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雑木の庭つくり日記

杜の学校 矢野智徳さんの自然農    平成26年9月7日


  ここは山梨県上野原市、大地の再生医、矢野智徳さん率いる杜の学校の自然農園の田んぼです。
 低く柔らかな雑草が心地よく、独特の美しさと健康な様相が伝わります。約4m弱の間隔に大地の呼吸を促す水脈が配される様子に、矢野さん独特の思想を感じます。ここには静かで心地よい空気の流れを感じます。
 
 大地の呼吸を無視した間違った土木開発によって失われた、土中の水脈・気脈を再生し、荒れてしまった土地を、命育む豊かな大地へと再生することを天命として活躍する矢野さんのことを私が知ったのは昨年の末のことでした。
 もともと私は、庭も自然環境も街も、そして人の心に至るまで、荒廃しつつある自然環境との絆を取り戻し、豊かに環境改善してゆくことを大きな目的に、今の造園の仕事に導かれてきたものですから、矢野さんの考え方は私の心のアンテナに強く響き渡りました。
 それ以来、矢野さんの考え方や活動を調べてゆく中で、直接お会いしたいという気持ちが抑えきれないまでに膨らみ、そして先週ようやく、矢野さんを訪ねることができたのです。

 とは言えども、全国津々浦々の要請を受けて、忙しく飛び回る矢野さんの都合に合わせることは並大抵のことではありません。
 アポイントをいただき、三顧の礼で朝早くに訪ねるも、遠方の現場からいまだ帰らず、、やっとお会いすることができたのは夕方に差し掛かる頃のことでした。

 それまでの間、矢野さんの下で自然農を担当されている舘野昌也さんの案内のもと、森の学校自然農園を見学して回ります。



 昨年まで八ケ岳山麓で自然農を営んでおられた舘野さんはその道20年近いベテランです。自然農のこと、そして矢野さん流の取り組みについて、丁寧に説明していただきます。 
 この田んぼの畔もそうですが、矢野さんの再生した土地は、常に背の低い草に覆われています。雑草は根元から刈ることをせず、ちょうど風になびいて先端が揺れる程度の高さで葉先を刈ってゆくと言います。
 根元から刈ってしまえば草の根はごぼうのように荒く深くなり、そしてまた勢いのよい草丈へと延びていき、そのうえいつまでも土が柔らかく改善されてこないと言います。ちょうど風になびいて葉先が飛ばされるように、一定の高さで葉先のみ勝ってゆくようにすることで、雑草の細根が土の表層に張りめぐらさせていきます。それが土の表層に有機物を供給し、土中の水分を引っ張り上げて乾燥することもなく、 豊かな生き物の層が育まれ、土の団粒化が促進するのです。土がゆくなっていけば根の呼吸に必要な空気も土中に円滑に入り込み、草は強い根を伸ばす必要がなくなる分、荒々しく草丈を伸ばすことなく低くおとなしくなってゆくのです。

 私の扱う樹木も同様、太い枝を切り詰めれば、それに繋がる太い根が傷みます。そのため驚いた木は我を失い、新たに太い根を勢いよく徒長させると同時に、地上部でも勢いのよすぎる徒長枝が伸びて樹形を乱し、木々も土も健康を損なってしまう、それと全く同じことだと気づきます。

 荒々しく背丈を伸ばす草は大地の呼吸不全の証で、気脈水脈を改善し、水がゆっくり全体にしみ藁るように地表に細根が張りめぐらされてゆくことで、大雨が降ってもすっと吸収されてゆくような、健康で柔らかな土地へと生まれ変わってゆくのです。



 そして田んぼの中に3.6m間隔で配された素掘りの溝と、その中に一定の感覚で縦穴が掘られています。
 これが土中に水や空気の円滑な流れを生み出し、何もせずとも自然と土が改善されていき、豊かな命育む健康な田圃となります。



 田んぼの中の雑草は基本的に低い高さで稲と共存させていき、、アレロパシーが強く生態系を乱す種類のみを選択的に引き抜いては倒します。基本的にここの有機物は持ち出さず、全てを自然循環の中に帰していきます。



