き合い方を改めて問い直すときにいる、日々の仕事の中で今年ほどそれを強く感じた年はありません。



 根鉢の周囲を、改良した砂と廃瓦などで埋め戻せば、大木移植の完了です。
この方法で植えれば、支柱もいらなければ灌水も必要ありません。粘性のある菌糸が保ってくれるしっとりした土壌環境に根が完璧に守られるからです。

 これが真実なのです。自然に逆らうことばかりしていると、移植後も土が乾燥し、土壌生物環境は育たず根は守られず、したがって支柱も必要になり灌水も必要になります。
 これまでの狭い常識にとらわれず自然や目の前の事実から素直に学んで、そろそろ根本的に考え方をあらためるべき、人間は今こそそこまで進化しなければなりません。
 そうでなければ、人の存在すべては自然界のがん細胞として、いずれは自らの生存基盤をも失ってしまうことでしょう。



 自然の一員としての人の在り方、地球に対する責任、周辺環境に対する人の責任、そしてそんな配慮が心を豊かにしてくれる、そんなことを伝えたくて、今年は数えてみると、実に30回近い、環境改善講座やワークショップ、レクチャーをこなしてきましたことになります。
 
 今年の活動をじっくりと総括し、そしてさらに学びながら、来年の取り組みにつなげたいと思います。



 今月、おなじみの土気山ダーチャフィールドに新たに建てた山小屋です。
3坪の板倉小屋に屋根のあるデッキを伸ばして、五右衛門風呂と炊事場を一体化したモデルです。



 カラマツの焼き丸太杭を土台とした掘っ立て構造によって土地を傷めずに森の中にそっと割り込ませてもらいます。
 デッキの下のかまどは、五右衛門風呂の焚口です。



 デッキが炊事洗濯お風呂など、生活の場となります。その排水は土中の菌類微生物によって分解消失されるよう、浸透孔をつくり、この土地の環境中へと還していきます。
 命の循環はそこが実は最も大切なことで、還すところから新たな命が力を得てつながってゆく、その当たり前のことすら、今の文明は排除し続けているのです。
 本当の人の在り方を学び思い出す場所、志を共にする仲間たちとそんな取り組みをすすめてゆくために、今月、NPO法人地球守を設立いたしました。
 今年、私たちがやってきたことを継続し、さらに活動の幅を広げ、来年につないでいこうと思います。

 共感してくださる方、ともに楽しく関わってくださる方、どうぞご参加をお待ちしております。

 今年もたくさんの人にお世話になり、感謝の想いに満たされます。来年も力いっぱい生きていこうと思いますので、どうか今後ともよろしくお願い申し上げます。

 皆様、良いお年をお迎えください。地球のすべての平和と安心と温かさをお祈りし、そして皆様のご健康、ご多幸をお祈り申し上げます。

 どうもありがとうございました。






投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
海岸松林の再生と、庭の環境改善    平成28年9月29日


 昨年11月より森林再生実証作業にかかり始めた新潟市北区の海岸松林保安林、今年春の様子です。

 昨年の改善実証作業の前は、松も次々に枯死し、手の施しようのなかった海岸松林、そこでの森林環境改善作業を実施して10か月が経過しました。当初の予想以上に早く、改善の効果が見えてきましたので、少々ご報告いたしたいと思います。



 これは今年5月(改善開始後6か月)の実証実験区の様子です。



 これは今年9月(改善開始後10か月)の実証実験区。
葉色、葉量、枝葉のバランス、しなやかな枝先の様子や枝の分岐具合などから、不健康だった森がすっかりと健全な状態へと変化してきたことが明らかに見受けられます。



 (改善作業前の松林)
 次々と枯死し、残っている松も多くは葉色が悪く枝先に張りもなく、精気なく痛々しく乾いた、病気の林だったのです。

 これまで、国策で進められてきた農薬散布の果てに、海岸林の生命環境は壊滅的に劣化し、なおかつ松枯れは一向に収まることはありませんでした。
 当然です。傷んだ環境に対して、さらに農薬散布などによってバランスの回復を妨げるようなことを繰り返せば、ますます木々が健康に育つことができない、健康で劣悪な環境へとますます変貌してしまいます。
 
 一方で、木々が健康に生育できるための、その源たる環境に目を向けて、人間の手によって少しばかり適切な対処を施すことで、すぐに木々も森も健康を回復してくるものなのです。
 



 先ほどの写真と同じ松林の一角ですが、改善開始後わずか10か月ほどで、松林はみずみずしい健康を取り戻してきた様子が明らかに感じられるようになりました。
 
 定説にとらわれず、健康な心と頭でバランスよく観察し、そして森の本質、自然の本質としっかりと向き合うこと、それさえできれば驚くほど短期間に環境は再生されてくるという事実、それを多くの人に知っていただき、本当の自然を見通す感覚を育てていっていただきたいと思うのです。

 こうした環境再生のための視点について、ここで少しばかりご紹介したいと思います。



これは改善作業前の土の様子です。植物の根は表層にしかなく、土中にはほとんど根はありません。



(改善作業前) 
土は完全な砂のままで、有機物はほとんど土中に存在していません。
当然、植物の生育に必要な土中微生物環境も全く育っていないことが分かります。



(改善開始後、半年経過)
 今年5月、試験区内を試掘すると、表層の細根は飛躍的に増え、そして深い位置にまで植物根が進入、そして細根分岐している様子がうかがえます。



(改善開始後、半年経過)
そして、砂の色も匂いも変わり、有機物の分解によって砂が黒く色が変わり、そこにたくさんの菌糸や細かな根が絡みついて土壌中に空隙を作り始めていることがうかがえます。微生物、土中生物も深い位置にまで生息できる環境へと変貌してきました。



