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雑木の庭つくり日記

杜の学校 矢野智徳さんの自然農    平成26年9月7日


  ここは山梨県上野原市、大地の再生医、矢野智徳さん率いる杜の学校の自然農園の田んぼです。
 低く柔らかな雑草が心地よく、独特の美しさと健康な様相が伝わります。約4m弱の間隔に大地の呼吸を促す水脈が配される様子に、矢野さん独特の思想を感じます。ここには静かで心地よい空気の流れを感じます。
 
 大地の呼吸を無視した間違った土木開発によって失われた、土中の水脈・気脈を再生し、荒れてしまった土地を、命育む豊かな大地へと再生することを天命として活躍する矢野さんのことを私が知ったのは昨年の末のことでした。
 もともと私は、庭も自然環境も街も、そして人の心に至るまで、荒廃しつつある自然環境との絆を取り戻し、豊かに環境改善してゆくことを大きな目的に、今の造園の仕事に導かれてきたものですから、矢野さんの考え方は私の心のアンテナに強く響き渡りました。
 それ以来、矢野さんの考え方や活動を調べてゆく中で、直接お会いしたいという気持ちが抑えきれないまでに膨らみ、そして先週ようやく、矢野さんを訪ねることができたのです。

 とは言えども、全国津々浦々の要請を受けて、忙しく飛び回る矢野さんの都合に合わせることは並大抵のことではありません。
 アポイントをいただき、三顧の礼で朝早くに訪ねるも、遠方の現場からいまだ帰らず、、やっとお会いすることができたのは夕方に差し掛かる頃のことでした。

 それまでの間、矢野さんの下で自然農を担当されている舘野昌也さんの案内のもと、森の学校自然農園を見学して回ります。



 昨年まで八ケ岳山麓で自然農を営んでおられた舘野さんはその道20年近いベテランです。自然農のこと、そして矢野さん流の取り組みについて、丁寧に説明していただきます。 
 この田んぼの畔もそうですが、矢野さんの再生した土地は、常に背の低い草に覆われています。雑草は根元から刈ることをせず、ちょうど風になびいて先端が揺れる程度の高さで葉先を刈ってゆくと言います。
 根元から刈ってしまえば草の根はごぼうのように荒く深くなり、そしてまた勢いのよい草丈へと延びていき、そのうえいつまでも土が柔らかく改善されてこないと言います。ちょうど風になびいて葉先が飛ばされるように、一定の高さで葉先のみ勝ってゆくようにすることで、雑草の細根が土の表層に張りめぐらさせていきます。それが土の表層に有機物を供給し、土中の水分を引っ張り上げて乾燥することもなく、 豊かな生き物の層が育まれ、土の団粒化が促進するのです。土がゆくなっていけば根の呼吸に必要な空気も土中に円滑に入り込み、草は強い根を伸ばす必要がなくなる分、荒々しく草丈を伸ばすことなく低くおとなしくなってゆくのです。

 私の扱う樹木も同様、太い枝を切り詰めれば、それに繋がる太い根が傷みます。そのため驚いた木は我を失い、新たに太い根を勢いよく徒長させると同時に、地上部でも勢いのよすぎる徒長枝が伸びて樹形を乱し、木々も土も健康を損なってしまう、それと全く同じことだと気づきます。

 荒々しく背丈を伸ばす草は大地の呼吸不全の証で、気脈水脈を改善し、水がゆっくり全体にしみ藁るように地表に細根が張りめぐらされてゆくことで、大雨が降ってもすっと吸収されてゆくような、健康で柔らかな土地へと生まれ変わってゆくのです。



 そして田んぼの中に3.6m間隔で配された素掘りの溝と、その中に一定の感覚で縦穴が掘られています。
 これが土中に水や空気の円滑な流れを生み出し、何もせずとも自然と土が改善されていき、豊かな命育む健康な田圃となります。



 田んぼの中の雑草は基本的に低い高さで稲と共存させていき、、アレロパシーが強く生態系を乱す種類のみを選択的に引き抜いては倒します。基本的にここの有機物は持ち出さず、全てを自然循環の中に帰していきます。



 さらに驚かされたのが、田んぼに流れ込む水量と流速の調節の仕方です。そこにある小石や草や枝の欠片を用いて、水量と流速を調整し、水に加速度がつかずに全体にしみわたるように流し込むのです。
 矢野さんの土木全体に言えることですが、水の扱いの繊細な配慮に驚かされます。
 近年頻発する土砂崩壊、水の怖さは多くの人が感じていると思いますが、矢野さんは、水に加速度をつけないように流して全体にしみわたるようにすれば水は決して悪さをしないと言います。
 
 人工的な弁などで水量を調整するのではなく、小石や草でといったその場の無機物有機物で流れのリズムに様々な動きをつけて勢いを分散し、田んぼに引き入れます。勢いが強ければ泥水となり、それが地表の微細な空気穴を塞いてしまい、土地は呼吸不全に陥るのです。

 マクロな大自然も、こうした小さな自然もすべては相似形という矢野さんの考え方が、こうした繊細で細やかな配慮を生み出すのでしょう。



 そしてここは、耕作放棄された荒れ地に円滑な水や空気の動きを促すように水脈を配し、地形を作った傾斜地の自然農畑です。
 葛で覆われた固い土地を改善してゆくために深い溝をほり、水脈気脈を土中から改善します。斜面はやはり低い草を刈りすぎずに柔らかに残すことで根を地表に張りめぐらせて土を改善し、その上どんな豪雨でも決して流亡しない土地を鎌一本で維持するのです。



 それにしても細かく不自然さの感じられない地形の作り方に息をのみます。矢野さんが地形を作る時、その土地の形状だけでなく、その水源となる遠くの山並を見て作ると言います。
つまり、遠くの山襞から水脈は大地の血管の用に繋がっていて、それを断ち切ることなくこの小さな斜面に繋いでいけるよう、地形を配してゆくため、その形はおのずとその山並みと相似形のように繋がる形となっていくのです。大地の呼吸や水脈を感じ取り、そして地形を造作する、その感覚に驚き、そして心が熱く震えます。



 舘野さんから自然農の基本的な考え方の説明を受けます。
 気脈通じる大地を壊さず、草をはぎ取る部分は播種する部分のみの最小限にとどめます。そして、土が露出しないように刈り草をまぶして大地を守ります。基本的に肥料も与えず、有機物はこの場所で循環させて持ち出しません。
 開墾したばかりの自然農園ではその生育もまちまちですが、こうして大地の気脈水脈を再生し、有機物のバランスを整えてゆくことで日ごと年ごと土が改善されてゆくのです。



 傾斜の緩い場所には広い区画、雑草に負けずに生育するソバ。



 地這い性のキュウリやスイカ、カボチャなどはこうした広いマウンドで伸び伸びと育てています。
 やはり畔は深く、そして一定間隔に落とし穴のように縦穴が掘られ、それが土中に空気と水の流れを促します。
低い雑草に覆われた自然農園、これが縄文から近世まで、日本だけでなく世界中で長く続いていた自然と共存する持続的な栽培の在り方だったのでしょう。

 矢野さんのこと、書きたいことはまだまだたくさんありつつも、時間が足りず・・、追ってまた、その取り組みや素晴らしい考え方を紹介していきます。

 お忙しい中長い時間に渡ってご案内下さしました舘野さん、どうもありがとうございました。
 

 


投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2014年9月 7日 11:21) | PermaLink