 さらに驚かされたのが、田んぼに流れ込む水量と流速の調節の仕方です。そこにある小石や草や枝の欠片を用いて、水量と流速を調整し、水に加速度がつかずに全体にしみわたるように流し込むのです。
 矢野さんの土木全体に言えることですが、水の扱いの繊細な配慮に驚かされます。
 近年頻発する土砂崩壊、水の怖さは多くの人が感じていると思いますが、矢野さんは、水に加速度をつけないように流して全体にしみわたるようにすれば水は決して悪さをしないと言います。
 
 人工的な弁などで水量を調整するのではなく、小石や草でといったその場の無機物有機物で流れのリズムに様々な動きをつけて勢いを分散し、田んぼに引き入れます。勢いが強ければ泥水となり、それが地表の微細な空気穴を塞いてしまい、土地は呼吸不全に陥るのです。

 マクロな大自然も、こうした小さな自然もすべては相似形という矢野さんの考え方が、こうした繊細で細やかな配慮を生み出すのでしょう。



 そしてここは、耕作放棄された荒れ地に円滑な水や空気の動きを促すように水脈を配し、地形を作った傾斜地の自然農畑です。
 葛で覆われた固い土地を改善してゆくために深い溝をほり、水脈気脈を土中から改善します。斜面はやはり低い草を刈りすぎずに柔らかに残すことで根を地表に張りめぐらせて土を改善し、その上どんな豪雨でも決して流亡しない土地を鎌一本で維持するのです。



 それにしても細かく不自然さの感じられない地形の作り方に息をのみます。矢野さんが地形を作る時、その土地の形状だけでなく、その水源となる遠くの山並を見て作ると言います。
つまり、遠くの山襞から水脈は大地の血管の用に繋がっていて、それを断ち切ることなくこの小さな斜面に繋いでいけるよう、地形を配してゆくため、その形はおのずとその山並みと相似形のように繋がる形となっていくのです。大地の呼吸や水脈を感じ取り、そして地形を造作する、その感覚に驚き、そして心が熱く震えます。



 舘野さんから自然農の基本的な考え方の説明を受けます。
 気脈通じる大地を壊さず、草をはぎ取る部分は播種する部分のみの最小限にとどめます。そして、土が露出しないように刈り草をまぶして大地を守ります。基本的に肥料も与えず、有機物はこの場所で循環させて持ち出しません。
 開墾したばかりの自然農園ではその生育もまちまちですが、こうして大地の気脈水脈を再生し、有機物のバランスを整えてゆくことで日ごと年ごと土が改善されてゆくのです。



 傾斜の緩い場所には広い区画、雑草に負けずに生育するソバ。



 地這い性のキュウリやスイカ、カボチャなどはこうした広いマウンドで伸び伸びと育てています。
 やはり畔は深く、そして一定間隔に落とし穴のように縦穴が掘られ、それが土中に空気と水の流れを促します。
低い雑草に覆われた自然農園、これが縄文から近世まで、日本だけでなく世界中で長く続いていた自然と共存する持続的な栽培の在り方だったのでしょう。

 矢野さんのこと、書きたいことはまだまだたくさんありつつも、時間が足りず・・、追ってまた、その取り組みや素晴らしい考え方を紹介していきます。

 お忙しい中長い時間に渡ってご案内下さしました舘野さん、どうもありがとうございました。
 

 


投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
目白の木陰の街と、千葉市O邸の造園施工 平成26年7月27日


 梅雨明けと同時に猛烈な暑さが続いております。こんな時期は都会のコンクリート地獄から抜け出して、森の中の冷涼な高原で過ごしたいと思われる方が、きっと多いことでしょう。

 上の写真、大きな木々に包まれて木陰に佇む住宅地はまるで軽井沢の別荘地を彷彿とさせられることでしょう。
 しかしながら、この場所はなんと、山手線目白駅から10分と離れていない、東京都区内の住宅地、通称「徳川村」です。
 もともとこの敷地は、江戸時代には尾張徳川家のお屋敷があった場所でした。昭和初期にこの敷地は徳川家によって、外交官などの在日外国人のために住宅用地として提供されたことから、この街が誕生しました。



 大きく育ったそれぞれの家の敷地の高木が街全体を木陰にし、今日のような猛暑でもこの街では夏の風情を感じながら、日中でものんびりと散歩が楽しめます。
 
 一歩この街の外に出ると、フルパワーの夏の日差しと、熱せられたアスファルトの照り返しにエアコン室外機の廃熱に包まれた、不快な夏の街が広がります。
 年月を超えて居住者に守られ、時間と主に大きく育った木々の力が、ヒートアイランドの都会に在ってなお、街の心地よさをこれほどまでに実現しているのです。



