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雑木の庭つくり日記

自然環境としての庭を育てる    平成27年5月30日


 新芽が固まって梅雨へと向かう時節は、庭の育成コントロールのためのメンテナンスの適期でもあります。
 本日おうかがいした、千葉県市原市Aさんの庭は、竣工後1年半が経過し、木々はますますこの土地の自然へと同化していきます。写真は手入れ後です。
 光通し、風通しをコントロールしつつ、健全に成長しつつ、人も木々も、そして生き物たちにとって心地よい環境が醸成されてくるよう、適度な管理は必要になります。

 「カーテンを開けて暮らしたい。」 それこそこの庭の改修植栽前までは常にカーテンを閉めっぱなしで暮らしていたことが考えられないくらい、今は常にカーテンも窓も開け放した、快適で健康的な生活をなされています。



 健康な自然環境としての庭がもたらすかけがえのない豊かさは、その場に暮らしてみて初めて気づくものかもしれません。
 揺れる光と呼吸する大地、木々の香り、土の香り、こうしたことに日々感じながら幸福を実感する、本当に庭とはなんとかけがえのないものなのでしょう。
 手入れにうかがい、お客さんの笑顔と再会するたびにいつもそう感じます。



 大屋根の軒まで枝葉が達することで、狭くとも深遠な森の中にいるような、そんな感すら漂います。

 よく、私たち高田造園設計事務所の作る庭は大きな庭ばかりのように思われる方が多いようですが、そんなことはありません。この庭も植栽幅2m弱のごく狭いスペースなのです。
 それでもこれだけの、スケールの空間を作り出せるのは、自然環境としての雑木の庭ならではのことなのでしょう。



 ここは千葉市内、Tさんの庭は植栽後3年です。コンクリートの駐車スペースを剥がして作ったわずかなスペースに植栽した木々は、こんな環境でも生き生きと、その場所に適応しながら生きようとします。
 住む方の愛情を浴びて木々はますます元気に生き生きと、美しい住環境の風景を作っていきます。



 家と駐車場の間、1mに満たない植栽スペースで、これほどの豊かな潤いが実現できるのです。そして、こんな場所で必死に生きる木々に愛情を注ぎ、いたわりながら、健康を気遣う、それが最も大切な庭環境育成の視点と言えるでしょう。

 メンテナンスの際は地上部だけでなく、木々が呼吸する土中に無数の通気孔をあけていき、細根の発達を促す作業も、こうしたコンクリートに囲まれた今の住宅地では欠かせない作業となります。



 東京都江戸川区Uさんの庭も竣工後5年目となりました。
駅前再開発地の劣悪な土壌環境のもと、ここだけは大地の呼吸を取戻しつつある様子が、風や匂いで感じられます。



 光通しと風通し、そして土壌の通気状態と、都会のコンクリート環境の中でなお、自然環境として健全な状態を保てるような配慮、それがそのまま人の空間としての本当の意味での豊かで温かく、そして心から癒される、自然に対する畏敬の念まで感じさせてくれる、そんな住環境の営みが生まれるのでしょう。



 さて、ここは私の実家の庭、庭の竣工は僕が24歳くらいのことですので、すでに20年以上の歳月が経過しています。
 隣地境界まで2mに満たないわずかなスペースに、ミズナラやモクレン、コウヤマキなど、40種類ほどの木々が共存しつつ、20年を超えました。



 見た目だけでない手入れ、木々と対話し、生き物として労わり気遣いながら、そっと手を差し伸べるような、そんな管理をし続けることで、それこそ人の一生涯、庭の木々は人の住環境を侵すことなく、快適で心地よく共存してくれるものです。
 
 とある造園家が以前にこう言っていたことを思い返します。

「庭の寿命は25年くらいだと、いつもクライアントに説明している。25年経ったら庭もリフォームしましょうと。」

 生き物のいのちの環境として見向きもしないような、庭に対するこうした考え方を聞くたび、「いまだ庭は命を育む環境としてではなく、建築の付属物のように捉えられることが多いのだな」と、少しさびしく感じます。

