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雑木の庭つくり日記

雑木林と八つの家 植栽第2弾     平成24年5月12日
 鹿児島県姶良市で進めている「雑木林と八つの家」プロジェクト、新たに1棟と公園の植栽を終えて昨夜帰郷しました。

 これまでもこのブログを通してご紹介してきました通り、このプロジェクトは、駅前の普通の住宅街を雑木林で包み込み、そこに、かつての日本の街や村では当たり前だった豊かな自然とコミュニティを再生しようという、古くて新しい街づくりの試みです。
 今年の1月に1棟が完成し、そして今回、新たに1棟と分譲地内の共有緑地の植栽にうかがいました。
 素晴らしい仲間とともに、素晴らしいプロジェクトがまた一歩進んだ感動に包まれ、熱き心でこのブログを書きはじめました。




 先の1月に竣工した分譲地の第一号ハウスです。雑木の新緑は南国鹿児島の気候風土の下でもしっかりと芽吹き、力強くこの地に適応しようとしていました。そして、清く涼やかな木立越しに佇む家屋は街の美しい風景となりつつあります。



 そして、今回新たにこの分譲地に竣工するのはこの家屋です。片流れの屋根は大きく、建物単体では潤いも温かみもなく、威圧感すら感じさせられます。
 この殺風景な家屋の風景を、この分譲地内の美しい景観要素にしてしまおうというのが、今回の植栽なのです。
 さて、この街の風景をまたさらに美しくしてしまおうと、 武者震いを感じながら植栽に臨みます。



 今回の植栽工事は、別の住宅区画に隣接した公園緑地部分から始めます。レッカー車3台に満載した大量の木々が、阿蘇の孤高の雑木の庭師、グリーンライフコガこと、古閑さんの山や畑から続々と到着しました。



 一本、そしてまた一本と木を植えるたび、周囲の住宅の見え方が変わってきます。

 植栽の途中、写真奥の隣家のきれいな奥さんが出てこられて、満面の笑顔で私たちに言いました。
「ちょっと、すごいです!。うちの窓から見たらすごくいい景色です。うれしい!。ここに家を建ててよかった!。宝くじに当たった気分です。本当にありがとうございます!」
 と、全身で喜びを表現してくれたのです。

 木を植えて、そしてお施主ではなく隣の人に感謝されるなんて、木を植える人間として冥利に尽きる出来事です。
 このプロジェクトのために、もうすでに5回ほど、この鹿児島の地を訪れました。
 訪れる度にいつも思うことは、自然豊かでゆとりがあって、そして桜島とともに生きるこの地の人たちはなぜこんなに温かいのだろうか、いつもそんなことを思います。
 
 木を植えて、隣の人は喜び、そして通る人、子供たちまで私たち職人に挨拶してくれて、喜び感謝してくれる。こんな心温かな環境で仕事できる幸せに、私たちはこの土地や、この地に住まれる方々に何か恩返しがしたい、そんな気持ちで植栽してゆくのです。



 公園の木々が大方植わりました。5月と言えども、鹿児島ではすでに夏の陽気です。涼しい気候風土の阿蘇から運ばれてきた木々が、鹿児島の強い日差しにさらされて痛まぬうちに植えてあげないといけません。
 公園の植栽の次には、すぐに新築家屋の植栽にかかります。



 大きな家屋の景色を緩和するため、樹高8m程度の雑木を中心に植栽していきます。
 植栽するにつれて、殺風景だった家屋が見る見るうちに潤いのある景色に変貌していきます。
 南西に向いた開口部は、木々がなければ夏の午後の日差しをまともに受けて、そしてこの家の夏は空調なしでは過ごせない不健康な住まいとなってしまうことでしょう。
 この家屋で少しでも自然のままの快適な暮らしの環境を実現するため、雑木の木陰で2階の窓からの日差しを緩和しなければなりません。



 家屋表側の植栽が進むと、道路沿いの景色が潤い始めます。



 新たに植栽した右手前の木立と、1月に植栽した左奥の家屋の木立と風景が繋がって、町全体が潤い始めました。美しい街の景色が見えてきました。



 やっとこの街の3分の1の植栽が終わったところですが、町全体が完成した時の光景はすでに、このプロジェクトのために汗を流すみんなのまぶたの裏にはっきりと映っているようです。
 一人一人がその瞬間を夢見て、熱き心でひたすら汗を流します。とても尊い体験に、感謝の思いが溢れます。