 各家々を見ると、木々に境界などまったくなく、それぞれの家の屋根上にかぶさり、そして自分の敷地の木々がお隣の敷地まで木陰にしています。
 こんな街の在り方に、今の多くの日本人の常識と、この街の在日外国人方々との意識の違いを感じさせられます。
 
 快適な街つくりに木々は欠かせませんが、その枝葉の先端にまで、自他の敷地境界ラインを気にしていたら、決して木々の力を活かした心地よい街など生まれようがありません。
 木々の力が環境をつくり、微気候を改善する大きな力を持つのです。
 街がこんなに暑くなり、エアコンなしでは過ごせない住環境が増え続けている今日そして将来、木々の力をいかに生かして、膨大な人工的エネルギーに頼ることなく自然の力で街の微気候を改善してゆくことがどれほど必要なことか、大切なことか、東京都市部の山手線内にあって、エアコンに頼りすぎずに暮らせるこの街が示唆してくれるようです。



 住宅地内の桜の木々が夏の道路を木陰にします。ここでは桜の開花時期には道路にシートを並べて町全体でにぎやかな花見が毎年行われます。
 木々があってこの街の魅力があります。この街に住む方々は、ここから出て東京の他の住宅地に移ることはまずできないようです。当然、この街以上に住みやすい場所など、今の都心にはほとんどなくなってしまったのですから。
 
 今の日本人の多くは、木々の枝先の越境をなぜ気にしすぎるのか。木々は微気候を改善して素晴らしい住環境を作ってくれる上、小鳥や虫たちなど、たくさんの生き物と共にある健康な森の環境を作るのは、自然でのびやかな大きな木々なのです。
 自然で優しく、潤い豊かでおおらかな住まいの環境をこれから取り戻してゆくためには、木々が大きくなったら意味なく剪定しないといけないという固定観念に縛られない、そんな意識を育ててゆくことが大切です。

 私の尊敬する、秋田の同業者がこう言います。「落ち葉掃除はお互い様 木陰で休めればお陰様」
お互い様、お陰様、なんという素晴らしい日本語なのでしょう。こんな日本の素晴らしい心が育んできた平和で豊かな日本は、戦後、そして今、急速に失われています。
 今、本当の意味で素晴らしい日本を取り戻さねばならない、時間と意識の高い人たちによって育まれて今に生きるこんな素晴らしい住環境を目の当たりにして、そんな思いと決意が強まります。

 環境は時間をかけて作られるもの、おおらかに木々を大切に育てる心が最も大切だと感じます。



 さて、現在施工中、千葉市中央区Oさんの造園工事です。夏の暑さの中での工事ですが、先に植栽した高木の木陰での作業のため、この暑さでも集中力を保って仕事することができるのです。
 私たちの仕事はお客様の住まいの環境を過ごしやすくすること、同時に、木々があることの素晴らしさに気づいてもらいたいという願いを込めています。
 梅雨の間に木々を植えて木陰を作り、そしてその下で猛暑の工事を乗り切る。木々は植えられた直後から、その場の環境を改善してくれます。



 木陰での園路工事。セメントは使いません。土と酸化マグネシウムで叩いて固めていきます。とても手間のかかるやり方ですが、なるべく土に還る素材で施工したいとの私たちの思いは日ごと年ごと強まります。
 セメントを用いればそれは環境を汚染し、ゴミになる。しかも蓄熱体となって住まいの微気候を悪化させる上、20~30年程度の耐久性しかない。
 スクラップ&ビルドの果てに、日本はごみの山になっていきます。
 数十年前までの千年万年もの間、日本人の歴史の中で暮らしの全ては自然界との物質循環の中で持続的に成り立っていたのです。
 ゴミが積み重なられて環境が汚される社会の在り方は、実に戦後わずか数十年のことなのです。
 美しい日本を未来に再生するため、庭の造作ではなるべく土に還る工法で、その素晴らしさと安らぎを知ってもらうことも、今の時代において、私たちななすべき大切な役割だと思っています。