 庭はいのちの営みの場であり、その地に適応しながら年月をかければかけるほど、多様な生き物環境としても育まれてゆくもの、それをあたかもまるで人が作るモノや作品であるかのような捉え方は、今後は改めていかねばならないことでしょう。
 建築もそうですが、自然環境も生き物もすべて、人がコントロールできるという傲慢な考え方の先には、人の未来も地球の未来もありません。

 自然環境あっての人間社会であり、その縮図が人と庭であるように思えてなりません。

 庭の自然環境と共に生きようと、人の心が歩み寄る、そんな心構えで庭と向き合えば、幾世代にもわたって庭は良くなり続けるもの、命ある環境、生き物の命を人の都合で無造作にはぎ取って顧みない時代から、私たちは進歩しなければなりません。



 22年間、実家の父母と共にあったこの木々たち、この庭の手入れはおそらく、今回が私にとっての最後の手入れになるかもしれません。
 それというのも、母親がひと月後にはこの地を離れて、引っ越すことになるからです。
 22年間の感謝の想いを込めて、手入れしながら、色々な思い出が胸をよぎります。

 家と庭は僕がこの家を離れてからリフォームしていますが、僕が幼稚園の頃から大学入学まで暮らした懐かしの土地であることに何ら変わりはないのです。

 この家の新たな住み人がそのご家族の暮らしと共に、この木々を愛し、木々のいのちと共に生きてくださることを祈るばかりです。







投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
大地の環境を改善する         平成27年5月5日  


 震災直後の4年前に竣工した、千葉市美浜区の「カフェどんぐりの木」の庭です。

 今年の2月に土壌通気浸透性改善のための作業を施し、そして先日訪れた際、非常に顕著な樹勢の回復が確認できました。
 
 私たち人間が木々の健康、生き物環境の改善のためにできることはほんのわずかなことです。
 しかし同時に、大地の生き物環境再生のためのほんのわずかな一押しが、まるでドミノ倒しのように自然界の健全な大地を取り戻すためのきっかけにもなる、そんなことを日々実感します。

 人は今、その営みの中で自然本来のの健康な環境を踏みにじり、そして自らの健全ないのちの基盤まで壊し続けています。それに対して、木々をはじめ大地の植物たちは、水と風の循環の中で日々刻々とその地の環境を改善しようと黙々と生きているのです。

 人間が壊してしまった大地の健康は、人間がきちんと配慮して再生すべく、手を差し伸べなければいけない、これまでのように目先の人の営みを絶対優先とする考え方から、人の営みと、それを支える自然環境の健康とを、フィフティフィフティと考えることのできる社会つくりへと、我々は成熟していかねば未来はありません。

 ここまで壊してしまった大地の環境。造園の仕事を通して木々や土と向き合いながら、その深刻さに愕然とすることもあります。
 壊してはいけないものを壊し続けているのも人であれば、それを修復するのも人の責任です。

 そしていずれは、昔の日本の暮らしや、その土地の風土と共に生きてきた世界各地の先住民族の清冽で高貴な暮らし方・生き方がそうであったように、自らの命の母体として大切なものに気づき、そしてそれを壊さずに共存できる暮らし方、社会の在り方を取り戻さねばならない、そんな想いはますます大きく確固たるものへと膨らんできます。


 
 通気浸透水脈改善からわずか2カ月余りでしっかりと呼吸を取り戻した木々は春の日差しを浴びて喜んでいるようです。

 海岸埋立地に立地するこの地は、それまで駐車場として過酷に踏みにじられてきたうえに、施工の際、
震災時の液状化の影響を受けて塩分交じりの海砂が吹き出し、その影響を当時の土壌改良では払しょくしきれず、植栽後の木々の衰退が進行していたのです。

 いのちの息吹を感じさせてくれる庭の木々は健康でなければなりません。たとえどんなにデザイン的に優れた庭であっても、その庭が健康で、その土地の自然環境や生態系に資するものでなければ意味をなさない時代はもう、すぐ目の前に来ているように思います。

 目に見える木々の息吹を支える土壌の環境、大地の呼吸。あらゆるいのちの源は健康な大地の環境にあります。
 大地が目詰まりして木々が苦しんでいる、人の営みが作ってしまったそんな状態を改善するのが、通気浸透水脈改善です。

