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雑木の庭つくり日記

謹賀新年 筑波山より         平成26年1月6日


 ブログを訪ねてくださる皆様、あけましておめでとうございます。

 今年1年が平和で穏やかな年でありますように。そして将来の日本や地球の未来への希望が見える年となるよう、惜しまず努めていけますように。

 写真は昨日の筑波女体山山頂です。
 関東平野を一望する常陸の国の独立峰、筑波山は900mに満たない低山でありながら、その尊崇の深さと歴史、広大な関東平野の人々の営みとのかかわりの深さゆえ、標高1000m未満の山の中で唯一、日本百名山に名を連ねています。

 関東平野に人が住み始めたころから祀られているとも言われる筑波神社のご神体であるがゆえに、今に至るまで守り繋がれてきた貴重な自然は、人の暮らしとかかわりの深い低山としては類例を見ないほど、多様で豊かな植生が今も残され、数万年単位の関東平野の木々の変遷を知る上での大変貴重な森が、先史時代から現代にいたるまで連綿と続くつくば信仰によって守られてきました。

 筑波山系の植物種について、茨城県自然博物館の調査によれば1000種類以上の植物が記録されていると言いますが、一つの低山でこれほど多様な植生を有する山は、関東のみならず全国でもほとんど残っていないのではないでしょうか。



 ご神体の山頂に至る山道には点々と祠が祀られます。かつての山岳信仰のそれと同様、祠はエネルギーを放つ奇岩巨石の傍らに祀られます。

 はるか3億年前の地殻の大しゅう曲運動によって生まれた筑波山塊にはむき出しの花崗岩巨岩奇岩がまるで地球の化身のように力強い姿を見せます。
 地球の奥底から湧き出すような岩の力に尊崇の念を持ち、そして敬い祀り、自然の一部である人間の分をわきまえて暮らしてきたかつての日本。



 山頂付近のブナの大木。
 筑波山では標高600mあたりを過ぎるとちらほらとブナが混ざりはじめ、標高700m付近を過ぎると、ブナが大木となって林冠を優先する落葉広葉樹林となります。
 関東南部ではもっとも標高の低い山域に優先するブナ林だと思いますが、きっと1万年以上前の氷河期には関東平野一面にブナの森が広がっていたかもしれません。
 当時のブナの森は、その後の気温上昇によって北方、あるいは高山に追いやられ、ここ筑波山では山頂部に避難したブナたちの子孫がこうして生き残り、隔離された形で連綿とその森を繋いできたのでしょう。



 筑波山のブナは、日本海側や冷温帯気候域のブナ林とは明らかに雰囲気が違います。実際に葉は小さく、遺伝的にはやはり暖温帯気候域の紀伊半島大台ケ原のブナに近いことが分かってきました。
 1万年の昔からゆっくりと進んだ温暖化の中で、つくばのブナは孤立したこの地域の気候変動に対し、ゆっくりと遺伝的に適応させてゆくことで生き延びてきたのでしょう。
 壮大な時間を生き続ける木々の命を目の前にして、心打たれる思いです。

 急速に進む現代の温暖化の中、ここ30年間の記録だけでもブナの衰退、生育範囲の縮小が分かってきました。
 下の方から急速に常緑広葉樹林へと置き換わっているのです。今の温暖化のスピードは、木々の適応できるスピードをはるかに超えていることは間違いないようです。

 平均気温が4度上昇すると、日本の9割のブナ林が消失するという予測もありますが、私たちも木々も、これまでの数万年単位のレベルでの気候変動を、今後数十年で経験することになるかもしれません。それが何をもたらすかは実例など全くなく、誰にも予測はできないことでしょう。

 私たち人間の暮らしの不始末だから仕方ないとは言えども、木々と寄り添いながらこれからの時代を生きていこうと思います。
 
 とにかく、今、冬枯れの低山の美しさ、葉を落とした枝葉が陽光を反射して輝く木々の美しさを心一杯吸い込みながら、歩きます。



 ブナ林の下、標高400~600m辺りに広がるのはアカガシの巨木が優先する太古の香り漂う常緑広葉樹林です。
 アカガシも関東平野の平地にも、ある程度まとまった社寺林などの深い森に点在するように残っていますが、これほど優先するアカガシの森はなかなか見られません。
 


 手前がモミ、奥がアカガシです。林冠の多くをアカガシとモミが優先する針広混交林がブナ林のすぐ下まで迫り、標高700m付近できっぱりと、下が常緑樹林、上が落葉樹林と別れてせめぎ合っています。
 関東南部の低山域の極相林として、常緑広葉樹林にモミやツガなどの針葉樹が混交するようですが、大気汚染や温暖化の影響を受けやすいこれらの針葉樹は至る地域で衰退を見かけます。
 モミなどの針葉樹が常緑広葉樹林の中に混交することで、森の階層が上部に一段階増える分、はるかに森の生態的な豊かさが増すのですが、この光景も今後ますます貴重なものとなってゆくことでしょう。
 そう思いながら、この深く豊かな森を歩くにつれて、今の景色を余すことなく心に焼き付けようという想いに駆られます。



 それにしても立派なアカガシの巨木がここにはふつうにみられます。
 カシの仲間では関東の平野部ではシラカシが一般的に見られますが、そのなかでアカガシの混在はその森の歴史と植生的な豊かさの指標にもなります。
 そのアカガシがこれほどまでに優先する貴重な森がここに広がっています。



 筑波山は関東平野の名峰です。今年の山歩きはここから始まりました。
 そして、霊山を歩き、大地の感触を確かめるように呼吸を合わせて大地を踏みしめます。

 明日から仕事始めです。
 これから始まる一つ一つの仕事に一期一会の気持ちで誠心誠意取り組み、与えられたご縁を大切にしながら生きていこうと、山に誓います。

 今年もよろしくお願いいたします。
 



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2014年1月 6日 16:00) | PermaLink