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雑木の庭つくり日記

高田造園の一週間        平成24年11月17日
 年末のあわただしさが押し寄せ、気持ちばかり焦ります。
 ブログすら書く間もないのに、日々感動溢れる出来事が、月日と共に通り過ぎていきます。今週もいろいろありました。
 先週末からの激動の心模様を、駆け足でご紹介します。



 先週末に訪れた新潟駅、コンコース沿いのケヤキの紅葉です。日本海からの風が吹き抜ける新潟市内の空気は清らかで空気が生き生きとしており、首都圏とはまるで違います。
 2階部分のコンコースからは、街路樹のケヤキの枝葉が圧倒的なボリュームで葉音を響かせ、まるで森の回廊を歩いているようです。
 木々は、下から見上げる目線だけでなく、小鳥の目線で中空から枝葉の懐を見るとまた、一本の木の懐深さや温かみが感じられるものです。
 私が庭を作る際、2階窓からの景色を重視して木々を配植する理由はそんなところにあります。
 このコンコースから見るケヤキ並木、本当に素晴らしく、何度もここを通りたくなります。



 ここは日本海航路の拠点、新潟港佐渡汽船周辺緑地です。強い海風が常に吹き付けます。
 港の厳しい環境下、それに耐えて、この地に生き生きと枝葉を伸ばす緑地の木々は、密植された雑木群です。



 これは同じ場所、佐渡汽船周辺のタブノキ並木です。潮に強いという理由で最近よく、タブノキが海辺の環境に植栽されますが、ここに植えられたタブノキはほとんどすべて、幹の先端が枯れてしまっています。



 頭枯れしたタブノキ。
「潮に強いからタブノキを植える」という教科書的な発想で、本物の緑化など決してできません。
樹種ではなく、植え方の問題です。
 タブノキのような、成木移植直後の根系成長の穏やかな樹種を、高木一本単位で厳しい環境にいきなり植えれば、こうして傷んでしまうのは当たり前です。

 本物の緑化とは、時間をかけねばならないのです。植栽時点での見栄えばかりを優先し、大木をいきなり持ってくるのではなく、土をしっかりと改善して環境適応力のある小さめな木をたくさん植えて、お互い守りあいながら健康に育ててゆくという、気長な視点が緑化には必要です。



 単木で植栽されたタブノキが軒並み傷んでしまっているのに対し、同じ時期に密植された雑木たちは頭枯れもほとんどなく、常に潮風にさらされる環境においても、こうして健康に生育しているのです。
 樹種はシラカシ・アラカシ・コナラ・クヌギ・カシワ・トチノキ・シイノキ・イタヤカエデなど、決して塩害に対して強いとはされていない樹種ですが、要は樹種ではないのです。密植して木々がお互い守りあい、健全に生育できる環境を作ることで、こうした環境で健全でボリューム豊かで自立した緑地が生まれます。もちろん、この緑地の維持管理のための手入れは必要ありません。



 ここは佐渡島最南端の地、新谷岬です。対馬暖流がぶつかる岬周辺の気候は温暖で、南国の雰囲気さえ感じされます。

 今回、社団法人日本茅葺き文化協会の研修会参加のため、はじめて佐渡の地を訪れました。



海岸の岩は玄武岩質の火山岩で、さざれ石のような独特の風合いを見せます。土のほとんどない海辺の岩の上にも松が凛然と海風に立ち向かいます。こうした厳しい環境の下での松の力強さには、感銘を受けます。



 そして海辺の玄武岩の崖上の紅葉はイタヤカエデです。松にイタヤカエデがこの地の海辺の最前線、そしてやや海岸線から奥まったところからタブノキ林が始まります。



 海辺の護岸にイタヤカエデの落ち葉。私の地元千葉で、海辺に自然林のカエデなど、ありえません。しかしこの土地では海岸沿いにマツとカエデ。これが、自然というものなのでしょう。
 ここではイタヤカエデが海辺の植生の最前線を担っているのです。



 海辺ののどかな農村を歩きます。防風林としてのマサキの生け垣に囲まれた暮らしの風景。



 時期には風速40~50mもの季節風が吹き荒れるという島の気候。猛烈な風をどう凌ぐかが、この地に住まうための条件となります。ここでは竹や稲穂を使って防風壁を作っています。



 岬の崖上に位置する家屋。建物の奥は海岸まで切り立った崖です。それを感じさせない豊かな佇まいの理由は、この生活環境を守る周囲の木々にあるのでしょう。



 崖の上の家屋と畑、海辺の厳しさを感じさせない豊かな暮らしの環境を作っているのは、タブノキを主体とした周辺を取り囲む木々の力なのです。
 この木々がなければこの楽園の暮らしはあり得ません。我々人間の暮らしの在り方、豊かな環境、決して忘れてはならないものがここにあります。



 海岸線に延々と続くタブノキの純林。この樹林が海岸沿いの田畑や生活環境を海風から守ってきたのです。
 暖温帯気候域を代表する素晴らしい樹、タブノキの純林も、本州、特に関東近辺では今は見られません。
 日本海に浮かぶ佐渡の地に、日本の原風景たるタブノキの樹林が残っていたことに震えるような感動を覚えます。