 それはこれまでのように、「土が悪ければ他からよい土を持ってくればいい。」という目先の考えではなく、今あるその地の土壌そのものを、本来の自然環境のごとく息づかせて再生する、それによって豊富な土中の生き物環境を取り戻し、人も樹も健康でいられる本来の環境を再生してゆくというものです。
 通気の悪い土地においては、どんなに良い土を客土しても、その土は数年で硬化し、土壌環境はまた元のように悪化していきます。そして、通気しない大地は人の健康をも知らず知らずのうちに奪い去っていきます。

 一方で、土壌の通気浸透環境を改善して大地の血管とも言える水脈を再生してゆくことで、その土地は本来の呼吸を取り戻し、自律的に改善されてゆくのです。
 これからの時代、今の大地の環境、いのちの源である大地の呼吸を取り戻すことこそ、常に心がけねばならない大切なことと感じます。



 ここは今進めている、つくば市春風台住宅地の街路モデル実験区です。植栽改善のための植穴を掘った後、雨が降ると周囲の土中に溜まった停滞水が、土中の水脈を通してこの穴へと引き込まれ、そして停滞しています。
 こうして新たに穴を掘ることで、周囲の停滞水が動いて移動してくるのです。素掘りの穴をうまく掘って、水脈を再生して誘導してゆくことの意味はここにあります。

 水が停滞するということは土中の空気も動かず、こうした土中には嫌気性のバクテリアばかりが増えて生物環境のバランスを壊していきます。

 こんな環境であっても、通気浸透性の改善措置をきちんと行えば木々を健康に育てることができ、そしてこの土地を自律的な生き物環境再生へと向かわしめることさえ、実はそんなに難しいことではないのです。

 景観緑地と専用農地を併せ持つ、緑・住・農一体型の住宅地として計画され、3年前に造成完了しました。
 しかしながらこの造成地もまた、広大な土地が削られ平らにされて水はけは悪く、畑も緑地も健全に生育できる状態ではなくなってしまったのです。
 そこでこの住宅地全体の環境改善が急務となって依頼を受け、そのモデルケースとして6棟分の街路、総延長約110mの環境改善、植栽改善をこの4月に実施いたしました。

 最近は特に、こうした劣悪な造成住宅地が増え続けているのですが、それは環境に配慮せず大地を痛めつけ続けて顧みない現代土木工事の在り方、排水整備に対する今の土木建築工法や考え方の盲点に起因します。

 大地に対する人の行為は必ず、生き物環境としての適切な配慮と、水や空気の動きに対する正しい知識と想像力に基づく必要があります。
 今、私たちはこうして、大地の呼吸を取り戻す一つ一つの作業を積み重ねて実績を重ね、そしてそれが健全な自然環境再生、持続的な社会の在り方へといつか繋がってゆくことを夢見て、一歩ずつ取り組むしかありません。
 結果は確実に、そしてすぐに顕れるのですから。



 水中ポンプで周囲から集まる水を抜きながら、剪定枝などの有機物や炭を絡ませるように敷き詰めながら土を埋め戻していきます。この際、必ず、植穴の両端に縦穴を掘って気抜きの竹筒を通し、縦方向への水と空気の動く地形落差を土中に作ります。



 さらには、周囲に溝を掘って、土中の水と空気が、この土地周辺全体の大きな地形の中で、本来の水脈の動きに呼応する水と空気の通り道を、土中に再生していきます。



 植栽部分は高く、横溝、縦穴へと落差をつくって土中の低滞水を動かしていきます。
 遠く筑波山からの水系がこの地の流域を形成する桜川へと、土中の水の動きを誘導することで、この土地の土壌環境の再生を促します。



 そして、ここでも水脈再生の効果はすぐに顕れます。植えられた木々は滞水の兆候も見られずに、新たな土地で活発な生命活動を始めていました。
 雑木の木立が連続するこの新たな街路空間は、これから我々が取り組まねばならない大地環境再生の第一歩となるかもしれません。