 やるとなったら徹底しないといけません。裏側の風化したブロック塀を壊すことなく、補強するため、型枠を組んで、石灰とにがりを混ぜて土を突き固めます。
 数千年の昔から、世界中の建築土木工事で用いられてきた工法で、版築と言います。



少しずつ土を突き固めて、そしてまた重ねてゆくため、地層のような層状の模様となるのが版築の特徴です。
 この模様は意図して作ったものではなく同じ模様は二つとないことが、おもしろさとおおらかさです。

 酸性雨に耐えるため、上部の層には若干のセメントを混入していますが、その量は土に還しても問題が起こらない程度の必要最小限度にとどめます。



 さて、この庭も来週完成です。木々のおかげで快適に作業できたことに感謝し、そしてこの木々はOさんの家を今後長きにわたって快適にすることでしょう。

 今後の日本が木々と共存して持続的な幸せをつかめますよう、祈りを込めて一件一件庭を作ってまいります。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
神奈川県葉山、Sさんの庭竣工とMさんの庭  平成26年6月23日



 先週からかかり始めた葉山町Sさんの庭が今日で完成です。
 品よくまとめた玄関前の木々が、緑に恵まれたこの町の環境をさらに潤い豊かに見せてくれます。




 木々の向こうに玄関があり、木漏れ日の石畳を伝って玄関に至ります。



 玄関前の石畳には、建て替える前のこの土地にもともとあった大谷石の古材を少し加工して用いています。
 杉苔のグランドカバーが一層古材を引き立てて、品のよい空気感を作ります。



 正面道路から玄関前の庭を見ます。スペースの関係上、高田造園にしてはややこじんまりとした植栽ですが、3年後には2階窓を木々の枝葉が覆うまでに生育し、この家の外観を緑で包み込むことでしょう。



 玄関脇の軒内は土とにがりだけで仕上げた柔らかでシンプルな土間とし、古材や木々の柔らかな雰囲気に溶け込ませていきます。



 木々が入るだけで家屋の見え方は全く変わります。そして年月と共に成長し、変化してゆく住まいの自然環境としての庭は、この町に歴史の趣と風格を与え、育ててくれることでしょう。



 中庭スペースの風景。2階部分にデッキテラスがあります。家屋の設計は、家だけでなく外空間を含めて心地よい住まいつくりを追求する北村建築工房です。
 心地よい住まいは建築者、造園者、お施主との共同作品です。3者が同じ目的と高い意識で住まいつくりに臨んでこそ、本当に居心地のよい住環境となるのでしょう。



 坪庭と呼ばれる中庭スペースは、現代住宅のような狭い区画で外空間を非常に有効に室内の環境改善に取り込むことができるものです。
 わずかな面積で4方の部屋や廊下、空間から一つの庭を様々な角度で楽しむことができるうえ、夏を木陰にすることで、ここは大切な冷気溜めともなるのです。
 本当の意味で外空間を上手に取り入れようとする、意識の高い建築者がもっと増えてくれば、住まいの快適性はどれほど改善されるか、計り知れません。

 

 屋上の木柵の内側はバーベキューデッキとなっています。そのスペースから木々が楽しめるよう、高さ6m~7mの木々を周辺に配しています。



 植栽は常に窓辺を意識し、そして空間の接続を常に意識して景色を繋げていきます。
 木柵の向こうに駐車場がありますが、坪庭側からはその雰囲気を軽やかな木柵と木々で遮蔽します。



 反対に駐車場側には、木柵越しに坪庭の緑が感じられるよう、配慮します。



 また一つ、ここに緑豊かな住まいが誕生しました。今後の生育が楽しみです。
終始ご協力いただきました北村建築工房の皆様、お施主のSさま、充実した時間をありがとうございました。



 さて、葉山町には昨秋に竣工したMさんの庭があります。竣工後8か月目のMさんの庭です。
 非常な熱意で木々を愛し世話されるMさんのおかげで、潮風を受ける高台の環境でありながら、木々はしっかりと根付き、みるみる枝葉を茂らせていきます。