 1棟の植栽が終わると、あれほど殺風景だった家屋の景色ががらりと変わります。そして、南国の灼熱の太陽の下、道路に木漏れ日が揺れます。



 道路から見た分譲地の景色。家屋はまだ2棟しか建ってはいないのですが、すでに木々の風景が連続して、植栽したばかりなのにとても豊かな街の景色が生まれつつあります。
 たった2棟が建っただけでこの景色なのです。8棟が完成し、そして植栽を終えたとき、どれほど素晴らしい街がここに誕生するかと想像すると、居ても立っても居られないほどの高揚感を感じます。
「いいねえ。ここは姶良市の名所になるよ。」と、通りがかりの人が声をかけてくれました。

 造園を志し、はやくも20年、ひたすら私は自然に近い住環境を模索してきました。それこそが必ず、人のため、子供たちのため、そして良き社会のため、よき想念を生み出すために役に立つと信じて、ここまでやってきました。
 そして今、「やってきてよかった。」と、心の底から喜びと感動が湧きあがります。



 そして一昨日、この分譲地にテレビの撮影が入りました。ちょうど今回の植栽に時期を合わせての撮影です。



 夜の撮影風景。この日本に新たに生まれる豊かな街がライトを浴びて幻想的な色に包まれます。



 このプロジェクトを提唱実行されているのは、地元の姶良土地開発有限会社の町田社長です。
 質実と理想の高さを鑑みると、この街づくりはおそらく日本随一の試みと言えるでしょう。薩摩の地から始まって、そして全国の街が緑豊かで誇れるものになっていきますように、そんな願いを込めて、困難をものともせずに、このプロジェクトが進みます。
 私自身、町田社長の心意気に惚れて、このプロジェクトに骨身を捧げる決心を固めたのが2年前のこと。そして、阿蘇の孤高の庭師、古閑勝則氏と共に造園計画を進めてきました。
 何事も、本物の人の心が人を動かします。



 この町で育つ子供たちはきっと、本来の人間らしい美しく温かな心を育んでくれるに違いありません。そして大人になってこの地を離れた後も、懐かしいふるさとの思い出を胸に、確かな心で強く生きてくれることでしょう。



 阿蘇、千葉、鹿児島と、志一つにこの地に集まり、そしてまたひと仕事を終えてお別れのときが近づきました。記念撮影です。一抹の寂しさを感じ、また次の再会を心待ちにして、そしてそれぞれの故郷に戻ります。
 素晴らしい仕事、共に汗を流した3日間、たった3日ですが、私たちにとってはそれは永遠の3日間となるのです。



 今回の仕事を終えて、地元の蒲生八幡神社にお礼参りに訪ねます。



 この木は日本一の巨樹とされるクスノキです。根元の周径は33m、樹齢1500年と言われます。
 素晴らしい巨樹、1500年の様々な天災人災気候変動にも耐えて命を繋いだ大きな木。


 
 八幡神社の鎮守の森には、樹高40m以上の常緑樹林が広がります。この樹林を目の当たりにして、南国鹿児島の太陽と雨の恵みを感じます。
 それにしても、5月なのに暑い中での作業でした。それが鹿児島の気候風土であることを、この常緑樹林が語ってくれるようです。
 この地に、はたして落葉雑木の森を作ってよいものか、今回の街づくりに際してわずかな疑問が胸に去来します。山はほとんどが常緑広葉樹で、私の地元のような落葉樹主体の雑木林はあまり見られません。
 きっと、南国の植生の移り変わりのスピードが速いのでしょう。早生樹種の落葉雑木は確かにこの地の自然植生の種として存在しているのですが、同時に常緑広葉樹の生育スピードも速くて強いために、関東近辺に比べて圧倒的に短い時間で土地の本来の常緑樹林が誕生するのでしょう。

 雑木を植える、それは夏は涼しく冬は暖かい住まいの自然環境をつくるということです。もちろん、南国鹿児島ですので、土地本来の潜在的な自然植生樹種である常緑広葉樹を多用しながらも、住まいの環境改善林を作ってゆくのです。
 この土地で強く生きていける環境林を作るため、木々が心地よい環境を作っていけるように植栽を組み合わせます。木の声に耳を傾けながら、植栽し、そして住まいと木々とが心地よく妥協し合える環境を作ってゆく、それが私たちのここでの仕事なのでしょう。

 次回の植栽は、11月の予定です。それまでに2棟が竣工する予定です。家が建つたび風景が生まれる、それが本来の住まいつくりというものなのでしょう。

 地元の姶良土地開発の皆様、阿蘇のグリーンライフコガの皆様、そして温かく迎えてくださった地元の皆様、本当にお世話になりました。ありがとうございました。

 
投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2012年5月12日 17:16) | PermaLink