 雨が降ると水が溜まり、土壌が固くなってしまうこの住宅地の菜園区画にも、同様の改善を施します。



 数十センチほど掘ると、透水性の悪い硬化した粘土層が出てきます。こんな土地でも、水はけのよい柔らかな土地へと改善してゆくことが可能なのです。



 横溝に炭を敷き、そして一定間隔に掘った縦穴に気抜きを差し込み、その周りにも有機物や炭を流し込みます。



 横溝にも枝葉などの有機物に炭を混ぜて通水層を作ります。

 暗渠と言えば、一般的に現在は、透水シートでくるんだ砂利の層を埋め込むのが通常の工法となりましたが、その工法では暗渠は数年で目詰まりして機能が低下してゆくのに対し、有機物を用いてさらに縦方向へと空気の動きを作るこの方法は、目詰まりすることはなく、有機物の分解と共に周辺の植物根がこの通気層を取り巻き、維持してゆくのです。



 この改善作業に用いた資材は、大量の剪定枝葉と木炭のみで、溝掘りで発生した掘削残土を盛り上げて仕上げます。
 土の入れ替えも不要で合理的で、しかも周辺を含めて永続的な改善効果が及ぶのがこの工法の大きなメリットと言えるでしょう。

 この暗渠が永続的に機能するためにはその後のメンテナンスも必要で、雑草をグランドカバーとして活かしたり、水脈保全のための樹木根の誘導など、植物たちと共に生きてゆく姿勢がとても大切になります。
 それが、新たに我々人類が切り開いていかねばならない「植栽工学」という新分野の課題と言えるでしょう。



 そして連休前の最後の工事が、房総丘陵の森の頂に新たに建てられた家屋の造園工事となりました。
 造園工事後の家屋エントランスです。既存木やこの場の自然環境の伸びやかさを活かしながらの家周りの改修工事となりました。
 20年前に森の中に造成された土地ですが、こんな素晴らしい環境でありながら、様々な人間活動のインパクトを受けて木々は痛み、大地の環境はやはり次第に荒れていきつつありました。



枝枯れの進む既存の大木。



新たな家屋建築工事に伴う踏圧によって裸地化した地面。むき出しの地盤は雨の度に泥水となって土を削り、そして微細な表土の通気孔を塞いでしまい、土壌を硬化させてしまいます。



 20年前の造成時に一定の安定角度で造成された後、一向に下草の種類が本来の多様性を取り戻せず、その後に新たに「植えられた木々もなかなか健全に育っていかない状態が続いております。
 自然界には決してありえない単一傾斜の造成環境では水は加速度を付けて表土を削り、大地の通気浸透環境はそのままではなかなかな改善されず、こうしておかしな状態が長く続いてしまいがちなのです。
 一見、これは普通の状態と思われがちですが、長年この地に通い、この地を愛し続けてきたお施主のY先生は、この環境のおかしさに気づいており、大地の環境改善を望んでいらしたのです。



 まずは、雨が降ると大屋根から滝のように流れ落ちる雨落ちの水が段階的に大地にしみ込むよう、大きな縦穴浸透孔をつくり、そこを水脈整備の起点とします。



 家周りの泥水の斜面流出を、土壌通気浸透性の改善によって対策するため、等高線に沿った形で横方向に素掘りの溝を回し、要所に縦方向への浸透孔を設けていきます。



 傾斜地に等高線に沿って有機物による暗渠を巡らし、そして道を整備していきます。道を作ることが環境の改善につながる、そんなかつては当たり前だった山道の工法で、環境再生していきます。



 屋根を伝うの雨落ちの水はすべて、表面流亡させることなく浸透させて大地に還元します。



 自然地形を再生しながら浸透環境を整え、そして快適な有機的環境へと仕上げていきます。



 工事後の玄関からの回遊路。補植された木々の根元は剪定枝を発酵途中の腐植を表土の保護にマルチとして用い、通気性を改善した足元にウッドチップを敷き詰めて、この素晴らしい土地に違和感のない景観を作っていきます。