 玄関回廊に伝わる緑の風。



 玄関回廊入口周辺の景。木々の合間に収めてゆくことで家と庭が調和していきます。



 毎日歩く玄関アプローチも、木漏れ日の表情は一期一会に移り変わります。



 強さを増した初夏の日差しに、木々は強い木陰を作って住まいの環境を心地よくしてくれます。



 住まいの微気候を改善する家際の木々たち。



 木陰を抜ける風を室内に取り込むこと、そのかけがえのなさはそこに住んで初めて分かることかもしれません。



 一年もたたずにこれほどまでの庭の落ち着きある佇まいを目の当たりにし、庭を育てるものは他ならぬ、お施主の愛情だということに改めて気づきます。
 作らせていただいた庭を大切にしてくださるお施主様に心から感謝です。






投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
梅雨の晴れ間に・・・・・         平成26年6月11日
 梅雨に入ったとたん、まるでスコールが断続的に続くような雨の日が、ほぼ毎日のように続いています。
 
 鬱々とした季節に、今年はさまざま、とても悲しいニュースが続きます。
 長崎原爆記念館での被災者に対する修学旅行生の暴言、わが子に食事も与えず遊び呆けて餓死させる親、白骨化するまで誰も気づかない・・・なんという時代でしょう。なんという世界でしょう。
 どうしてこんな国になってしまったのか。そんなニュースは見たくもないが、目をそむけてはいけません。
 人間として、あるいは生き物として、あり得ないことが繰り返され、そして今も無抵抗にいたぶられる命がこの世に数知れずあると思うと、居ても立っても居られない衝動に駆られます。
 祈る以外に、自分に何ができるのか、こんな世の中で自分は普通に仕事していてよいのだろうか。
 私は木や植物など、生き物と共に仕事しています。仕事柄、いのちの循環というものははっきりと理解できます。命はすべて一緒で、世界を汚して自分だけそこから逃れられるということはないのです。自分の子供は幸せに、というのは通常の親として当たり前の想いでしょうか、ひどい境遇や、想像を絶する悲惨な状況の子供が世界のどこかにいれば、それはいつかのわが身であり、わが子なのです。
 汚染された環境下で大量死する鳥や魚、全てが我がことと思う、いのちの循環の思考を忘れてしまった先に、こんなおぞましいことが日常的に繰り返されるように感じます。
 
 木々は人に本当の知恵というもの気づかせてくれます。そして、自然を感じる感覚は、人が人らしい心を育てるうえで不可欠なものだと確信します。こんな時代、こんな世の中、毎日木々に接して仕事する中で私たちが感じるものを、できるだけ多くの人に日常的に実感してほしい、気付いてほしい、そんな願いが日に日に高まります。

 梅雨の晴れ間は貴重です。もうとっくに春の手入れの時期だというのに、ここ数日でやっと手入れに廻り始めたところです。天候が読めない最近、仕事の予定が読めずにお待たせしてばかりでございます。
 お待ちくださっておりますお客様、雨を押して、休日も返上して進めておりますが、どうかおまちくださいますよう・・。なお、手入れについてはある程度緊急性を考慮して回る順番を考えますので、困ったこと、早く来てほしいという事情がございましたらその旨をお知らせくださいますようお願いいたします。

 梅雨の合間を縫って手入れに廻り始めた癒しの庭をいくつか紹介いたします。



 東京都小金井市のアパート兼大家のKさんの自宅です。施工後3年経過し、かつては武蔵野のこの地に広がっていた雑木林の風情豊かな住環境へと育ってきました。



アパートの南庭、幅わずか3m足らずの空間です。この写真から、これが都会のアパートに挟まれた、街中のわずかなスペースと思えるでしょうか。



 kさんの玄関から南庭へ。



 北側のアパートエントランスへの伝い。



 アパート部屋に面した木々。わずかなスペースでも、自然環境は再生され、そして育っていきます。
 狭いスペースで大きな木々の効果を発揮してもらうのですから、人と木々との共存のためには年に2回の手入れが必要になります。

 こんな木々の営みがいつも外にある住環境、よい住環境は人の心をきっと優しく包み込んでくれることと確信しつつ、私は一つ覚えのようにこんな庭ばかり作り続けているのです。



 そしてここは横浜市Iさんの住まい、造園施工後ちょうど1年です。庭をとても大切にされるIさんの手塩にかかり、木々は植栽後1年とは思えないほどの落ち着きを見せてくれていました。