 タブノキの樹林に分け入ります。林床植生の乏しさからも、この樹林が何度も伐採されては再生してきた若い森であることが分かります。
 人は学習しない生き物で、ついつい木々が大きくなると、伐ろうとします。そして伐ってしまった後に、その存在がいかに生活環境を守る上で欠かせないものだったかに気付くようです。
 そしてまた、森を育てる。しかし、いつしかそれが当たり前になって、木々の存在価値を忘れた次の世代の人によってまた伐られてしまうかもしれません。
 木は世代を超えて年月をかけて育ちますが、伐るのは一瞬です。そして伐ってしまったら最後、それまで何世代にもわたって人間の暮らしを守ってきた環境が即座に失われるのです。

 緑というものの価値、それは私たち人間の寿命や尺度で考えてはいけません。




 佐渡島南西端、宿根木の集落は海風に耐えるように実に密集した佇まいを見せています。



 地元の石を切り出して作られた石畳がこの集落の歴史を物語るようです。潮風を避けるように、家々が密集し、互いに守りあうことで、この日本海航路の拠点としての海辺の街が保たれてきたのでしょう。



 この地域独特の杉板葺きの屋根。風の強い土地柄、屋根を抑える石にほぞ穴をあけて、一石一石固定しています。



 屋根の材料は薄く裂いた杉板です。海風から守るよう、くりぬいた岩の合間に保管されています。
 その土地の自然環境がかつての豊かな家屋の風景、屋根の表情を作ります。



佐渡島 国中平野清水寺、参道の杉の巨木です。海風が佐渡の山並にぶつかって上昇気流となり、この地には日常的に濃い霧が発生します。そんな風土が杉の生育に非常に適しているため、この島には巨木となった杉の木がいたるところに見られます。
 杉の大木は、豊かな気候風土の象徴と言えるでしょう。



 佐渡島国中平野のかやぶき民家。かつてはこの島の家屋はすべて茅葺き屋根だったようですが、ここ数十年、急速にかやぶき屋根の家はなくなっていきました。その消滅速度は本土以上だと言います。
 「茅葺き屋根の家を瓦にしたら暑くてとても住めなくなった。」という話をよく聞きます。茅葺は日本の気候風土に適応した屋根。それが長年快適で豊かな住まいを作り、暮らしと日本の心を守ってきたのでしょう。

 わずかに残る、国中平野の茅葺き民家を訪ねて回ります。
ここは今も屋敷林は残ります。日本海岸平野によく見られるとおり、この地に環境的にも適応する有用木の杉が主な屋敷林の構成樹種となります。



 佐渡島トキ繁殖センターのゲージの中で細々とその命を繋ぐトキ。学名「ニッポニアニッポン」。
 その学名は「日本の中の正真正銘の日本」と聞こえます。
 かつては日本全土の里山に生育した美しいトキは、かつての豊かな自然からの、天の遣いのような存在なのでしょう。
 最後に野生で見られた地が、かつての自然と暮らしの調和の息吹が最後まで残った佐渡島だったということ、かつての豊かな日本の自然、その消滅とと共に、野生のトキも日本の自然界から消えていきました。
 トキを野生に戻そうとする試み、しかし、もっと大切なことは、我々を取り囲むいのちの源である豊かな環境を再生し、自然と人との絆を回復しなければならないということではないかと、そんなことを考えさせられた旅となりました。



 そしてここは、千葉市の臨海スポーツ公園、フクダ電子アリーナ正面広場です。
 ここに100年の巨木を育てるべく、自然植生樹種15種類47株を2.5m四方の区画に密植して植栽し、そして1か月が経過しました。



 海風の絶え間ない埋立地の環境下にもかかわらず、木々は枝先まで枯らすことなく、とても健康な生育を見せていました。
 これが数年後には10mの樹林にまで成長してゆくことを思えば、木々を育てる喜びに夢が膨らみます。



 樹林の影が美しく大地に映えて、季節の変化と時間の移ろいを感じさせてくれます。



 この樹林区画は「スダジイふるさとの森」と名付けられ、千葉市に移管されました。
11月15日、記念式典です。



 木々にとって厳しい工業地帯の埋立地。
 そんな土地だからこそなお、人が心豊かに生きてゆくために緑が必要なのです。

 これまでのような短絡的な見た目重視の緑化ではなく、100年の未来を見据えた、次世代のための緑化の試みがこの地でなされました。
 素晴らしい記念樹植栽の試みに快く出資くださった千葉中央ロータリークラブの皆様、そして
この試みを受け入れ、ご支援くださいました千葉市関係者方々に改めて深く御礼申し上げます。



そしてここは、昨日手入れにうかがった茨城県坂東市Uさんの庭です。施工後丸2年が経過した秋、庭はすっかりとこの土地の自然になじんでいました。



 豊かな木漏れ日が季節を演じます。木々があってはじめて豊かな住まいが生まれます。





 そして今日は、千葉県香取郡、Mさんの庭の真ん中に、小さな、しかし100年の森を作るお手伝いにうかがいました。
 右手前の女性がMさんです。高田造園総出で、Mさんの小さな森つくりを手伝います。



 1.6m四方のマウンドに8種類27株の、この土地の自然植生樹種の苗木を密植しました。
地中は1mほど掘り下げて、剪定枝や、腐葉土を混ぜ合わせて盛り上げています。

 この木々が5年後にはきっと、最大樹高6m以上の森に成長していることでしょう。そしてその後はどのようにこの木々を育ててゆくか、木々もMさんご夫妻と共に表情を変えてゆくことでしょう。

 これが私たちの一週間です。さて、また年末に向けてノンストップで駆け抜けます。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2012年11月17日 16:34) | PermaLink