 玄関前は枕木と大谷石の古材を用いて、以前からここにあったような落ち着きと使いやすさを心がけました。



土がむき出しで殺風景だった家屋と小屋の間の通用空間も、既存木と新たな補植とが呼応して、落ち着きのある有機的な空気感が生まれました。



 竣工後の記念撮影。左端がお施主のY先生です。豊かな自然環境にあって、その地の環境の存続を望まない人はおそらくいないでしょう。
 Y先生は長年の研究生活の中、週末にこの地に通って生き物と対話することで健康なバランスを取り戻し、活力を持って歩み続けてこられました。
 そんな方が育ててこられたこの素晴らしい土地の環境再生に今回協力させていただけたことを心から嬉しく、ありがたく感じます。
 これからの時代、何が大切なことか、それをしっかりと抱きながら、連休後の今年の後半戦も黙々と生きていきたいと思います。



 連休中も休みなく、急ピッチで進める当社の山小屋建築。
 床下の断熱に藁を挟み込んでいます。すべてがこの大地に還ってゆく建築を、徹底的に追求します。
 周辺の木々や小鳥たちの喜びと輝きに祝福されながらの作業はとても心地よく、疲れを忘れてしまいます。



 傾斜地の大地をなるべく傷つけないよう、そのままの地形で基礎石に柱を立てて、その上に人の営みの場を作ります。自然の中にちょっとお邪魔する、そんな姿勢がこれからの人間のスタンスとしてとても大切なことのように思うのです。



 建物が建つことによってその環境がさらに有機的なものへと変わってゆく、ここではそんな空気感すら感じられます。

 今年も前半期、以前にも増して全力で駆け抜けて、使命を全うしようと生きてきました。そして連休後の後半期もまた、駆けつづけていきます。それが人のため、大地のため、生き物のための、人間としての自分なりの贖罪の想いでおります。

 そして役目を終えた時、この地に眠ってこの地の土に還りたい、そんな想いが自然と心に浮かんでまいります。
 まだまだあと数十年、小さな雑草のようにあきらめずにせっせと目の前の生き物たち、自然環境、そして人間に向き合い、生きていきたいと思います。

 




 

投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
里山環境改善ワークショップのお知らせ  平成27年4月27日


 春爛漫の日々、当社山林(ダーチャサポートちば土気山フィールド)に山小屋建築が急ピッチで進んでいます。
 斜面の地形を極力傷めることなく、昔ながらの中山間地域の建築手法で古材を使って建てられた小屋は建築中も周囲の木々に見守られながら、すでにこの土地の風景としてタイムスリップしたような佇まいを見せ始めています。

 この小屋は、これから様々な人たちと自然環境との交流の場として利用してゆく、その拠点となります。
 
 5月13日、14日と、この山小屋を拠点に、周辺里山環境改善のワークショップを開催することとなり、下記のとおりお知らせいたします。

日時; 5月13日朝10時集合 、14日午後2時頃解散。

講師; 矢野智徳氏

ワークショップ内容;水路整備、山道、風道づくり、自然農畑つくり、通気浸透水脈改善、
        バイオトイレつくりなど。

場所;千葉市緑区高津戸町409-5 (土気駅から徒歩20分)

持ち物;長靴、作業手袋、ノコ鎌、園芸スコップ、作業服、着替え、寝袋
    なお、造園関係者や車で来られる方はその他、土道具、なたや鋸、チェーンソウ等、いろいろお持ちいただければ助かります。
      

宿泊;山小屋2棟とテントに雑魚寝となります(男女別)。寝袋をご用意ください。
 なお、他に近所の旅館(素泊まり4000円程度)も宿泊予約可能です。

募集;すでに参加希望者が20名を超えておりますので、最大でプラス10名程度を定員といたします。単なる講座ではなく、みんなで分担して作業しながらノウハウを学んでゆく形で行います。

参加費;作業参加者は基本的に参加費は発生しません。食事代(4食)が合計数千円程度、ご負担いただくと思います。オブサーバー参加をご希望の方は、その旨をお知らせください。