 玄関から奥庭。



 デッキからの見返りの景。この庭も10坪に満たないごく小さなスペースです。小さくても命と共にある木々に包まれた住環境は作れます。




 ここは神奈川県葉山町、Mさんの庭、施工後半年です。海風を受ける高台の環境で、木々は必死にこの地に適応しようとしています。お施主のまことの愛情を、木々は決して裏切ることはありません。



 ここは茨城県鹿島市、この4月に竣工したばかりの庭です。



 施工直後の庭はまだまだ緑は薄く、木々もなじんでいないのですが、この庭も3年もすればこの地の風景として、環境として、自律するまでに育ってくるということが、この仕事を続けてきた私たちにはわかります。



 これは千葉県柏市、入母屋民家を改修し、庭をリニューアルしてここも3年目です。木々はあっという間に家屋を包み込み、涼やかな木漏れ日が心地よく、家屋の表情を刻一刻と変えていきます。



 家屋と家際の木々。



 夏の日中、この庭は常に家際に心地よい木陰を作ります。



 庭と一体化するようなリビングからの景。



 和室から。室内にそよ風が流れ込み、木々の葉音が印象的にそよ風に揺れます。



 先週植栽したのは横須賀市Sさんの家、地元湘南で家と庭を一体のものとして住環境を提供しようと本気で取り組む建築工房、北村建築工房の仕事です。
 建築だけでなく、植栽工事も社長はじめ社員たちが地下足袋を履き、土に這いつくばって一緒に庭を仕上げていきます。彼らの姿勢から、住む方にとって最善の住環境とは何か、本気で追及しようとする姿勢を熱く感じ、頭が下がります。

 家があって庭があり、そして温かな家庭がそこで育まれます。
 今の社会の様々な問題は、その根本たる家と庭の崩壊、家庭という、とても大切なものが壊れてしまった結果といった面も大きいように感じます。
 よい家庭をここで育んでもらいたい、そう思いつつ庭を作り続ける私たちですが、同じ想いを抱いて、建築サイドから真剣にお客様家族にとってよい住環境を作ろうとする建築者たちがおられることに、心から勇気と希望をもらいます。



 植栽作業終了後、北村建築工房&高田造園設計事務所の面々です。

 自然な庭を求められる美しく心豊かなお客様や、真の心でよい住環境を考える仕事仲間の間で生かされてきた私には、今の世相はあまりに悲しすぎるように思えます。

 よい家庭を、そしてそこで育つ子供達にも温かな心を育んでもらいたい、我々住まいの作り手が、一つ一つの家庭にそんな思いを込めていくのです。
 よい家庭の営みが育まれますように・・。よい世の中が育ちますように・・。




投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
ダーチャサポートプロジェクト 後篇     平成26年5月25日


 大変お待たせしました。連休明けの五風十雨農場(山梨県北杜市)で開催されたNPOダーチャサポート設立準備会議の報告ブログ後篇です。
 
準備会議の模様報告を兼ねて、これから私たちがこの日本で始めるダーチャサポートプロジェクトの目指すものを少々ここで紹介させていただきます。

 ここ、五風十雨農場では、農場主の向山氏はじめ、賛同する多くの方々と共に、放置された山林、耕作放棄された農地を再生すべく、様々な面白い取り組みやイベントが開催されています。



 水を張って田植えを待つ、五風十雨農場の3枚の水田。ここでは毎年田植えイベントが開かれ、今年もたくさんの方々と泥んこになって田植えされます。
 この田圃はもちろん無農薬無化学肥料で自然栽培され、生き物豊かなかつての水田の環境を再生しながら、安全でおいしく、いのちの力溢れる本物のお米が収穫されます。



 農場の周囲に広がる耕作放棄地。緩やかな傾斜地に、棚田を営んだかつての暮らしの名残が残ります。この田んぼがこれまで幾世代の暮らしを支えてきたことでしょう。
 農地山林はいのちの源です。豊かな大地は数千年という悠久の時間を超えて、永続的にいのちの糧を生み出し、そして同時にたくさんの生き物の循環を育み続けてきたのです。

 緩やかな傾斜地ですが、この棚田を開墾し、永続的な命の財産を後世に残した先人の営みに思いを馳せるにつけて、先人の汗を大地に刻み込んだ素晴らしい農地をこれ以上減らしてはならないと、強く感じます。
 そして、豊かな大地を守り伝え、いのちの循環を再生するべく、いまこそ動き出さねばならない、そんな志を一つに、この農場に人が集まり、そしてダーチャサポートプロジェクトがここでスタートをきりました。