(改善作業前)
松林の林床は、イバラやつる、そしてイネ科、キク科等の荒れ地の草がうっそうを繁茂し、空気は滞る不快で不健全な藪でしたが、



(改善開始後8か月)
今や、あの不快なとげのある植物や荒れ地の背の高い雑草はほとんど消えていき、今はヨモギやツユクサはじめ、柔らかな下草が多種共存できる心地よい林床環境が育ってきております。



 
 今年5月、実証実験区域に隣接する松林は変わることなく不健康な様相で、林床の下草は荒れ地の雑草ばかりがはびこる藪の状態を見せております。



 一方、同じ日の実証実験区内の松林の林床の様子です。
 ここでは打って変わって穏やかでしっとりとした心地よい林床の様相を見せ、そして松の下に自然に進入してきた灌木類はのびのびと多種共存の森環境を作り始めていました。

 とても大切なことなのですが、私たちは松林の再生のために、決して松だけを見ているのではなく、環境全体を見ているのです。
 松が健康であるためには環境が健康でなければなりません。健康な環境とは、あらゆるいのちが多種共存し、喧嘩せずに互いに生かしあう、いのちの環境なのです。
 いのちは、それ一種類で生きているわけでは決してなく、自然界のあらゆるいのちがつながって共生、共存してこそ、健康な命を保つことができるのです。

 健康な松林を再生するために私たちが見ている部分は、土中環境や下草、灌木、空気の流れ方といった、松以外の環境全体の健康の回復のために、これまで手を施してきたのです。
 その結果、主木の松がこうして健康を取り戻してゆくのです。



 改善開始後10か月(今年9月)。
 これが以前は、不快で不健康な病気の林だったとは思えないほど、健康で心地よい海岸林へと変わりつつあります。
 
 人はしばしば、自然という、常に変化し、複雑で複合的なたくさんの要因でファジーに移り変わる世界を、単純化して考え、強引に枠にはめて従わせようとするようです。

 「松枯れの原因はマツノザイセンチュウ。これを退治すれば問題は解決する。」などと、原因と結果を取り違え間違った学説に基づいて、国策をもって今も農薬散布が強力にくりかえされています。その果てに環境はますます健康を失い、木々は枯れてゆき、私たちの生存基盤を失っているのです。

 我々は早く、その悪循環を断ち切り、ふたたび自然と手を繋いで歩んでゆくことを思い出さねばなりません。
 新潟市長の英断で始まったこの松林環境再生の効果を世に示すことで、その第一歩となるよう、力を尽くしていきたいと思います。

 

 さて、次にご紹介しますのは、間もなく竣工する、東京都武蔵野市Iさんの庭、二期工事の様子です。
 家屋解体後の傷んだ環境を改善して植栽し、半年が経過しています。



 わずか半年で、木々はとても健康に育ち、枝先はしなやかでバランスも良く、その様相から土中の生き物環境もまた、健全に育ってきていることがうかがえます。



樹木の根元には、枝葉の分解途中の腐植状態のものでカバーしております。これによって健康な森の林床のような、ふかふかでしっとりとした呼吸する大地の地表が早い段階から育っていくのです。



 芝生を張ったのは3週間ほど前のことですが、これほどの大雨がここ数週間降り続いたにもかかわらず、土はふかふかで芝生はびっしりと元気に生えそろいました。
 芝生も、水がきちんとしみ込む環境でなければ、長く健康を維持することはできません。特にこの秋のように、毎日のように大雨が大地をたたく日が続けば、なおさらです。
 大地の呼吸環境を徹底した改善したこの庭では、こんな気象もものともせずに芝生も健康に根を伸ばし、青々と生えそろってくるのです。

 今の時代の環境、気候条件においては特に、植栽よりも先に、まずは土中深くまでいのちが心地よく呼吸できる環境を再生すること、それを第一に考えて住環境を作ってゆくことこそが今、とても大切なことと思えるのです。



 一方で、ここは3年ほど前に竣工した千葉県印西市の庭。水がはけずに土が硬化し、芝生が後退してきています。



 大雨の際に水がはけにくい場所は特に、芝生は消えて土がむき出しとなり、そのむき出しの地表を雨がたたいて泥水となり、それがまた表層の微細な通気孔をふさいで行ってますます土は固くなり、土壌環境はますます悪化し続けてしまうのです。

 今回、芝生が健全に生育できる環境へと改善していきます。



 樹木植栽部分との境界や、芝地を横断するように、移植ゴテでちょこちょこと土中通気浸透性改善のための横溝を掘っていきます。



土壌の状態や地形に応じて、要所に深さ60センチ程度の縦穴を開けていき、



そして縦穴、横溝に枝葉を絡ませていきます。これによって枝葉の分解に伴い、土中微生物菌類が土中に増え、土壌に菌糸を張り巡らせてふかふかの団粒土壌構造を作っていき、それによって土中の通気浸透性は日を経るごとに改善されてゆくのです。



 そして、土中に眠っている様々な菌類微生物をゆり起こし、健全な発酵のサイクルへと土壌環境を早期に誘導するため、自社培養の複合発酵酵素水を散布します。
 土中の通気浸透性の改善の上でこれを散布することで、その改善効果は飛躍的に高まることを日々実感します。

 すべては、たくさんの命が健全に生きられる環境の力を高めてゆく、たくさんの生き物たちが拮抗作用を起こすことなく健全に共存できる環境つくり、私たちの改善作業の本質はそこにあります。
 それが結果として、人にとっても健康で心地よい環境につながってゆくのです。



 今回の改善作業によって、来春には見違えるほどにこの庭の表情は変貌してゆくことでしょう。
 環境の再生、環境の改善、日々そんな仕事と向かい合える幸せを噛みしめながら、これからも切磋琢磨していきたいと思います。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
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