申し込み方法;高田造園設計事務所まで、メールまたはお電話にて申込みください。

 全国から自然環境再生への志高い、面白い人たちが集まります。夜は矢野さんの講義含め、熱い交流会になることと思います。お気軽にお問い合わせください。

さて、建築中の山小屋を少し紹介します。



 77歳の元気な棟梁を中心に、これまで解体した古民家の材料を再利用して、昔の工法でくみ上げています。




構造材に一本の釘もビスも使うことなく、木組みだけで重量感と風格のある素晴らしい小屋が組まれていきます。



 傾斜地を造成することなく、地形を極力傷めず、改変せず、そのまま石を置いて基礎とし、掛けづくりでくみ上げていきます。
 筋交いを用いず、昔ながらの抜き板による柔軟な構造でくみ上げます。



自然石に合わせて柱付きを削り、合わせてゆくこの昔ながらのやり方は非常に強く理に適っています。
 そして大地を傷めない。今はこうした技が失われつつありますが、後世に伝え活かしていかねばならない技と感じます。



杜の中の舞台のようなこの小屋は、現代の私たちのライフスタイルを問いかけてくれます。
 13日のオープンを目指して今、連休返上で作業を進めております。






投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
造園と土壌通気浸透水脈~名古屋市の庭より  平成27年4月13日

 ブログを見てくださる皆様、大変ご無沙汰しております。あわただしく飛び回っているうちに、今年もいよいよ新緑の季節を迎えることに差し掛かりました。
 この時期の雑木の庭は、一年の中でももっとも清らかな季節となり、これまで庭を作らせていただいたお客様方々から次々に庭の写真とうれしい便りが届きます。
 それは本当に、この仕事をしていてよかったと感じる、幸せな瞬間でもあります。

 
今年に入ってからの数か月、実にいろんなことがありました。このブログで報告いたしたいと思いつつ、いつの間にか時間が過ぎてしまいました。

 何から紹介したらよいものか、まずは3月に竣工しました名古屋の庭をご紹介いたします。



 ここは名古屋市Nさんの庭。3月中旬に竣工したばかりのこの庭も、植栽後3週間を経て新芽が芽吹き、健康な穏やかさを感じさせてくれている様子が伝わります。

 4方森に囲まれたこの地に越されたNさんは、家を建てた後、目の前の森が伐り払われて宅地開発が始まり、谷が埋められて造成されてしまい、周囲の景観が一変してしまいました。
 理想の住まい環境をやっと見つけられ、そしてそこに家族のかけがえのない新居を建てられたNさんにとって、周囲の自然環境がなくなってしまえばここに家を建てられた意味はないのです。
 「法に基づいた開発行為」に購うこともできずに、ズタズタにされる人の心と自然環境。
 
 落胆しても始まらず、Nさんは失われた目の前の森を自分の敷地の中で再生することを決意し、そして先月、家の東北側に残された雑木林を庭に繋げて引き込むよう、そんな意図で庭が完成しました。

 自然環境の再生、そのためには木々を単に景観としてばかり捉えて、見た目の自然を再現しようとするのではなく、呼吸する大地の健康な状態を再生し、そしてそれを周囲の残された自然環境へと繋げてゆくことでこそ、本当の意味で、健康で豊かな環境の再生は可能となります。
 健康な根があっての健康な木々なのですから、目に見える地上部ばかりでなく、目に見えにくい足元の大地の環境を、健全な形へと再生してゆくことこそ、その庭が本当の意味で周囲の自然環境と一体となりえる、そのための欠かせない条件であることを知る必要があります。



 締め固まったNさんの庭、粘土質と礫の混ざった土は固く、このままでは通気も悪く、健康に根が入り込める条件ではありません。
 植栽にかかる前に、土中の通気浸透性の改善のため、雨落ち排水を兼ねた横溝と縦穴を掘っていきます。

 基本的に、そこにある土を改善して、植栽条件を整えるのですが、土がよくなってゆくためには土壌の通気透水性の再生こそがそのカギとなるのです。
 
 従来、高度成長期以降のトラック運送時代の造園においては、植栽する場所の土が悪ければ他からよい土を持ってくればよい、その程度の認識が当たり前に蔓延してきました。以前の私もそうでした。
 しかし、「その残土はどこに行き、そして庭に使う良質の土はどこからくるのか。」そんなことを考えるに従い、なるべく土をよそから持ってくるのではなく、その土地の土を健康に再生して用いたいと思うようになり、そして10年くらい前から、剪定枝を堆積して客土に用いる土を作ってゆくようになりました。
 今は客土すら、なるべく行わず、できる限りその土地全体の土壌が自然の力で育ってゆくような、そんな環境を整えることから造園を始めるようになりました。