 この地が日本のダーチャ村、スタートの地となるのです。前途多難な道のりかもしれません。しかし、今のような時代だからこそ、本当に変えていかねばならないというエネルギーも情熱も高まるものです。

 震災後の日本、この国の、今という時代に生きることへの不安、将来の子供たちの未来への不安を感じる人が非常に増え、そしてそれはかつてないほどに切実さを増しているように実感します。
 そんな中、いざという時、お金に頼らず、既製のライフラインに縛られることなく、自活して生きてゆくことのできる土地、大災害や戦争等、様々な社会不安の際の避難地を得ることを考えられる方が、私の顧客の間でもますます増えてきました。

 決して持続できない今の社会。本当の意味で永続的に自活して生きてゆく術は、身近な自然との絆を取り戻す中にしかありえません。
 自然の循環の中でしか決して持続的に生きていけない私たちは今、あまりに自然からかけ離れてしまいました。
 すでに多くの日本人が、生活の糧を身近な大地から得る術すら忘れつつあり、お金を得ることですべての日用の糧を賄っているのが現状です。
 そこまではまだ仕方ないかもしれません。しかし、既製のライフラインを人質に取られ、お金の奴隷となってしまっては、善悪の判断までもがたった一時のお金の流れにすり替えられ、流され、そして、持続可能な豊かな未来のために本当に大切なこと、その正しい判断をも見失ってしまいます。

 自然を再生しつつ持続的な循環を暮らしに取り戻し、自活する術と避難地を求める方々を、私たちNPOダーチャサポートが支えていきます。
 普段は都会に暮らしながらも、週末を自然の中で自給的に暮らす、そんな場を、30代40代の普通の子育て世帯が手の届く金額で提供し、そしてその暮らしを必要に応じ、NPOとしてさまざまサポートし、あるいは学びの場を提供していきます。

 自給的な暮らしにあこがれ、必要を感じながらも、それぞれ仕事や生活に追われてなかなか実現できずにいる方はたくさんいることでしょう。また、どうすればよいか、分からぬままに、「老後の夢」へと封印している人もたくさんいます。
 しかし、私は今こそ、しかも自然を知らない今の子供たちが活気を持って遊び、健全な自然観を育ててゆくことができる、そんな場が必要に思います。
 子供ばかりでなく、いのちの循環に気づかせてくれる大地とのかかわりが大切なことは大人も同じです。 
 



 五風十雨農場周辺の放置林や耕作放棄地をくまなく歩き、ダーチャ村用地、構想への夢を膨らませていきます。
 可能性あふれる土地にみんなの表情は自然と明るく輝きます。



 棚田放棄地、ここで暮らしてきた先人によって土地は美しく造成され、ちょっと整備すればすぐに菜園として再生できる可能性を秘めた野を目の当たりにし、、この地でダーチャをはじめようと、みんなの想いが一つになりました。

 この地の地形を壊すことなく農地として再生整備し、100~200坪程度を一区画に、おそらく10数区画程度のダーチャ村として希望者に分け、そしてその暮らしを各々の必要に応じてサポートしていきます。
 各々週末をここで過ごしつつ、自給的な楽園を作ってゆく、そんな暮らしの場を、ごく一般の都市生活者に提供することで、本当の意味で平和で美しい、未来永劫の日本の再生に繋げていきたい、それが私たちメンバー共通のゆるぎなき想いなのです。



 このプロジェクトによって再生を目指すのは農地ばかりでは完結しません。周辺を取り囲む山林の豊かさを取り戻し、育成しつつ、そこから堆肥材料としての落ち葉や木の実、燃料としての薪やホダ木、自給的建築資材など、様々な生活資材を得られるように再生していきます。
 周辺の山林は、かつての里山が村落共同体によって管理され、利用されてきたように、ダーチャ村共有の入会利用地とします。
 ここで薪などの生活資材を得る権利と同時に、みんなで労力を出し合って育成整備してゆくのです。



