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雑木の庭つくり日記

茅葺き屋根技能研修 in五箇山  平成23年11月22日 


 ここは富山県の山間の里、五箇山相倉集落です。
 冬は雪に閉ざされる山奥の集落に、美しい合掌造りの茅葺き屋根で有名な民家の風景が今も残ります。



 合掌造りの屋根の名称は、屋根の破風のラインがちょうど人が合掌した時の両腕のようにとがった三角形に見えることに由来します。
 山間奥地にひっそりと伝わる合掌の里、山間の風景にこの屋根の形が実によくなじみます。そして、この土地で長年の間、敬虔に命を繋いできた山人の暮らしと文化が偲ばれます。



 五箇山地方の茅葺き屋根の特徴は、破風(はふ)と呼ばれる屋根の側面に顕著に見られます。
隣接する集落、白川郷の茅葺き屋根の破風は、きれいに刈りそろえられているのに対して、五箇山の破風は刈りそろえられることなく、なんとも柔らかな丸みを帯びています。山奥の素朴で優しげな暮らしぶりが、この屋根の形状に現れているように感じます。



 茅葺き屋根の軒裏の表情。五箇山では昔から、アサギの穂を軒先の下地に敷きつめてから、茅をかぶせていきます。
 茅とは、屋根の材料に使うイネ科植物の総称ですが、この五箇山や白川郷などでは、カリヤスと呼ばれる繊細な茅の穂を用いて屋根を葺いてきたようです。

 茅葺き屋根の家屋の中は夏でもとても涼しく、どんなに暑い日中でも中に入るとひんやりした空気が流れています。茅の断熱効果に加えて、水分を含んだ屋根からの蒸散による気化熱の放出によるところが大きいのでしょう。
 今は失われつつある、かつての素晴らしく機能的な茅葺き屋根が、最近になって見直されてきているようです。
 一つの屋根を葺くために用いる茅の量は膨大なもので、その作業も多大な労力を要します。
かつては「結」(ゆい)と呼ばれる集落ごとの無償の労力交換によって、茅葺き屋根が世代を越えて、日本の歴史の中で維持されてきました。
 またそれは、農林業を生業とする自然と共にある暮らしの中で必然的に生み出されてきた光景とも言えます。



 先の週末、この世界遺産集落 五箇山で、茅葺き技能講習が開催されました。
 主催者は社団法人日本茅葺き文化協会(代表理事 安藤邦廣筑波大学教授)です。
 この講習会に日本各地から定員をはるかに超える、50人近い参加者が集ったのですから、いかに茅葺き屋根の関心が高まっているかがうかがえます。
 私も社員達と共に、研修会に参加しました。



 屋根葺きは、破風(はふ)と呼ばれる屋根の側面から始まります。この破風の収め方に、五箇山の特徴が凝縮されています。鋏を使うことなく、茅の自然ななりのままに束ねていきます。これが五箇山独特のなんとも言えない温かみのある屋根の表情を作りだすのです。



破風の部分に何重にも茅の束を積み重ね、そして藁縄で結束していきます。何重にも結束されることで頑丈で耐久性の高い屋根に仕上がっていきます。



 破風の取り付けの次に、屋根尻と呼ばれる軒の部分にアサギを結わえていきます。



アサギの束を荒縄で結わえていきます。金具を使うことなく、全て身近な植物由来の材料で組み立てられてきたのがかつての家屋です。その土地の自然の材料を使って自然になじむ家屋が生まれ、そしてそれは家としての役目を終えた後には、その土地の土に帰していきます。
 そんな素晴らしい住まいが、つい数十年前までずっと受け継がれていたことを感じます。



そして、屋根尻のアサギの取り付けの後は、ようやく茅を葺いていきます。下から上へ、何重にも結束し、重ねていきます。こうして雪国の風雪にも耐える屋根が出来上がってゆくのです。



 破風、そして茅の平葺きに取り掛かったところで、今回の技能研修はタイムリミットとなりました。
 体験できて本当によかったです。何事も、実際にやってみなければ前に進みません。



 11月の五箇山。刈りたての茅を家の周りに立てかけた雪囲いの景色が見られます。



 雪囲いの風景。屋根から壁面まで、全てが茅に包まれます。



 茅葺きの風景を支えるススキ茅。集落の風景はその土地の気候風土と暮らしが作りだすということを改めて痛感させられた研修会となりました。

 世界遺産に指定されたこの五箇山の茅葺き屋根、しかし、後世に伝えるべきことは、遺産としての屋根ではなく、土地の自然の中で育まれた文化と暮らし、そしてその結果として生み出されたのが、この美しい集落の風景なのです。
 形ばかりを残しても仕方ありません。自然と共生した永続的なかつての暮らし、その中で育まれてきた文化、と風景、私たちが今後、永続できない今の文明を乗り越えて、新たに永続的な暮らしを手にするために必要な知恵、そんなものが茅葺き屋根の風景の向こう側に隠されているようです。

 お世話になりました地元の皆様、そしてご指導いただきました茅葺き職人の皆様、この企画を開催されました日本茅葺き文化協会の皆様はじめ、関係者方々に心より御礼申し上げます。



投稿者 株式会社高田造園設計事務所 (2011年11月22日 19:28) | PermaLink