 土は、土壌内の通気環境次第でよくもなるし悪くもなります。どんなに良質な土壌を客土しても、元の大地の通気浸透性が滞っていれば、数年以内に新たな土も次第に硬化し、悪化してしまいます。
 逆に、どんな土でも、自然本来の健全な水脈を再生して地下の通気性と透水性を改善しさえすれば、その直後から土は改善されていき、生き物が息づく大地が再生されてゆくのです。
 今の時代、今の環境の下では、通気環境の改善から行わねば、木々が健康に呼吸できない、そんな環境が今、急速に増え続けていることを、この仕事を通して痛いほどに実感させられます。



 有機物を活かした暗渠構造。漉き込んだ有機物は竹筒の気抜き孔を通して呼吸しながらゆっくりと分解し、土に還っていきます。同時に通気性のよいこの気抜き孔に向かって草木の根が入り込み、絡み合い、筒が腐植に変わる頃には木々の根が筒状に張りめぐらされて通気孔の機能を、代わって保つのです。



 礫やこぶし大の石すら混ざる粘土質の重たい土で作業は大変ですが、なるべくこの地の土を改善して使っていくことが大切です。
 従来の造園世界では、「こうした硬くて粘土質で石交じりの土はよくない」 と考えて、すぐに土を入れ替えしようとする人も多いのですが、それは間違いであることは、こうした土壌条件の下で豊かな森を作り上げてゆく周囲の森の木々の健全さを見れば、一目瞭然のはずです。



 家屋に隣接する雑木林の桜の大木。
 この土、この風土において、大地の通気環境さえ健全に保たれていれば、木々は十分に健康に、いのちの環境をすくすくと育んでゆくことが分かります

 問題は、土地造成や道路工事、家屋外構建築等によって、呼吸する大地の環境を無残に壊してしまう人間の所作、そんな今の建築土木の在り方にあります。土地を傷つけて木々の呼吸。大地の呼吸を断ち切ってしまうのも人間ですが、その人間が壊してしまった環境が、持続的に再生されるよう、働きかけることができるもの人間です。
 人が壊してしまった以上、人の手でその大地の呼吸を健全に戻してゆく、そんなことも今の時代、そしてこれからの時代、必ず必要とされることでしょう。



 水脈再生作業の後、やっと植栽です。狭い庭ですが、木々を高めに植えて地形落差を付けてゆくことで、地中の水と空気が動きやすい環境を作ります。



 そして植栽後の表層の保護には、周辺の山林から落ち葉の下の、落ち葉が分解しかけて根と絡み合った腐植と呼ばれる部分を山からいただいて敷き詰めます。風に飛ばないよう、落ち枝を絡ませてゆくと、今できたばかりの庭とは思えないほどに自然な地表が完成します。
 この有機物が表層の土壌生物活動を活発にし、表土の通気孔を守ります。



 そして3週間後、芽吹き前の木々は生き生きとした森の空気感を感じるほどに、この土地の自然と一体化の営みを始めています。



 先日、竣工したばかりのNさんの庭に、愛知県自然環境課の視察が入りました。
 自然豊かだった市街地へと次々に開発が進む愛知県では今、良好な自然環境を少しでも次世代に繋いでゆくため、開発地域の民有地、個人の庭も含めての、生態系ネットワークを構築しようとしていると言います。

 そして今回、地域生態系に配慮した自然環境再生型の庭の事例として、Nさんの庭を視察に訪ねられました。



 愛知県の進める生態系ネットワークとは、開発などによって分断された自然環境を、その土地の生き物環境に配慮した植栽等によって繋ぎ、地域本体の生態系を保全する取り組みと言います。

 時代は変わりつつあります。そしてそれに伴い、人間はじめ生きとし生けるものたちの源である自然環境の再生のために担うべき、造園の役割が形として見え始めている、社会づくりに必要とされている、そんなことを改めて実感されます。