 農場主の向山さんの案内で、五風十雨農場にて育成、利用している山林を歩きます。
数十年前までは建築資材として欠かすことのできなかったアカマツは、ここ10年程度で急速に衰退し、次々と枯れていると言います。
 さまざまな原因があるのですが、急速な衰退の原因は大気汚染の影響ではないかと考えられます。
 大気汚染に弱いマツなどの針葉樹は森の中でも突出して高く、枝先に汚染物質を吸着します。以前であれば、空気のよい郊外の山間であった北杜市にも、地球規模の広域汚染の影が忍び寄ります。



 ここでは松枯れの跡地に様々な自然植生樹種の苗木を植えて、森の再生に取り組んでいます。



 再生しつつある森の稚樹。一定の高さになるまでは、増え続けるシカなどの食害から苗木を守る作業が必要になります。
 豊かな農地は地域の生き物の循環が作り出すもの、周囲の山林の再生は、生活資材を得るためだけでなく、清涼な水を貯え、強風や土砂災害から暮らしの環境を守り、そして何よりも生き物溢れる豊かな生態環境を作るのです。



 農場のかまど。煮炊き採暖の燃料は周囲の山から得るのです。薪採取などの森林利用によって、山に適度に光が差し込み、豊かで変化に富む里山の命が営まれるのです。
 かつては生活に欠かせないエネルギーはすべて身近な里山の循環の中で賄われてきました。日本のエネルギーの主役がこうした薪炭から化石燃料に取った変わられたのは1960年代のことですから、わずか半世紀前のことです。

 ちなみに、このかまどは数年前に作られながらも今はほとんど使っていないと言います。



 今農場の煮炊きに活躍しているのが、この自作のロケットストーブです。かまどの場合、大量の薪を使ってかまど全体を暖めねばならないのに対し、このロケットストーブは少量の小枝などで効率よく炊事の用が足せる上、簡単に火入れができるのです。

 ちなみに、この五風十雨農場では水、電気、燃料の全てのライフラインがほぼ自給されています。



小さな焚口に小枝をくべると、たちまち炎は煙突に勢いよく吸い込まれていきます。



 その手軽さと効率のよさ、廃品利用で手軽に自作できる点など、週末ダーチャの煮炊きの用にはロケットストーブは必需品になることでしょう。



 この日の昼食は、周囲で取れた山菜です。



 周囲の野山から採取して、自家製の油で山菜てんぷらのできあがりです。
 今回料理してくれたのは、ダーチャサポートと提携的に協力くださるNPOメダカの学校の方々です。
 山菜野草の知識があれば、春の野山はおいしい食べ物であふれているのです。




 お米は五風十雨農場の自然栽培米。



 お味噌も完全無農薬の自家製大豆から作った、とてもおいしいお味噌汁。
 いのちの味というべきか、いのち溢れるほんものの食材のおいしさ、昔は当たり前だったのでしょうが、今の時代、健康な水と太陽と大地が育む素材本来のおいしさに出会うことで大きな感動に包まれます。



 調理して食べる楽しみ、本当の満足感、ここでの食事は大切なことに気づかされます。



 五風十雨農場マザーハウスでのダーチャ談義は夜も続き、薪ストーブと少しの照明の下、緩やかな時間が流れます。





 隣の方から庭の水路に生えるクレソンをいただき、



特産の行者ニンニクを、摘み取る。今日の夕飯も楽しみ。
 
そんな暮らしを望む人に、できるだけ提供していきたい。同時に、耕作放棄地や里山の再生に繋げていきたい。そんな思いで、ダーチャサポート活動を始めます。

 そして、それが決して、時間やお金にゆとりのある一部の人にしか手に届かない別荘のようなものではなく、例えば、庭のある暮らしか、週末の自然の中での暮らしの場か、そんな選択ができる程度の金額で、できるだけ今の都会の子育て世代の人たちに提供し、サポートしていきたいと思っています。
 
 自然の中で生きる力を身に着け、大地の恵みに感謝し、感動しつつ暮らすこと、そんな人たちが増えることでこの国はどれほどよくなることでしょう。
 造園の仕事、そしてダーチャサポート、いずれも日本、地球の美しい未来のために力を尽くしてまいります。

 NPOダーチャサポートプロジェクト、多くの方々のご賛同、ご協力を心よりお待ちしております。






投稿者 株式会社高田造園設計事務所 | PermaLink
         
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