 名古屋市守山区 小幡緑地。Nさんの住まいのすぐ下部に繋がります。
 ここが名古屋市内であることを忘れてしまうほどの豊かな自然環境が、まだかろうじて良好な状態で保たれています。



 そして、小幡緑地に湧き出す地下水が沼地の豊かな生態系を維持してきました。
 今回、この緑地の上部が切り開かれて宅地となり、この湧水もこの自然環境も影響を受けて、姿を変えてゆくことでしょう。



 自然環境は「保護地区」や「緑地保全地区」などと言う、これまでのような部分的な面積保全ではなく、全体を繋いで、いのちの環境として良好に保つということがどういうことか、そんな視点が必要です。
 その点で、開発地域を含めた生態系ネットワークを再生しようとする愛知県自然環境課の取り組みは、これからの時代にふさわしい新たな挑戦と言えるでしょう。
 それが、単なる見た目の景観としての自然環境再生ではなく、その大地を息づかせる根本たる水脈、流域としての自然環境全体を繋いでゆく大地の水脈の再生の視野を持って、本当の意味での自然環境再生に繋がることを願うばかりです。
 大地の呼吸、水脈の再生、それが不可欠なものとして普通に配慮される時代の到来を夢見つつ、私たちも熱く力強く歩んでまいりたいと思います。

 名古屋の造園工事、私たちと共同で作業してくださった、jinengardenの江川さん、美野園の渡辺さんはじめ、応援に駆け付けてくださった方々、この場を借りて心から御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
山の補植作業        平成27年2月15日


 千葉市内の荒れた山林を取得し、整備を進めておりますダーチャ用地に、樹木畑で育成したクヌギなどの木々を補植しました。
 山林の補植は単なる景観つくりではなく、自然環境が自律的に再生されていき、それが風土の環境再生へと繋がる形で成されることが重要です。また、目に見える地上の部分だけでなく、根本的に大切な部分である、土中の環境再生をも視野に含めて施工していかねばなりません。
 
 新たに植栽した木々が、その土地の健全な森の構成要素として、大地の環境の一翼を担う形で溶け込んでゆくこと、そのための配慮や、その土地の自然が持つ働きや力を活かしながら手を施してゆくことこそが、問題となっている荒れた里山を、未来を支える命の財産として繋いでゆくための大きなカギとなる、そんな想いで補植作業に臨んでいます。



 山林の要所要所に効果的な補植場所を定めて、そこに枝葉の土留めを施していきます。
 比較的、急な傾斜地での補植のため、その後の健全な土中水脈の再生や、地滑りが起こらない環境つくりに配慮しながらの作業です。



土留め柵に用いる枝葉はもちろん、山林内から集めます。一つ一つの作業によって、山もきれいに片付いていきます。



 土留め枝柵の内側に、補植樹木を植え付けていきます。



 盛土した分、補充する土も他から搬入するのではなく、斜面山側を溝状に掘り下げて、その土を根鉢にかぶせて盛土していきます。
 この際にできる、斜面山側の深い横溝が、土地改変に伴う土中水脈の健全化に繋がるのです。



そして、斜面際を掘り下げたの横溝に、枝葉や木炭を漉き込んでいきます。これが大地の呼吸孔として機能し、樹木の根を誘導し、土中深い位置まで豊かな生物環境を作り上げてゆくことに繋がるのです。



 斜面補植完了後。盛土部分も、周辺から集めた枝葉をかぶせてマルチして仕上げます。構造上、すぐに土中水脈再生が始まり、決して地滑りや斜面崩壊など起こらないうえ、永続的かつ自律的に大地の環境が再生されてゆくのです。
 



 補植樹木はどんぐりから育てた木々たち、盛土の土は現地での発生土、そして水脈暗渠資材もマルチ材もすべて、この山林での採取によるもので、外から持ち込んだものなく、一銭たりとも材料費を投じることなく、大地が再生されてゆくのです。

 かつての人の営みが自然環境共生型、再生型の形であったがゆえに、今の我々の命が支えられてきたという事実をもう一度きちんと認識し、その上で、これからの未来へ続く社会の在り方、環境共生の在り方を、今こそ問い直すべき時期にある、そんな想いが日に日に強まります。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
         
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